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嘘は内緒の始まり  作者: 凪野海里
5月
35/126

34話 中間試験2

 試験結果が発表されたのは、試験が終わってから1週間後のことだった。


「席に着け~。中間の結果返すぞぉ」


 朝のホームルームが始まるなり、秋庭先生はそう言って教室に入ってきた。

 教室のあちこちに散らばっていた僕らは、慌てて自分たちの席へと座る。

 先生がパラパラといたずらにめくっている紙の束が、おそらく成績通知表だろう。

 僕はごくん、と唾を呑み込んだ。


 試験結果が発表されるときって、結構緊張する。


「名前の順で返すからな。えーっと、青原」


「はい」


 B組の出席番号1番の青原あおはらかけるくんが席から立ち上がった。試験結果は基本、出席番号順に返される。

 僕の番号は8番だから、すぐにまわってきた。

 秋庭先生から成績通知表を受け取り、席に着く。緊張しながら通知表を開いて、全体に目を通した。


 クラス成績は25人中4位、学年成績は175人中15位。

 まぁ、いつも通りか。


「どうだった?」


 篠田の言葉に、僕は「いつも通りだよ」とホッとしつつ、そう答えた。


「私、雪の『いつも通り』がどのくらいの成績なのか、知らないんだけど」


「あ、そうだっけ」


「で、どのくらいだったの?」


 なおも聞いてくる篠田に、僕は苦笑しながら曖昧な返事と笑顔を返しておいた。

 それでも篠田はしばらく「ねぇ教えてよぉ」とねばってきたけれど、それでも頑として口を開かない僕に、彼女はしばらくの間。頬をリスのように膨らませていた。


「次、永井」


「は、はい……」


 永井さんの名前が呼ばれた。


 彼女の表情は普段では見られないような暗い表情で、かなりうつむき加減で秋庭先生のもとへと歩いて行った。

 先生から成績通知表を受け取るや、即座に自分の席へと戻った。


「どうだったんだよ、コノハ」


「あっ!」


 席へ着こうとした永井さんの手から、徹くんが彼女の成績通知表を奪い、それを開いた。永井さんは顔を真っ赤にしながら、彼の手から奪い返そうとしていたけれど、徹くんはひらりひらりとそれをかわしていく。


 やがて徹くんの口から感嘆の声が漏れた。


「すっげぇ!」


「ちょ、やだ。やめてよ!」


 永井さんはなんとか徹くんから成績通知表を奪い返し、それを守るように胸の前に置いた。


「で、実際のところ。どうだったんだよ」


「あっ!」


 続いて海さんが永井さんの横から彼女の通知表を奪い、それを開いた。海さんの背丈は永井さんより低いのに、海さんは永井さんの攻撃をまるで予測しているかのようによけながら、通知表に目を通している。


「もう、やめてったら!」


 何をやっているんだか。

 僕はそろそろあきれてしまった。

 永井さんが顔を真っ赤にして怒っていることに気づいた海さんは、彼女に通知表を返し、一言。


「心配することないじゃん」


 その言葉に、永井さんは静かにうなずいた。


 いったい、どのあたりの順位だったのだろうか。


「渡良瀬」


「ほーい」


 何が「心配することない」のかはわからないけれど、とりあえず。徹くんはいつも通りにクラス及び学年成績1位をキープし、海さんは初めての試験にもかかわらず、クラス及び学年成績3位を獲得していた。


 休み時間になると、海さんがさっそく永井さんに話しかけた。


「母親と結局何があったのか。そろそろ話してくれてもいいだろ?」


「あ、うん」


 永井さんは珍しくスマホをいじっていたけれど、すぐにその手をとめた。


「……実はママから、『学年順位で1位をとったら、B組残留を許してあげる』って、言われたの。とれるかわからなかったし、不安だったから。誰にも相談できなくって……」


「結果はどうだったの?」


 さっき永井さんから通知表を奪ってまで内容を見た海さんは、結果を知っているだろうに。

 あきれつつ、僕は彼女たちの傍へ寄って永井さんの結果に耳をすませた。


 永井さんの顔色をうかがうと、彼女はだんだんとその頬に笑みを広げていく。


「1位、とれたのよ。さっき、ママにも連絡したの……」


 喝采で沸き上がりそうになったそのとき、永井さんの机の上に置かれている彼女のスマホが、すごい勢いでパンクロックのような音楽を奏でだした。


「えっ!?」


 驚きの声をもらしたのは、僕らだけでなく、持ち主であるはずの永井さんもだった。


「私、こんな変な曲に設定してないのに」


「わたしがこの前やった」


「は?」


 海さんの言葉に、永井さんだけでなく僕も、そして周りでいつの間にか一部始終を聞いていたみんなも唖然として海さんを見た。

 永井さんの肩が怒りで震える。


「な、何やってんのよ! 人のスマホをいじるなんて非常識すぎっ!」


「そのほうが、母親からのメールだってすぐにわかんだろ。ほら、メール」


 海さんが顎でしゃくって、スマホを見るように永井さんにうながした。僕らは先を争うようにして、永井さんのスマホに集まる。

 永井さんはスマホをおぼつかなげにいじって、僕らに永井さんと彼女の母親とのメールのやりとりを見せてくれた。

「学年1位をとったよ」という永井さんの発言と、添付されている成績通知表を写した写真に対する永井さんの母親の返信はたった一言。


「今日くらいは早く家に帰ってきなさいよ」


 僕らは沈黙した。


「これ、大丈夫なのか?」


 あきれたように海さんがその場にいたみんなの気持ちを代弁するように永井さんに聞くと、彼女は「まあ、一応ね」と苦笑まじりにうなずいた。


「ママ、私と同じで性格が不器用だから。素直に喜んだりしないんだよ」


 そう言った永井さんは、これまで見たことのないような清々しい笑顔をその顔いっぱいに浮かべていた。

 5月編、これにて終了です。次からは6月編のスタートなので、何卒よろしくお願いします!

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