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嘘は内緒の始まり  作者: 凪野海里
9月
74/126

7 練習

 3日後、結局僕らを閉じ込めた犯人はわからないまま、まあ僕としてはもうどうでもいいことなのだけれど、そんなことよりもっと重大な問題が発覚してしまった。


 僕ははぁ、とため息をついてペットボトルのお茶を飲んだ。


「タイミング全然合わないな」


 海さんが困った顔をしながら、僕の右足につながっている紐を結びなおした。今は二人三脚の練習をしている最中だった。他のみんなもそれぞれの競技の練習にいそしんでいるようで、忙しいみたいだ。


「呼吸が合わないことにはどうしようもないんじゃない? たとえば掛け声とかさ」


 篠田が的確なアドバイスをしてくれるけれど、それはついさっき試したばかりだった。海さんと僕が一緒になって「1、2。1、2」みたいな感じで。だけど肝心なところでいつもずれてしまうのだ。

 もしかしたら掛け声以前の問題なのかもしれない。


「だったら位置変えるとか?」


「ああ、そうしてみる?」


 海さんがさっそく紐をほどいた。僕が移動して今度は左足に紐が結び付けられた。海さんから見れば右だ。僕が立ち上がって、海さんの手をとって立ち上がらせた。

 それを見て篠田が、まるで徹くんみたいなからかうような笑顔を向けてくる。


「あっついねぇ」


「何が」


 篠田がにやにや笑ってくるのを、僕はあきれながら見て、海さんと肩を組む。


「さっきみたいに掛け声してみる?」


「一応。タイミングつかみやすいだろうし」


 トラックまで歩いて向かって、走り出す姿勢をとった。


「せーのっ」


 僕が左足を踏み出したと同時に海さんも右足を踏み出した。


「おわっ」


「え」


 ところが足がもつれて、そのままからむようになってあっという間に倒れてしまった。頭と背中ががつん、と地面にあたった衝撃が強くて、一瞬星が散った。


「いってて……あ」


 頭をおさえて目を開いたのもつかの間、仰向けになった僕の上に、海さんが倒れていた。その距離、約15センチ……。

 や、やばい。色々な意味でやばい。

 僕が黙る上で海さんも何も言わずに口を引き結んでいる。その顔がだんだん赤くなっていくのは、僕だけしか知らないことか。あるいは彼女は気付いているのか。


「ど、どけよ」


「いや、海さんがどいてくれないと」


「2人とも、何してんのぉ?」


 篠田が視界の端からこちらに向かって走ってくるのがわかった。


「い、いいから海さ」


「ちょ、待っあ」


 起き上がろうとした瞬間、慌ててどこうとした海さんと足がもつれあって、僕はまた倒れて海さんがその上に。

 柔らかい、唇に。


「ねぇ、2人とも」


 瞬時に僕らは距離をとった。


「どうしたの?」


 やってきた篠田が不思議そうな顔をしながら、僕と海さんを交互に見て首をかしげる。


「な、なんでもない」


 僕は口をおさえて、篠田から目をそらした。彼女がはてな、といった感じで首をかしげる。海さんは自分の口を両手でおさえて、顔はどんな風なのかは見えなかった。うつむいて、前髪で隠れていてよく見えない。


「それにしてもうまくいかないね」


「うん……」


 僕は、さっき海さんとからまった拍子でほどけてしまった紐を見た。どうすればうまくできるのだろうか。


 そのときだった。


「なぁ、雪」


 僕らのもとへと円城くんが車いすに乗って近づいてきた。彼は足が使えないから体育祭にでることはできない。その代わり、色々な雑用を任されている。


「何?」


 僕が立ち上がると同時に、左側に衝撃が走った。思わず左をおさえて、僕はうめくようにその場に倒れた。


「雪!」


 篠田の声と海さんの声が同時にした。


「だ、じょうぶ……」


 何が起きたのかわからなかった。


「おいお前!」


 僕が左をおさえたまま顔をあげると、海さんが円城くんにつかみかかるところだった。


「だ、大丈夫だから!」


 ここで喧嘩をされては困るから僕は慌てて2人のあいだに割って入った。騒ぎを聞きつけたのか、クラスメイトたちがあっという間に集まってくる。

 犬のようにうなり声をあげて円城くんをにらみつけている海さんをおさえつつ、僕はもう一度円城くんを見た。

 彼も僕を見ていた。


「なぁ、雪」


 彼にしては珍しく、神妙な顔つきだった。


「お前もしかして。左、見えてないんじゃないのか?」

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