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嘘は内緒の始まり  作者: 凪野海里
6月
44/126

9話 「ぼんぬ~る」2

 しばらく月野くんを待って、僕らは無言の時を過ごす。大学の受験をひかえて、けれどそれに失敗した須藤兄。もしかしたら原因はそこにあるのではないだろうか。



 やがて月野くんは戻ってきて、話は再開された。



「どこまで話したっけ?」



「良太さんが受験に失敗して引きこもったあたりまで」



 海さんの言葉に月野くんはうなずいて、その先を続けた。



「話によると、1か月くらい引き込もってから、良太さんは部屋からでてきたらしい。そのときのことは俺もよく覚えてる。須藤が嬉しそうな顔をしながら俺の席にやってきて言ったんだ、『お兄ちゃんがやっと吹っ切れたみたい』って。俺も嬉しかった。やっと須藤がいつもの須藤に戻ってくれたって」



 しかし彼の表情は再び暗い影を落とす。



「けど所詮は、幻影だったのかも」



 幻影?



「それからしばらくして、須藤が俺の店にやってきたんだ。そのときは学校でもしばらく会ってなかったな。急に休みがちになってさ。久しぶりにあったあいつは、けっこう痩せてた。こっちが驚くくらいに」



 それを聞いて僕も思いだした。

 そうだ、去年。須藤さんが急に休みがちになったことがたしかにあった。久しぶりに学校に来たかと思えば、月野くんの言ったとおり、すごい痩せ細った姿で登校してきたのだ。



「何があったんだって理由を聞いても答えてくれない。俺、すっごい心配した。もしかしたら何か危険な目に遭ってるんじゃないかって。でも、わからなかった。そっか、やっぱりそうだったんだ……」



 月野くんは納得したような顔をした。



「何がやっぱりなんだ?」



 海さんが首をかしげる。



「はるちゃんが良太さんに暴力を受けてたことだよ」



「知ってたの!?」



 驚いて思わず聞き返すと、月野くんは少し自嘲ぎみに笑った。



「知っていたというか、なんとなくわかっちゃうんだよね。たまに町中で会う良太さんが怖くなった気がして。なんというか、笑顔が薄っぺらいというか、怖いというか。それで確信しちゃったんだよ」



 言われて僕は思い出した。

 たしかに須藤兄の笑顔は、一目見るだけでは当たり障りのない、好青年な笑顔のそれだった。だけどその裏では何を考えているのかわからないような、不気味さを兼ね備えていて、正直恐ろしかった。

 ましてや月野くんは、ずっと昔。小さい頃から彼や須藤さんを見てきたからわかったのだろう。もしかしたら、幼なじみだと見えてくるものがあるのかもしれない。



「せめて、なんとかして助ける手段があればいいんだけど」



「残念だけど、助けるのはほぼ不可能だと思った方がいいよ」



「どうして?」



「そんなの簡単だよ。須藤遥がまだ、あのお兄さんを大事に思っているからさ。余計なことをしてみろ。あの兄妹は下手したら、一生一緒に住むことができないかもしれないよ」



「どうにもできないの?」



「手は、考えてるけど……」



 海さんは何か考え事をしているかのような様子で、自分の顎に手をあてていた。



 話はここで終わった。



「とりあえず。今日はありがとう、月野。おかげで良い情報が聞けた」



「……助けになれたのなら、何よりだよ。俺には何もできなかったから」



「そんなことない」



 海さんが立ち上がる。



「実際キミは須藤遥を気にかけてる。そしてよく見てる。そういうのはすごく大事なことだ。特に辛い目にあっている人間にとっては、ある程度心が軽くなる。少しでも彼女に話しかけてあげるといい。それだけで、楽になれる瞬間はたしかにあるから」



 僕はその言葉を聞きながら、なんだか感動してしまった。



「海さんって、人のこと気遣えるんだ……」



 と言った瞬間、思い切り頭を殴られた。

 痛っ!



「どういう意味だよ、それ」



「ご、ごめんなさい」



 海さんから怒りのオーラが見える……。僕がへこへこ謝っていると、月野くんがクスッと笑った。



「ありがとう、2人とも」



 月野くんに見送られるかたちで、僕らはお店をあとにする。ちょうど「ぼんぬ~る」も店じまいらしい。彼の父親らしい男の人がシャッターを閉めようとしていた。軽く会釈をしておく。



「それじゃあな、月野」



「また明日……」



 手を振る僕らに、月野くんは微笑んでそれに答えてくれた。

 そうして僕らは「ぼんぬ~る」を、月野家をあとにした。

2018/10/14現在改稿済

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