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嘘は内緒の始まり  作者: 凪野海里
6月
50/126

15話 自由行動

 2日目になった。



 今日は各班での自由行動の日だ。僕は徹くんと一緒に女子が来るのをロビーで待っているあいだ、彼と一緒に色々とくだらない話をしていた。

 そのとき、僕はふと思い出した。



 そうだ、円城くんのことを徹くんに話しておかなきゃ。



「あの、徹くん」



「何?」



「待たせてごめんねー」



 後ろで篠田の声がしてそちらを向くと、女子たちが来ていた。海さんも一緒だ。どうやら結局、海さんは昨日篠田や須藤さんのもとにいたらしい。

 あれ、須藤さんって海さんが女子なの知ってたっけ? まあきっと、篠田が教えただろう。



「じゃあ、出発しよっか」



「そうだね。ところで雪くん。今、何を言いかけたの?」



「え!? あ……わ、忘れちゃった。思いだしたら話すよ」



「あ、そう?」



 みんながいる前で、この話はよしたほうがいいかもしれない。そう思って僕は言葉を濁した。





 僕は班員が揃ったことを舟久保先生に伝えて、先生から自由行動の許可をもらってから、みんなと一緒にホテルを出た。



「で、最初はどこに行くんだっけ?」



「金閣寺だよ」



 歩いていくと時間がかかるから、バスを使って行くことにした。





 金閣寺に着くと、篠田が唐突に叫んだ。



「すっごーい、金色だあっ!」



「本当ね」



 篠田は興奮しながら、須藤さんと一緒に楽しそうにはしゃいでいた。カメラを片手に何枚も写真を撮りまくっている。

 僕はそんな2人を見て、思わず笑ってしまった。



「遠藤くん?」



 徹くんがボーッと突っ立っている海さんに声をかけた。



「あ、何?」



「ボーッとしてるけど、どうしたの?」



「いや、何でもないよ……。ただ、綺麗だなぁって思って」



「やっぱり遠藤さんもそう思うよね」



 篠田はかなり興奮ぎみだ。目を太陽に照らされて光る金閣寺以上にキラキラさせて、もしもこれで尻尾でもはえていようなら、間違いなくバタバタと振っていただろう。



 しかしそんな彼女とは対照的に、海さんは冷静な面持ちで「うーん」とうなりながら、こう言った。



「最初に銀閣寺行くべきだったんじゃないかな」



「どうして?」



「こんなに綺麗すぎるとさ、銀閣寺の地味さが際立っちゃうというか、ね」



「あー、たしかに」



 銀閣寺は教科書や旅行雑誌なんかで見ると、外壁は暗く、茶色っぽい色をしていた気がする。せめてあっちも金閣寺に対抗して銀色だったらよかったんだけどね。



「じゃ、そろそろ行こっか」



 僕の言葉にみんながうなずいて、出発した。



 金閣寺をでて、銀閣寺行きのバス停までの道のりを、みんなでしゃべりながら移動した。金閣寺と銀閣寺の距離はちょっとひらいているのだ。

 もうそろそろバス停に着きそうだった、そのとき。



「キャッ」



「うわっ」



 篠田の叫び声がした瞬間、僕の背中に軽い衝撃がきた。思わぬことに僕は体をよろけさせてしまい、挙げ句縁石ブロックに足をひっかけて派手にすっ転んだ。



 そこへ――。

 車がこっちに向かって。



「危ないっ!」



 茫然としている僕に、強い力が加わって後ろに引っ張られた。間一髪で僕は助かり、車は激しくクラクションを鳴らしながらそのまま通りすぎていった。

 し、死ぬかと思った……。

 僕を歩道側に引き戻してくれたのは、海さんだった。彼女も額に汗を浮かべながら、はぁはぁと荒い呼吸を繰り返している。



「はぁ……」



 あまりの一瞬の出来事に、心臓のばくばくと激しく鳴る鼓動がやみそうにない。



「大丈夫? 2人とも」



 徹くんが僕に手を差しのべてきた。うなずき、僕はその手につかまってゆっくりと立つ。



「う、ん……」



 篠田は両ひざをついてうつむいていた。どうやら倒れたのは彼女だったらしい。その拍子に僕にぶつかって、僕は車道に飛び出してしまったみたいだった。



「ごめん……、雪」



 篠田がそこで初めて顔をあげた。その顔色はびっくりするくらいを青ざめていたけど、1歩間違えれば危なかったんだから、それも当然だ。僕は彼女を安心させようと、にこりと笑った。



「僕は平気だよ。篠田こそ、怪我とかしてない?」



「大丈夫だよ……」



 笑い返す篠田の頬は、いまだ消えない恐怖のためかややひきつっていた。





 気を取り直して。僕らはそれから色々な観光名所をまわった。本当はどこか適当なところでお昼でも食べようかと思っていたのだけど、気がついたら買い食いばかりしていたせいで、そんなにいらないかなぁという話になってしまった。

 そろそろホテルに戻るか、という話になったとき、海さんが僕の袖を引っ張ってきた。



「わたし、抹茶のソフトクリーム食べたくなっちゃった」



 彼女の視線の先を見ると、そこにはソフトクリーム屋さんがあった。



「あ、旅行雑誌に載ってたね」



「そう。ちょうどそこに見つけたから食べよっかなって」



「いいね、食べよう!」



 篠田がすぐにくいつき、ソフトクリーム屋さんへ向かって走っていく。慌てて僕も向かおうとしたところで、海さんが何故か止めてきた。



「女子だけで行ってくるよ。雪と渡良瀬はそこのベンチにでも座ってなよ」



「え、でも……」



「いいって」



 海さんは僕と徹くんの手をとったかと思うと、僕らは近くにあるベンチに無理矢理座らせられた。



「それじゃ、行こう。遥」



「あ、うん」



「早くー」



 篠田はすでにソフトクリーム屋にいる。海さんは「今行くよ」と言って、須藤さんの手をとると走っていった。



「遠藤くんは人の気遣いがうまいね」



 徹くんの言葉に、僕はうなずいた。

 ああつまり、そういうことかと思って。



「どうせ雪くんのことだから忘れてないんだろ? 話ってなんだよ」



 ばれてたのか……。



 でも、海さんが気を遣ってくれたおかげで、彼と話す決心はついた。

 僕はふぅ、と息をつく。なるべく、平常心だ……。心を落ち着かせる。



「徹くん、落ち着いて聞いてね」



「ああ」



「……この前、円城小春くんに会ったんだ」



 隣で息を呑む音が聞こえた。



「……どこで?」



「学校の校門前」



「……どうだった?」



 徹くんの声が耳に届いた。僕は慎重に言葉を選びながら、彼の投げかける質問に正直に答えた。



「車椅子に乗ってた……」



「ふぅん……。いつ、復帰するんだ?」



 先ほどの楽しかったはずの空気がガラリと変わって、静かな世界が訪れたような、そんな気がした。



「修学旅行に参加できないことを聞いたから、たぶん。来月だと思う……」



「お待たせー」



 そのとき、篠田が抹茶のソフトクリームを2つ、手に持って帰ってきた。

 その後ろを歩く海さんも同じく2つ持っていた。



「はい、雪と徹くんの分!」



「ありがと」



「サンキュ」



 僕はそこで初めて横目で徹くんの様子をうかがうと、彼は普通に篠田と会話をしていた。

 動揺とか、そういうのはもういっさい見られなかった。



「雪、どうした?」



 海さんが篠田にソフトクリームを手渡しながら聞いてきた。徹くん以外のみんながこっちを見てくる。



「なんでもないよ」



 僕は笑顔をつくってそう答える。





 それからの修学旅行中。徹くんはどこか元気がなかった。終始無言をつらぬいて、僕は本当に円城くんのことを話してよかったのかと、今さらながらに後悔した。

 けど、いつかは知らなくてはいけない事実だ。それに徹くんは僕の大切な友だちだ。もし彼に何かあったら、僕はちゃんと彼を助けようと心に決めた。





 そして、季節は夏に。

 カレンダーは7月のページにめくられた。

2018/10/17現在改稿済


この先は改稿をしていません。

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