表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘は内緒の始まり  作者: 凪野海里
5月
18/126

17話 班決め4

 教室に戻るとそこには1班のみんながいた。


「なんで?」


 思わずそう聞くと、ずかずかと篠田が僕に近寄ってきて、突然怒鳴り声をあげた。


「なんでじゃないでしょ! 急に倒れたって聞いて、びっくりしたんだからっ!」


 目を思い切り釣り上げて、そりゃもうすごい剣幕だ。

 どう言い繕えばいいかな、と思いながら僕はとりあえずしまりのない笑みを浮かべた。


「ごめん……」


 僕があまりに不自然な対応をしているせいか、篠田は毒気が抜かれたように一瞬ぽかんとしたあと、あきれた顔をして大きなため息をついた。


「体はもう大丈夫なの?」


 篠田の後ろからひょっこり顔をだした須藤さんが、心配そうな顔をして僕に聞いてきた。

 僕はもちろんうなずいておく。


「本当だろうね?」


「本当だよ」


 徹くんまでもがそんな人を心配するような目を向けてくるのがなんだかおかしな光景だ。

 僕は彼にも素直にうなずいてみせると、彼も篠田のようにため息をついたのだ。


「なら良かった」


 どうやらみんなには、ひどく心配と迷惑をかけたみたいだ。

 ちょっと申し訳ない。


「いやほんと、ごめんなさい。心配かけたみたいで……」


「それだけで済んだら警察はいらない」


 すぱ、とそう言いきったのは僕の後ろにいる遠藤くんだ。

 ごもっともであるけれど、彼は僕に対して当たりがキツい気がするのは気のせいだろうか……。

 そんな僕の気持ちを汲み取ったのか、須藤さんがすぐさまフォローに入ってくる。


「悪く思わないでね、雪くん。遠藤くん、ずっと雪くんのことを心配していて、片時も雪くんから離れようとしなかったから」


 か、片時も?


 思わず疑いの目を遠藤くんに向けると、彼は顔を真っ赤にして「なわけないだろっ!」と須藤さんに怒鳴り返した。

 するとみんなは楽しそうにクスクス笑いだした。

 恐らく事実なのだろう、須藤さんの言った通り。


「ごめん、遠藤くん」


 謝ると、遠藤くんはぷいっと後ろを向いてしまった。


「別に。お前に謝ってもらうためじゃない。感謝されたいわけでもないし」


 これ以上謝ったりとか、お礼を言ったりすればまた平手打ちとか飛んでくるだろう。もしかしたら蹴られるかもしれない。

 彼はきっと、とても恥ずかしがり屋なのだ。

 だから今度は、心の中で「ごめん」と謝った。

 彼に伝わるわけもないけれど。


「えーっと。それで、その……授業とかどうなったの?」


 僕のせいでこんなことになってしまったから、1班のみんなはもちろん、きっとクラスメイトにも迷惑をかけてしまっただろう。けれど須藤さんが「普通にやっていたわ」と答えてくれた。

 ちょっとホッとする。


「そっか。先生は?」


「秋庭先生は今頃職員室だと思うよ。本当は保健室には岩富先生がいて、雪の目が覚めた時点で秋庭先生に報告する予定だったんだけど」


 そう言った篠田の視線が、僕から遠藤くんに移る。


「遠藤くんが残るって言うから。遠藤くん、秋庭先生に報告した?」


「あ」


 今思いだした、みたいな風に聞こえる「あ」だった。


「遠藤くん……」


 須藤さんが困ったような、あきれたような顔をしているけど、きっと僕も似たような顔になっているだろう。

 僕はドアに手をかける。


「僕が行ってくるよ。どうせ岩富先生が連絡してくれてはいるだろうけど」


「どうだかな。岩富先生ってかなり雑なとこあんでしょ」


 僕の横からドアに手をかけたのは徹くんだった。


「俺ちょっと用事あるから、そのついでに職員室行くよ。そんでそのまま家に帰るから」


「別にいいよ、そんなこと」


「用事があるんだってば。じゃ、そゆことで」


「待っ」


 僕が止めようとしたのを徹くんは軽い調子であしらって、そのまま教室をでていった。

 あとに残された僕たちは、というより僕はあぜんとするばかりである。

 まるで「俺のすることに邪魔をするな」みたいなあしらい方だった。どうしたんだろう?


「ま、本人がいいって言うんだからいいんじゃないの?」


「そもそも遠藤くんが忘れなければ、こんなことにはならなかったんじゃ」


 いっさい気にしている様子のない遠藤くんがそう言った直後、篠田が鋭いツッコミをいれた。


 もう6時間目も、帰りのホームルームも終わっている。僕は自分の席へ歩いて行って、机の中にしまったままでいた教科書やノート類をどんどんカバンに放り込んでいった。

 あれ、そういえば掃除。

 掃除のことを思い出し、僕は教室内を見渡した。黒板は綺麗だし、床にはゴミが落ちていない、お昼頃にはあふれかえるようだったゴミ箱は、すっかりカラっぽになっている。


「掃除ってどうなったの?」


 僕も遠藤くんもいなかったってことは、相当大変だっただろう。篠田が僕の質問にえへん、と胸を張った。


「大丈夫。私たちがちゃちゃっとやっておいたから」


「ごめん! ほんと迷惑かけた」


 思い切り頭をさげる僕に、篠田は「気にしないでよぉ」とあっけらかんとした返事をする。


「大丈夫だったもん。それに掃除の班は違うけど、須藤さんにも手伝ってもらったし。頭さげるんだったら、須藤さんに下げてあげてよ」


「須藤さんもありがと。そっちが今度当番のとき、僕が責任持って変わるから」


 須藤さんにも頭をさげると、途端に彼女は慌てだした。


「そ、そんないいのよ! だって大変そうだったし、困ったときはお互い様でしょ、ね?」


 同意を求めるように須藤さんは篠田や遠藤くんに同意を求めたけれど、2人はうなずくどころか、顔を見合わせあった。

 僕らはたぶん、同時に心の中で須藤さんの優しさに感謝して、そしてちょっとあきれていただろう。


「そもそも!」


 急に篠田が大きな声をだした。


「掃除をサボる奴が悪いのよ! なんで永井さんばっかりいっつもいっつも! もうほんと我慢できないっ!」


 篠田が怒っているのはやっぱり例によって、永井さん関連のようだった。


「永井さんにだって用事があるんだよ、きっと」


 さすがに本人がいないところで陰口というのも、と思ってフォローしたけれど、篠田は不満そうにキッと僕に敵意の眼差しを向けてくる。


「どんな用事よ。どーせ勉強でしょ? そんなの掃除終わってからでもできるじゃない!」


「まぁ、そうだけど」


 そう言われてしまえば、黙るほかない。そして篠田の言う通り、きっと永井さんは勉強のために家にさっさと帰ってしまったのだろう。

 このままでは、また学級会議の議題にされかねないけど。大丈夫かな。


 遠藤くんはいつの間にか自分の席に戻って、荷物を手早くまとめるなり、教室の後ろにあるドアを開けた。


「あ、遠藤くん。今日はほんとにありがとね」


 慌てて彼に駆け寄ると、遠藤くんは「気にすんなよ」とそっけなく言った。


「また明日ね」


「じゃ」


 遠藤くんがひらひらと僕らに手を振って、それから教室を出ていった。

 また教室は静かになる。


「さ、私たちも帰りましょう」


「そうだね」


「うん」


 須藤さんの言葉に僕らはうなずいたけれど、篠田はまだ不満そうな顔のままだった。


「帰り、アイス屋さん寄るから」


 ぶっきらぼうに口にするなり、篠田は自分の机に置いておいたカバンを手にすると、教室のドアを開けてもう一度僕らを見た。僕と須藤さんは顔を見合わせる。


 どうやら、僕らにもついて来いということらしい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ