7話 須藤良太2
電話してから5分と経たずに玄関のチャイムが鳴った。
須藤さんより先に海さんが部屋をでていって、戻ってきたときにつれてきたその人物は、篠田だった。
むろん、呼んだのは僕だ。
篠田は意気揚々といった感じで「おっはよー!」ともう夜になりかけているというのに、大きな声を張り上げて部屋に入ってきた。
手には見慣れたケーキの箱。
「ちょうど駅前の『ぼんぬ~る』にいたときに電話かかってきたからさ、ついでにケーキ買ってきちゃっ……って大丈夫!? 須藤さんのその怪我!」
「し、篠田さん……」
「篠田、声抑えて」
「あ、ごめん」
篠田は慌てて、手で自分の口をふさいだ。
ちょっと明るすぎたか? もしかして。
「よし、これで少しは空気が明るくなったっしょ」
そんな僕の心配とは裏腹に、海さんは満足そうに笑っていた。
けど、すぐにその顔も真剣なものへと変わる。篠田を見て、「下、どんな様子?」と聞いたのだ。
篠田も「ああ」と何か知っているらしい、納得した顔を見せる。
「あの人でしょ? こっわーい顔の男の人。あたしが家のチャイム鳴らしたらすぐに出てきたよ。待ち伏せでもされてたのかと思うくらいに、すごいタイミングで。思い切りドアを開けてきたから、鼻にぶつかるかと思っちゃった」
「チッ、まだいんのかよ」
海さんが軽く舌打ちをした。
「ごめんね、お兄ちゃんが……」
「あの人、須藤さんのお兄さんなの?」
「うん……。それとたぶんだけど、お兄ちゃん。遠藤くんたちがいなくなるまで、ああやっていると思うの」
そんな……。
これでもし僕らが帰ったら、果たして須藤さんは無事でいられるのだろうか。
篠田が「あのさ!」と声を張り上げて、ケーキの箱をどんっ、とやや乱暴にテーブルの上に置いた。
「ケーキでも食べて落ち着こうよっ!」
今ので形、崩れなかったか?
心配になったけど、篠田が箱からケーキを取りだしたとき、特に形がおかしくなったりはしていなかった。
箱からはショートケーキ、チョコレートケーキ、モンブラン、……これは緑だから抹茶のケーキか。全て違う種類のケーキが姿を現した。
篠田はウキウキしながら須藤さんに「どのケーキにする?」と聞く。
「じゃ、じゃあモンブランを……」
「オッケー」
篠田はモンブランを須藤さんに渡すと、続いて僕はチョコレートケーキ、海さんは抹茶ケーキ、そして篠田はショートケーキを選んだ。
付属してあるプラスチックのフォークを手にとって、僕らはケーキをいただいた。
一口食べた直後、篠田が嬉しそうな声をあげる。
「ん~っ! さっすが、月野くんの家のケーキ屋さん」
「さっきのプリンも、月野の家のだよね? たしか」
海さんが何気なく言った一言に、篠田がすごい勢いでこっちを見た。
「ウソッ!? あたしに内緒で先に食べてたの? 信じらんないっ!」
なんか殺気立ってる……。
知らないふりをして、僕は須藤さんに笑いかけた。
「やっぱり、月野くんの家のケーキ、おいしいよね」
「小さい頃、よくお兄ちゃんと月野くんの3人でモンブラン作ったな……」
なんか、こっちはこっちで重い空気に戻ったぞ……。
きっと、須藤さんのお兄さんはまだ、階段の下で僕らのことを見張っているのだろう。いつ僕らが帰るのか、それを今か今かと待ち受けて。
あるいは、このドアの向こうですでに……。
「遥」
と考えてるうちに、突然ドアが開かれたものだから、僕は驚いてそちらを見た。
開かれたドアの向こうから現れたのは、やっぱり須藤さんのお兄さんだった。
「もう6時になる。そろそろお開きにしないと、相手方のご家族も心配するだろう」
須藤さんのお兄さんはにこにこと笑みを浮かべながら、実の妹にそう話しかけた。
そこには、殺気や敵意といったものがいっさい無い。
「あ……、そうだね。うん、ごめんなさい、みんな。今日は来てくれてありがとう。篠田さんもごめんなさいね。せっかく来てくれたのに追い返しちゃう形になってしまって……」
「気にしないでいいよ」
篠田は須藤さんに笑いかけると、大きく口を開けて、残ったショートケーキを放り込んだ。
僕も海さんも慌ててケーキを口の中にいれると、帰り支度を始めた。
「明日か明後日には学校来いよ」
帰り際、海さんが須藤さんに向かってそう言った。
「もうすぐ修学旅行だしね!」
「待ってるから」
今はこうやって元気付けることしかできない……。
それが少しだけ、歯痒かった。
「またね」
須藤さんは、恐らく精一杯の笑顔を作りながら、玄関先まで僕らを見送ってくれた。
2018/10/14現在改稿済




