9 体育祭
夜中投稿なんて初めてかもしれない……なんて思ったけれど、もしかして何回かしているかもしれない。あまり覚えていない……
なんやかんや色々あったけれど、体育祭は開始された。
みんなで作った横断幕をフェンスに飾り付けたり、何人かの生徒たちはチアをやったりして、いつもの学校はとても華々しいものとなった。
空は雲ひとつない、快晴。まさに「絶好の体育祭日和」ってやつだ。
まあでも最近、なんにでもすぐ「○○日和」ってつけたがるなぁって思う。遠足日和だとか、文化祭日和だとか。
晴れていればなんでもいいのか。
メインとなる校庭中央付近の頭上には、様々な国の小さな旗が風によってはためいている。いつも使う校舎には、3階のベランダに今年の体育祭のスローガンなるものが掲げられていた。
あきらめるな、絶対!
安っぽい文句だなぁと思ってしまったのは内緒だ。
「これぞ体育祭! って感じだね」
篠田はだいぶ興奮ぎみで、いつもより一段と声が大きい。
いつもの学校は、机に向かってがりがりと勉強するばかりでつまらないけれど、やっぱり祭りは楽しいのだろう。
僕も少しだけうきうきしている気がする。
開会式から始まった体育祭は、たった今。学年別による男女混合100メートル走が終わったところだ。小田くんが汗を流しながら、ガッツポーズを決めた。彼の手には「1」と書かれた旗が風で揺れている。
B組は絶好調だ。
「続いて、プログラムナンバー5。男女別二人三脚リレーです」
さっきまで100メートル走がおこなわれていたそこは、あっという間に二人三脚の流れに持っていかれ、学年も様々な女子たちがわらわらと校庭中央へと集まっていった。
まずは女子から、3年生、2年生、1年生という順番で走ることになっている。
僕はよいしょ、と立ち上がった。
隣に座っていた篠田がふっ、と顔をあげて僕に笑いかけた。
「頑張ってね」
「まあ努力はするよ」
「あー、弱気はいけないんだ! ねえねえ、徹くん! 雪がまた弱気になってるよ!」
「はぁ? そんなヤツは~」
「ええ、ちょ、ちょ、待って。待って!」
徹くんの目がいたずらモード全開だ。こうなってしまった彼はすごく面倒くさい。僕が思わず後じさりをすると、背中に誰かがあたった。
「あ、ごめ」
振り返ると、海さんが腰に手をあててあきれた様子で立っていた。その手には、二人三脚に使うための赤いリボンが握られている。
「ふざけてないで、早く行くぞ」
「ごめん」
彼女に腕を引っ張られて、僕は入場門前へやってきた。
入場門は美術部のお手製だ。3メートルくらいはあるだろうかという高さの太い棒が2本建っていて、どちらにも「入場門」と書かれている。
「すぐ結ぶんだっけ?」
「入場してからだよ。雪、合図は覚えてるよな?」
「うん。いち、に。だよね?」
「それ。声張った方がいいかも。ただでさえ応援とかでうるさいし」
「わかった」
簡単な打ち合わせをして、僕らは入場門越しから校庭の中央を見つめる。
2年生に選手が変わったらしく、着ている体育着の袖にある学年カラー(青色だ)が目立ち始める。
僕は海さんの横顔を見つめた。
女子にも、男子にさえも見えるその横顔。他のみんなとは違って、体育祭を楽しんでいるという雰囲気はみじんも感じないほどの、厳しい目付きだった。
彼女が楽しそうにしているところ、そういえばあまり見たことがない。
出会ってからだいたい4ヶ月ちょっと。こんなに一緒にいる機会が多いのに、僕はいまだに「遠藤海」について何も知らない。
「ねえ、海さん」
「ん?」
僕に名前を呼ばれた彼女は、顔をこちらに向けてきた。
「変なこと聞いてもいいかな」
「気が散るような内容じゃなければなんでも」
「……じゃあやめとく」
「は?」
「え?」
「気が散るような内容なのかよ」
「いや、場合によっては。かな? ごくフツーの会話だとは思うけど。友だちにあるある、な」
「友だちにあるあるな、ごくフツーの会話のどこに気が散るような内容があるわけ?」
え、なんで僕責められているんだ?
海さんの顔をまじまじと見つめていると、彼女はあきれたようにため息をついた。
「変なこと言ったのはわたしだな。はぁ……もういいから話していいよ」
「ああ、うん……。じゃあ聞くけどさ、」
僕は海さんの表情を観察しつつ、その先を続ける。
「海さんって、お兄さんいるの?」
瞬間、世界が止まったような気がした。
海さんの両目は見開かれ、僕を見つめている。けれどそこに僕はまるで存在していないかのように、何か別のものを見ているような気がした。
「あ、えっと……。前に体育倉庫に閉じ込められたことあったじゃん? そのとき海さん、お兄さんに助けを求めてたし。あと、ら、ラムネで酔ったときにも、お兄さんの話」
ピッピー、というホイッスルの音が、僕と海さんを現実に引き戻した。
前列に並んでいた人たちがいっせいに歩き始める。海さんも歩きだした。
僕は慌ててそのあとをついていく。




