26話 放課後2
遠藤海は永井コノハを追いかけて東奔西走した。
いまだに慣れない学校の敷地の広さにうんざりしかけ、もはやここがどこだかわからなくなってきたところで、やっと中庭にあるベンチに座りながらぼんやりしている彼女を見つけたのだ。
「コノハ」
そう呼びかけると、彼女はこちらを向いて不機嫌な顔を見せた。
「なれなれしいわね」
「別にいいだろ。今更苗字ってのも何だかかったるいし」
「あたしもあなたのこと、海ちゃんって呼ぶわよ」
「それは勘弁して。てかキミ、そういうキャラじゃないだろ」
「そうね。この歳で女の子に『ちゃん』付けするなんて、気持ち悪いもの」
コノハがベンチの隣を勧めてきたので、海は遠慮なくそこに腰をおろした。
しばらく互いに黙りあったまま、ぼうっとしながら中庭を見つめる。放課後なので誰もこの場を通っていく者がいなかった。明るい夕陽の光が中庭に差し込んできて、いささかまぶしい。
やがてコノハが口を開いた。
「何か用?」
「別に。何の用もないけど」
海はそう言ってポケットの中から一通の手紙を取りだす。コノハは首をかしげ、思わず「何それ」と聞いてしまう。
「手紙だよ」
「手紙?」
「そ。今朝、学校に着いたら下駄箱の中に入ってたんだ」
「そ、それってラブレターじゃないっ!」
コノハは驚いてその手紙をまじまじと見つめた。
その隣で今まさに手紙の封を切ろうとしていた海は、その手をとめてコノハを見ると首をかしげた。
「そんなに驚くこと?」
「驚くわよ! って、誰から」
「知らない。名前も書いてないし」
けれどきっと女子からのものだろう。手紙の装丁がウサギと花で彩られていて、ポップな感じがとてもかわいらしい。
海は心密かに、自分には似合わないなと嘲笑した。
そして、その手紙を縦に一気に引き裂いた。
「な、何してんのよっ!」
隣でわめいている奴のことは気にせず、海はさらにそれを4分割、8分割、と限界まで引き裂いていって、最後に塵にさせるとそのまま手を放した。突如吹いてきた風にのり、かつて手紙だったものはあっという間にどこかへ消えてしまった。
目を丸くしたままあきれて物も言えない様子のコノハに、海も同じくあきれながら彼女に言う。
「これはわたしがもらったヤツ。どうしようとわたしの勝手」
「それはそうだけど。でも、それを勇気だして渡したその子の気持ちとか、考えないの?」
「考えてどうすんだよ。わたしは女だぞ? 女と付き合う趣味はない」
「女って自覚、一応はあるのね」
これ以上何を言っても無意味だろう。それに塵となってしまったものはもう元には戻らない。コノハだってそれはよく知っている。
なんだか、人間同士の関係とそのままそっくりだ。
「あんたは、どうして大杉に来たの?」
気づいたら、そう質問をしていた。
海は黙ってコノハを見て、ゆっくりと口を開いた。
「やりたいことがあったから」
「やりたいことって?」
「それは秘密」
真面目な顔で返した海に「ふぅん」と興味がないふりをしながら、コノハは足をぶらぶらさせた。
「あんたはB組に入ったとき、後悔しなかった?」
気が付いたら、またそうやって質問していた。海は首をかしげて「なんで後悔をする必要があるんだ?」と聞いてくる。
コノハは開いた口がふさがらなかった。
「なんでって……。あんた、“大杉学園のB組”がどういう意味を持つのか知らないの?」
「……聞いたことはあるけど、詳しくは」
海は本当に知らないらしく、肩をすくめてみせた。
この学園でB組の意味を知らないなんて、コノハとしては信じられない思いだったが、転校生だったら知らないということもありうるだろう。実際、あの子がそうだったわけだし。
「じゃあ、教えてあげる」
知らないのなら知らないままでいいのかもしれないと思ったが、何か話しておかないと。何だかつらくなってしまいそうだった。
だからコノハは、“大杉学園のB組”の始まりについて、彼女に話すことに決めたのだった。




