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嘘は内緒の始まり  作者: 凪野海里
6月
42/126

7話 須藤良太2

 電話してから5分と経たずに玄関のチャイムが鳴った。

 須藤さんより先に海さんが部屋をでていって、戻ってきたときにつれてきたその人物は、篠田だった。



 むろん、呼んだのは僕だ。



 篠田は意気揚々といった感じで「おっはよー!」ともう夜になりかけているというのに、大きな声を張り上げて部屋に入ってきた。

 手には見慣れたケーキの箱。



「ちょうど駅前の『ぼんぬ~る』にいたときに電話かかってきたからさ、ついでにケーキ買ってきちゃっ……って大丈夫!? 須藤さんのその怪我!」



「し、篠田さん……」



「篠田、声抑えて」



「あ、ごめん」



 篠田は慌てて、手で自分の口をふさいだ。

 ちょっと明るすぎたか? もしかして。



「よし、これで少しは空気が明るくなったっしょ」



 そんな僕の心配とは裏腹に、海さんは満足そうに笑っていた。

 けど、すぐにその顔も真剣なものへと変わる。篠田を見て、「下、どんな様子?」と聞いたのだ。



 篠田も「ああ」と何か知っているらしい、納得した顔を見せる。



「あの人でしょ? こっわーい顔の男の人。あたしが家のチャイム鳴らしたらすぐに出てきたよ。待ち伏せでもされてたのかと思うくらいに、すごいタイミングで。思い切りドアを開けてきたから、鼻にぶつかるかと思っちゃった」



「チッ、まだいんのかよ」


 海さんが軽く舌打ちをした。



「ごめんね、お兄ちゃんが……」



「あの人、須藤さんのお兄さんなの?」



「うん……。それとたぶんだけど、お兄ちゃん。遠藤くんたちがいなくなるまで、ああやっていると思うの」



 そんな……。



 これでもし僕らが帰ったら、果たして須藤さんは無事でいられるのだろうか。



 篠田が「あのさ!」と声を張り上げて、ケーキの箱をどんっ、とやや乱暴にテーブルの上に置いた。



「ケーキでも食べて落ち着こうよっ!」



 今ので形、崩れなかったか?



 心配になったけど、篠田が箱からケーキを取りだしたとき、特に形がおかしくなったりはしていなかった。



 箱からはショートケーキ、チョコレートケーキ、モンブラン、……これは緑だから抹茶のケーキか。全て違う種類のケーキが姿を現した。



 篠田はウキウキしながら須藤さんに「どのケーキにする?」と聞く。



「じゃ、じゃあモンブランを……」



「オッケー」



 篠田はモンブランを須藤さんに渡すと、続いて僕はチョコレートケーキ、海さんは抹茶ケーキ、そして篠田はショートケーキを選んだ。

 付属してあるプラスチックのフォークを手にとって、僕らはケーキをいただいた。



 一口食べた直後、篠田が嬉しそうな声をあげる。



「ん~っ! さっすが、月野くんの家のケーキ屋さん」



「さっきのプリンも、月野の家のだよね? たしか」



 海さんが何気なく言った一言に、篠田がすごい勢いでこっちを見た。



「ウソッ!? あたしに内緒で先に食べてたの? 信じらんないっ!」



 なんか殺気立ってる……。



 知らないふりをして、僕は須藤さんに笑いかけた。



「やっぱり、月野くんの家のケーキ、おいしいよね」



「小さい頃、よくお兄ちゃんと月野くんの3人でモンブラン作ったな……」



 なんか、こっちはこっちで重い空気に戻ったぞ……。



 きっと、須藤さんのお兄さんはまだ、階段の下で僕らのことを見張っているのだろう。いつ僕らが帰るのか、それを今か今かと待ち受けて。



 あるいは、このドアの向こうですでに……。



「遥」



 と考えてるうちに、突然ドアが開かれたものだから、僕は驚いてそちらを見た。



 開かれたドアの向こうから現れたのは、やっぱり須藤さんのお兄さんだった。



「もう6時になる。そろそろお開きにしないと、相手方のご家族も心配するだろう」



 須藤さんのお兄さんはにこにこと笑みを浮かべながら、実の妹にそう話しかけた。

 そこには、殺気や敵意といったものがいっさい無い。



「あ……、そうだね。うん、ごめんなさい、みんな。今日は来てくれてありがとう。篠田さんもごめんなさいね。せっかく来てくれたのに追い返しちゃう形になってしまって……」



「気にしないでいいよ」



 篠田は須藤さんに笑いかけると、大きく口を開けて、残ったショートケーキを放り込んだ。

 僕も海さんも慌ててケーキを口の中にいれると、帰り支度を始めた。



「明日か明後日には学校来いよ」



 帰り際、海さんが須藤さんに向かってそう言った。

 


「もうすぐ修学旅行だしね!」



「待ってるから」



 今はこうやって元気付けることしかできない……。

 それが少しだけ、歯痒かった。



「またね」



 須藤さんは、恐らく精一杯の笑顔を作りながら、玄関先まで僕らを見送ってくれた。

2018/10/14現在改稿済

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