13話 修学旅行
後日談。
須藤兄は連行された警察署で、こう自白していたらしい。
「暴力を振るなんていけないことだってわかってたけど、なんか色々むしゃくしゃして。受験のストレスとか、父さんも亡くなったから、色々不安になって……」
須藤さんが言うには、須藤兄はしばらくの間、父方の親戚の家でお世話になるそうだ。
「ねぇ、海さん。本当にこれでよかったのかな」
家族が離ればなれになって暮らすこと。それは言ってしまえばなんてことのないことかもしれないけど、予想以上にダメージを与えるものかもしれない。
家族なのに、別のところにいる。一緒のはずなのに、物理的にも精神的にも、遠くにいる。
それは果たして、ハッピーエンドといえるのかどうか。
海さんはそっぽを向きながら言った。
「知らないよ、そんなの。家族が一緒に暮らさなくちゃいけないとか、必ず決まってる訳じゃない。それに遥を見てると、前よりずっと明るくなったと思う。だから個人的にはこれでよかったんじゃないかって思うよ」
海さんの言葉を聞いて、僕は思わず須藤さんを見た。彼女は篠田と一緒の席に座りながら、楽しそうに何か話していた。
彼女の笑顔を見て、僕も確信する。
うん、たしかにそうかもしれない。
今は修学旅行の最中。電車や新幹線を乗り継いで、僕らは京都駅までやってきた。そこからバスに乗って、今から清水寺に行くんだ。
「楽しみだね」
前の席にいた篠田が軽く振り向いてきた。僕は「うん」とうなずく。
篠田は僕の隣の席の、海さんを見た。
「遠藤さんは、京都初めて?」
「うん、まあ」
「そういえばこの前、方向音痴って言ってたよね。大丈夫なの?」
「へえ、そうなんだぁ」
篠田の言葉に反応したのは、僕らの席の後ろで1人の席を満喫していた徹くんである。彼はにやにやと笑いながら、席を立って僕らの椅子に前のめりになって寄りかかった。
海さんが慌てて言い返す。
「だ、大丈夫だよ!」
「でも京都と奈良ってかつての日本の中心地でしょ? 道とか入り組んでて絶対に迷子にならないって保証はないよね?」
「うっ……」
海さんが珍しく動揺しているのを、僕と篠田と須藤さんは笑いながら見ていた。
徹くんはこうやって人をからかうのが本当に好きなのだ。
「着きましたよ」
舟久保先生の声に、僕らは一斉に窓に張りついた。坂が上の方まで続いている。テレビや雑誌などで見た、あの清水寺だ!
バスはまもなく、駐車場に停まった。
「今14時だから、2時間後にこの駐車場に集合してね」
「はーい」
僕らは先を争うようにしてバスを出る。
すると目の前に広がっていたのは、どこまでも続く急な坂道だった。京都随一の観光名所である清水寺に続く、清水坂。
そこでは、日本人だけでなく、様々な外国人が歩いていた。
「すっごーい!」
「で、最初どこ行く?」
僕はウキウキしながらみんなに聞いた。篠田も目をキラキラさせていて、須藤さんもあんなことがあったけど、今は本当に楽しそうにしている。
一方で徹くんは、いつも通りのマイペースぶりを発揮していた。
「うーん、まずは八つ橋じゃね?」
「そうだね」
徹くんがすたすた歩いていくなかで、海さんも冷静な口調で返しつつ彼のあとを追って歩き始めた。
あの2人はそろってマイペースだなぁ。
「2人とも、待ってよー」
篠田が慌てて前を行く徹くんたちを追いかけていった。
僕は須藤さんと一緒に、ゆっくり歩くことにする。
何を話すべきかとちょっと悩んで、けど彼女とする話題といったらまずは怪我の具合を聞くことが1番だなと感じた。
「怪我はもう大丈夫なの?」
「うん……」
「よかった」
「うん」
須藤さんは僕の言葉にうなずくだけだったけど、嬉しそうな、ほっとしているような顔をしていた。
それにしても、いい天気だ。もう梅雨の時期だから雨が降るんじゃないかって心配してたけど、天気予報は今のところ。3日間とも晴れ続きの予報をしている。
「2人とも早くー」
篠田が僕らに向かって手を振っている。前を行く3人はすでに八つ橋の店にいた。
「はーい」
僕は元気よく篠田に返事をしつつ、須藤さんに向かって手を差しだした。
「行こ」
「うん」
須藤さんはどこかためらいがちに僕の手をとってきた。




