12 嘘と内緒
いよいよこの物語のタイトルの本当の意味が、ほんの少しだけ明らかにされます! ここまで長かった!!!
子どもが立ち去るのにあわせて海がその場を立ち去ろうとしてきたので、コノハは慌てて彼女の肩をつかんだ。
「ちょっと、いいかしら」
海が振り返る。
彼女は心ここにあらず、といった表情をしていた。
いつも見ている。そして知っているはずの彼女が目の前にいるはずなのに、とても遠くにいるような違和感を覚える。
初めてコノハは、海のことをもっと知りたいと思った。
「……あんた、あの子と知り合いなの?」
「まあね」
知られたくなかったのか、目をそらしながら彼女はうなずいた。
「名前は?」
「……さあ」
「知ってるんでしょ?」
知っているみたいな雰囲気だった。それはわかっている。だが何を知っている?
「あたし、前に言ったわよね? あたしの家庭の事情に無断で入り込んだこと、忘れたわけないわよねって!」
海の表情が少し歪む。
苦しそうな顔だった。今まで見たことのないくらい、つらそうな。
やっぱり、やっぱり何か。
「誰にも……言わないから」
なんとかそう言葉を紡ぐ。
あの顔をコノハは知っている。あれは――、あれはそう。救いを求めるような表情だ。コノハだって、毎日見ていた。
鏡越しから、毎日。
海は、ふっと笑った。
その笑顔があまりにも普通だったから、少しコノハはあっけにとられる。
海はその場に腰かけた。
「ねえ、コノハはさ。人間がどうして嘘をつくのか、その理由を知ってる?」
「何よ、いきなり」
「いいから」
「………」
その質問にどんな意味があるのか。
コノハはいぶかしみながらも、腕を組んで考えてみる。
「嘘をつくなんてそんなの、人に知られたくない秘密とかを、守るため……なんじゃないの?」
「わりといい線言ってるね」
「この質問に何の意味があるのよ」
「別に意味なんてないよ」
海は中庭に寝転んだ。
校舎のあいだから見える空は、とても青く澄んでいる。雲ひとつない、とてもきれいな青空。
「嘘ってさ、内緒の始まりなんだよ」
「……何その、嘘つきは泥棒の始まりみたいな言い方」
「違う。泥棒なんかの始まりじゃない。嘘をつくってのはさ、経緯はどうあれ。人に知られたくないからつくんだよ。それが嘘は内緒の始まり理論」
「理論……」
嘘は内緒の始まり。
それは海がずっと考え続けていた、"彼"から教わったことだった。
永井コノハは家庭の事情を知られたくなくて、平気なフリをし続けるというウソをついた。
須藤遥は兄に暴力を受けていることを秘密にしていた。
渡良瀬徹は学生のひとりに脅されていたことを内緒にしていた。
赤石杏子はストーカー被害に遭っていることを黙っていた。
みんな、みんな嘘つきだ。
そして、自分自身も。
「さてと、そろそろ戻るか。お昼終わるよ」
「……ええ、そうね」
もうそれ以上、コノハは何も聞いてこなかった。
それでいい。
そのままでいい。
海は秘め事に蓋をして、校舎の中へと戻っていった。
本日は3連続投稿でした……。こ、こんなに投稿したの初めてです……。




