表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘は内緒の始まり  作者: 凪野海里
9月
77/126

10 リボン

「わたしに、兄はいない」


 海さんはつぶやいた。いや、というよりは言い聞かせているみたいな。

 そういえばあの夏祭りのときもそうだった。


 そんなものはいない、とおびえるように言い切った彼女。


「そんなことより、体育祭! ほら、早く結ぶぞ!」


 海さんが僕の目の前でピンッ、と赤いリボンを張った。

 僕の左足、海さんの右足にリボンが結ばれる。


「左目が見えないなら、わたしがキミの左目になる。何度も練習したし大丈夫だろ。あとかけ声、忘れてないよね?」


「いち、に?」


「それ」


 僕らは顔を見合わせてうなずきあう。



***



 雪と海が走り出した。練習では散々転んだくせに、とても息のあった動きだ。


「ねえ」


 名前を呼ばれて顔をあげると、気に入らないヤツがそこにいた。木に寄りかかるようにして、自分を見下ろしている姿がなおも腹立たしい。

 チッと舌打ちする。


 何か用?


 敵意をむきだしにして問いかけると、そいつはふっと笑った。

 出会った当初からそいつは気に入らない。何か事情を知っているような、そんな目をしてきているのがなおも気に入らない。


 嫌い、嫌い、嫌い、嫌いだ。


「用はないよ、別に。でもおまえ、ほんと嫌な目で見てるから」


 それはどっちに対してか。


 まあ別にどっちでもいっか。


「そこまでして嫌いなのか?」


 別に


「じゃあいつも通りの笑顔でいればいいのに」


 作り笑いの笑顔で、って言いたいのかな


「そうだね~」


 やっぱり嫌いだ。



***



 まあまずまずの結果だな。


 3の旗を掲げながら、海はそんなことを思った。


「とりあえず転ばなくてよかった~」


 隣でほっと息をついている彼を見て、「たしかにね」と言っておく。

 彼は今、海がついさっき結んだリボンをほどきにかかっていた。海が簡単にははずれないように堅く結んでしまったせいで、いつまでたってもほどけない。

 挑戦して早々にあきらめた海に代わって、雪がほどいている。


「ん……と、よしほどけたよ」


 赤いリボンがほどけた瞬間、足が少しだけ軽くなった。


「ありがと」


「すごい堅く結んだんだね。めちゃくちゃほどきにくかった」


 赤いリボンをひらひらと振りながら、彼はそう言って海にリボンを渡してきた。


「じゃなきゃはずれるだろ?」


「まあたしかに」


 手のひらにあるリボンを、海は見つめる。


 こんな小さな物で簡単に結ぶことができるのだ。


 けれど一度失ってしまったものは、二度と結ぶことはできない。


 目に見えればいいのに。


 人の結び付きとか、信頼とか。目で見ることができたら、あんな風にきつく、堅く、しばって結んで、二度とほどけないようにできるのに。


「海さん?」


 心配そうに見つめてくる彼に、海は笑った。


「なんでもない」


 まもなく、退場の命令がくだされた。

 あと1年生と2年生の二人三脚が終われば、いよいよお昼だ。


「戻ろう」


 海が言うと、雪は「うん」とうなずいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ