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嘘は内緒の始まり  作者: 凪野海里
5月
24/126

23話 マンション3

 僕と、その隣で和菓子を食べようとしていた篠田は、同時に動きを止めてそしてほとんど同時に遠藤く――いや、さん? を見た。


「女?」


 遠藤さん? は唇を引き結んで何も言わない。問題の発言をした永井さんを見ると、彼女は「しまった」と言った顔をしていた。

 遠藤さん? をもう一度よく観察してみる。


 ポニーテールに結ばれた長い髪。解けばおそらく、腰あたりまで届きそうに見える。足も腕も白くて細いし、指だって綺麗だ。いや、それよりも。

 目線を上に向ける。制服、制服の胸のあた――。


 そこへ視線を向けた瞬間、僕の顔にメリッという破壊音が聞こえた。


「ぐっ!」


「何見てんだ変態」


「痛い……」


 そう一言もらすと、めりこんだ遠藤くんの拳が僕の顔から離れた。

 鼻骨折れるかと思った……。

 顔をおさえながら僕はしばらく沈黙する。


「遠藤……さんが女の子って、ほんと?」


 ついさっきまで永井さんと一触即発な雰囲気を放っていた篠田が、遠藤さん(でいいやもう!)から目をそらさないまま永井さんに質問した。

 彼女は和菓子に楊枝をさして、気まずそうな顔をしながらもぐもぐと口を動かし、そしてそれを飲み込んだ。


「ほんとよ」


「えぇっ!?」


 僕と篠田は同時に叫び、篠田は永井さんのほうへ身を乗りだした。


「な、なんで。どこで知ったの?」


「ここで。家でよ」


「……家」


 永井さんが遠藤く――いや、さんの家をまるで自分の家みたいに「家」と言ったのが、少しだけ衝撃的だった。

 それほど自分の家に帰りたくないということだろうか。


「なぁ、時間いいのか?」


 正体をばらされたことに怒っているのか、遠藤さんはだいぶ不機嫌そうだった。

 遠藤さんにそう言われた篠田は、自分の手首にしている腕時計を見て、慌てて立ち上がる。


「帰らなきゃっ!」


 僕も自分の腕時計を見ると、いつのまにか時刻は6時。


「僕も、そろそろ帰ろうかな」


 立ち上がりかけたそのとき、遠藤さんが声をかけてきた。


「2人とも僕の家で夕飯食べてけば?」


「え、でも遠藤……さんの両親とか」


「親いないから平気」


 僕は開きかけた口を閉じる。何を言えばいいのかわからなかったからだ。隣にいる篠田をうかがうと、彼女も口を閉じたまま遠藤さんをじぃっと見つめている。

 その場に微妙な空気が流れた。

 遠藤さんがため息をつく。


「別に普通だろ。親がいないことくらい。どうせ2人だけの夕飯になるんだし、人数多いだけいいだろ」


「だけど4人分の食事とか」


「平気だよ」


「問題なし」と言って、遠藤さんは立ち上がる。そのままキッチンへと歩いていって冷蔵庫から食材を取りだした。


「無難にカレーでもいいかな。時間ないし。大丈夫?」


「あたしは平気」


「わ、私もっ!」


 僕も、と言おうとして口を閉じる。

 今、男子って思えば僕1人だけなんだよね……。

 永井さんも篠田も女子、遠藤さんも女子だった。だとしたら男子の僕はすごく居づらい立場なのでは?

 せめて僕だけでも帰るべきだ。


「ごめん。やっぱり僕は帰るよ」


「え、なんで?」


「なんでってそりゃ」


「女子しかいない空間が居づらいとか思ってんじゃないの?」


 遠藤さんの言葉に僕は口をつぐむ。彼女は僕のほうを見ずに、まな板と包丁を取り出しながら先を続ける。


「別に帰ってもいいけど、篠田が帰るときに女子1人で帰らせることになるけど?」


 た、たしかに……。

 僕がチラッと篠田を見ると、彼女は「大丈夫だよっ!」と言って、直後に何か思いだしたのか、「あ」と声を上げた。


「ごめん私、やっぱり帰る! もうすぐ賞味期限切れのおかずがあったんだった」


 言いながら篠田はカバンを手に持った。玄関に向かおうとして、くるっとUターンをしてきたから何かと思えば、彼女は永井さんに向かってビシッと指差した。


「次からちゃんと、お掃除参加してよね。あ、あと。学校に来ること。渡良瀬くんが心配しちゃうから」


「……わかったわよ。あと人を指で差さないで」


 かなり不満そうな顔をして永井さんはうなずいたけれど、篠田はとりあえずその返事だけで満足したのか「よしっ」とつぶやいた。


「マンションの玄関まで送る。ここのセキュリティ、でるときもすごくごく面倒だから」


 キッチンで野菜を洗っていた遠藤さんが、その手をタオルで軽く拭きながら言った。

 篠田の顔がパァッと輝く。


「わかった。ありがと」


「待って。そのお見送り、あたしがやるわ」


 永井さんが急に率先して言うものだから、僕らは目を丸くして彼女を見る。さっきまで篠田と喧嘩っぽい状態だったのに、その当人を見送るなんて大丈夫だろうか。


「マンションの玄関まででしょ? 行き方とか、でるまでの方法とか、昨日遠藤に聞いて、だいたいわかったから」


「昨日の今日で覚えたの?」


「あたしだって、伊達に優等生やってないから」


 僕の質問に永井さんはどうでもいいことのようにそう答えて、「じゃあよろしくね」と言った篠田と一緒に玄関まで行って、でていってしまった。

 さっきまであんな喧嘩っぽい状態になっていたのに、2人だけにして果たして大丈夫だろうか。

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