14話 修学旅行2
初日が終わるのはあっという間だった。篠田は色々な店に立ち寄っては須藤さんや海さんと一緒に食べ歩きを満喫していた。
というか彼女、食べ歩きしかしてなかった。
「うーん、おいしかったあ!」
篠田は何気に八つ橋を2箱も3箱も買っていた。本来の目的は清水寺のはずなのに、何故かそこまで行くのに、僕らの班は1時間もかかってしまったのである。
「清水寺から見る景色、最高だったね」
旅館への移動中のバスで僕が言うと、海さんは「そうだね」とうなずいた。
「あんな景色、そうそう見られるものじゃないよ。でも、高いっていうのもけっこう……」
海さんの顔が、何故かだんだんと真っ青になっていく。
あ、あれ?
「大丈夫?」
「平気だよ……」
「あっれー? 遠藤さんってまさか高いところも苦手なの?」
後ろで早速徹くんがからかった。
「え、いや、そういうわけじゃなくて……」
しかし海さんの表情は晴れない。それどころか、むしろますます真っ青になっていくような……。
「やっぱ苦手なんじゃね?」
「だ、だから違うってば!」
海さんは慌てたように怒鳴って、恥ずかしそうにそっぽを向いた。
まさか彼女のそんな一面が見られるとは思わなくて、つい面白くなって僕らは笑ってしまう。
まあそのせいで、海さんの機嫌はだいぶ悪くなってしまったけど。
***
「それじゃね、おやすみー」
「ばいばーい」
旅館で夕飯を食べ終えたら、女子とはここでさよならだ。
僕らは篠田と須藤さんに別れを告げて、自分たちの部屋に向かっていく。
徹くんを先に行かせて、僕はそっと隣にいる海さんに耳打ちをした。
「ねえ、大丈夫?」
「何が」
彼女は僕のほうを見ずに平然としながら聞いてきた。
「だって海さん、じょ」
女子、と言いそうになった口をバシンッと思い切り強く叩かれるようにふせがれた。
口や頬がじんじんしてきてめちゃくちゃ痛い。
「黙ってろ」
「でも」
「ふたりとも何してんの?」
こっちを向いて首をかしげた徹くんに、海さんは慌てて「何でもないよ」と答えて、僕から手を離した。
「雪の頬に虫がいたんだ」
本当に大丈夫なのか? これ。
海さんは僕らが泊まる予定の502号室まで一緒についてきてしまった。
ほ、本当に大丈夫なのか!?
そのときだった。
「って、待って待って!」
後ろから聞きなれた声がして振り返ると、女子の部屋に戻ったはずの篠田がこっちに向かって走ってきている。
「遠藤さんにちょっと用事があるんだぁ」
「え?」
驚いたのは海さんだけじゃなくて僕もだ。けれど篠田は僕らの反応なんて気にも留めずに、海さんの腕をがしっと強くつかんだ。
「え、ちょ」
「お願い、ちょぉっと来て!」
「ま、おい」
篠田は女子とは思えないようなすごい力で、海さんをぐいぐいと引っ張っていく。
そういうことか、と僕はピンときた。
きっと篠田は海さんを、僕ら男子から離れさせようとしているんだ!
「い、行ってきなよ!」
「おいこら、雪! ふざけんなって」
海さんは抵抗しようにも、結局篠田の力に逆らえなかったのか、あるいは海さん自身がむげに扱うことができなかったのか、その姿はあっという間に道の角に消えて、見えなくなってしまった……。
ふぅ、一件落着だ。
傍で状況がわかっていなかった徹くんだけが、「何あれ」とちょっとあきれていたけれど。




