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嘘は内緒の始まり  作者: 凪野海里
6月
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4話 須藤家2

 ここ数日、須藤さんは学校に来ていない。風邪を引いたという連絡が舟久保先生からされた。



「たしか家が近いのは雪くんだったわね」



「……はい」



「須藤さんの家にこのプリントを届けてくれないかしら」



 渡されたのは、今月末に開催される予定の、修学旅行に関するお知らせだった。

 班員名簿も一緒に記されている。



 僕は舟久保先生からそれを受け取って、「わかりました」とうなずいた。



 でも、本音を言うと。気が引けるのが事実だった。須藤さんが休んでいる理由? そんなの風邪なわけないじゃないか。この前の頬の傷。あれがすべてを物語っている。そんな気がしたのだ。



 プリントを見つめたまま、しばらくその場に立ち尽くしていると海さんが声をかけてきた。



「ねぇ、雪」



「何?」



 僕は反応する。

 海さんは僕とプリントを交互に見やりながら、「わたしもついて行っていいかな」と聞いてきた。



 彼女がついてきてくれるなら少しは心強い。永井さんのときみたいに何かやらかしはしないかと、不安もあるけれど、1人よりはだいぶましだった。

 僕は黙ってうなずいた。



「いいよ」



「そ。ならわたし、今日は掃除当番の日だから先に校門で待ってて。すぐに行くから」



 そうして彼女は僕から離れて、僕は荷物をまとめて教室をでて、先に校門の方へと向かった。

 6月にもなると、さすがに暑い。気象情報でも、梅雨前線がなんだかんだと言っていた。今日の降水確率は50%だったから降るか降らないかは微妙なところだけど、なるべくなら降ってほしくなかった。今日は傘を持ってきていないし、置き傘もあいにく、この前使ってまだ家に置きっぱなしだった。

 空がややどんよりと灰色がかっていて、雨が降る前の独特な臭いがした。



 校門で海さんを待ち続けていると、意外な人物に出くわした。

 その人は車椅子に乗っている。僕にそんな友人は存在しなかったし、クラスメイトにもそういう人はいなかった。

 けれど、その顔は見覚えのある人物だった。



「久しぶりだな、雪」



「……円城えんじょう、くん」



 その人は、円城えんじょう小春こはるだった。

 僕がまだ2年の頃に同じクラスだった生徒だ――まあそもそもB組にはクラス替えなんて存在しないから、ようするに彼もB組の生徒なのだけど――。

 会話らしい会話さえしたことがなかった。それに彼は、徹くんと同じくらいにちょっとした有名人だったし。



 去年、不慮の事故に遭ったとは人伝に聞いていたけど。



「復帰できるようになったんだ……」



 そう言うと、彼は苦笑した。



「こう見えてな。でも、修学旅行には間に合わない。せっかく京都と奈良なのに、残念残念」



「…………」



 僕の沈黙を気まずいものと悟ったのか、円城くんはゲラゲラ笑って、僕の腕をバシバシとたたいてきた。



「んな深刻そうな顔をすんなよなあ! 全然気にしてないし!」



「僕じゃなくて、その……」



「お待たせ、雪!」



 そこへ海さんが走ってやってきた。僕と車椅子の円城くんを交互に見て、はてと首をかしげる。



「って、誰?」



「あ、同じクラスの円城小春くん。休学してたんだ」



「おい、雪。休学は正しくねぇよ。ちょっと休んでただけだよ」

 


「ふぅん。あ、……僕は遠藤海。よろしく」



 海さんがしゃがんで円城くんに手を差し出した。彼はその行為に少し驚いていたようだけど、それも一瞬のことですぐに歯を見せて笑うと、その手をつかんで握手をした。



「それじゃ、俺はこれから職員室に行って先生に挨拶してくるから」



「そう。それじゃあね」



「ああ」



 そうして、僕らは円城くんと別れて、彼と逆方向に向かって歩きだした。



 道中、海さんがもしかしたら円城くんについて何か聞いてくるかなと思ったけど、何も聞いてこなかったのが少し意外だった。

 何にでも首を突っ込むタイプでは、どうやらないらしい。

 あるいは今は、須藤さんとのことで頭がいっぱいなのか。



「でも、まさか雪が須藤さんの家の近くとは思わなかったな」



「家の近くというか。須藤さんは一軒家だけど、僕は須藤さんの家から少し離れた場所にあるアパートに住んでるんだ。そんなに近くもないけど」



「そうなんだ」



 僕はうなずいた。



 須藤さんの家には行ったことがなかったけど、あらかじめ住所は確認していたため、迷わずにすぐに到着することができた。

 本当に、ごく普通の一軒家だ。周囲には他に家もある、よくある住宅街のひとつで、放課後とあってか学校帰りの小学生たちがわいわい騒ぎながら走りまわっている。

 辺りの様子をうかがいつつ、僕は須藤家の玄関チャイムへと手を伸ばした。

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