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嘘は内緒の始まり  作者: 凪野海里
6月
38/126

3話 須藤家

 家に帰るのはいつも苦しい。

 須藤遥は深呼吸を何度も繰り返しながら、ゆっくりとドアを開けた。



「ただいま……」



 家のなかは暗い。だが、玄関口には靴がそろえられている。おそらく母の物だろう。

 靴を脱いで、暗い廊下をまっすぐ進んでいくと、ガラスの重なりあう、かちゃん。かちゃん。という音が聞こえた。



 嫌な予感がする。



 そう思いながらリビングへ続くドアを開くと、遥が目にしたそこは惨憺さんたんたるありさまだった。



「おかえり、遥」



 割れた食器を片づけているのは遥の母だった。リビングを見渡すと、倒れた棚、壊れたテーブル、割れた花瓶や窓。



「また、暴れたんだ……」



「遥、手伝ってくれない? ガラスとか片づけておいて。私はダイニングやっておくから」



「わかった」



 遥はうなずいて、リビングの掃除を始めた。箒で丁寧に床を掃き、ちりとりで取った。倒れた棚を頑張って元に戻し、散らばった飾りや置物なども棚に綺麗に並べた。割れてしまった置物は箒で掃いて捨てた。



 ひと通り片付け終わったそのとき、玄関のインターフォンが鳴った。

 遥も母も気づいて顔をあげる。



「お客さん?」



「誰かしら、こんなときに。遥、でてくれない?」



「わかった」



 母の言葉にうなずいて遥は玄関へ向かった。

 ドアを開けると――。



「遠藤さん!?」



 ポニーテールのクラスメイト・遠藤海がそこにいた。

 学校帰りなのか、制服を着ている。



「やっほー、おっじゃましまぁす」



「え、ちょっと待って」



 遥は慌てて海の前に立ってその行く手を阻む。

 海はムッとしながら唇をとがらせた。



「なんだよ、須藤さん。友だちが家の中にお邪魔するのってそんなにまずい?」



「ま、まずいよ! だって遊ぶ約束とかそういうのしてないし! 家の中もすっごい汚いから。ね、ほら、帰って」



「たしかに汚いね。まるで嵐が来たみたいだ」



 海の言葉に、遥はぎくっとした。彼女は慌てて海を家の外に追い出す。



「待って、入らないで!」



「いや、追いだされたんだけど」



 遥の顔は真っ青だった。海はそんな彼女の顔をじっと見つめた。

 遥の頬には、一筋の涙が伝う。



「お願い、だから……」



「あんな状況でよく平気でいられるね」



 海の冷淡な言葉に、遥はビクッと体を震わせた。そのくらい低い声で、それゆえに怖くなったのだ。



「わたしはキミの意見を尊重するよ。でも、そうは思わない奴が必ずクラスに現れる。そのとき、キミだったらどうするだろうね」



「何が、言いたいの?」



「なんでもないよ」



 海は遥の肩に手を置いて、数度ポンポンとたたくと、その場を去っていった。

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