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嘘は内緒の始まり  作者: 凪野海里
5月
17/126

16話 班決め3

 遺影があった。


 2つ、大人の男の人と女の人。どちらも綺麗な微笑みを浮かべている。

 俺はそれを見ていた。泣かなきゃいけないのに、どうしてか涙はでてこなかった。

 いたたまれなくなり、俺はその場を離れようとする。だけど、隣で下唇をぎゅっと噛みしめて泣くのをこらえているこいつを、放っておくことなどできなかった。


***


 次に目が覚めたときには、白いタイルの天井があたり一面に広がっていた。

 ボーッとする頭のまま、あたりを見渡す。

 僕の周囲を囲うようにしてある緑色のカーテンが、風に乗ってふわふわ、ふわふわ……。

 ふわ、ふわ……。


「……ここ、どこ?」


「保健室だ」


 シャッとカーテンを開く音がしてそこから現れたのは、白衣の似合う薄化粧の――たしか保健室の岩富いわとみ先生。


「頭は正常か――と聞いてもしょうがないな。お前の名前は?」


「雪……」


「苗字は?」


「答えたくないです……」


「……そうか。ならこれは何本だ?」


 岩富先生の左手の人差し指と中指と薬指が立つ。


「3本、です」


「よし、大丈夫だ。入っていいぞ」


「雪!」


「わっ」


 岩富先生の後ろから勢いよく僕に向かって飛びだしてきたのは、まぎれもなく遠藤くんだった。

 彼は僕の胸にダイレクトに突っ込んできて、僕は「ぐへっ」と軽くうめいた。


「え、遠藤くん……」


 あまりに勢いよく突っ込んできたので、ちょっと体に衝撃が加わる。おもに彼の頭が直撃してきた腹が痛い。

 岩富先生はやれやれと片手を額においてあきれ顔。そのまま彼女はその場を離れてしまった。


「よかった……」


 僕の腹のあたりに顔をうずめながら、遠藤くんはそうもらした。

 よほど心配してくれたのか。別に気にしなくてもいいのに、僕は心の奥になんだか罪悪感が生まれてしまって、思わず「ごめん」とつぶやいた。


「気にしなくていい」


 遠藤くんは初めて顔をあげた。

 僕は彼の顔をしばらく見つめてから、ちょっとそらしてあたりを見渡す。といっても僕の周りを囲んでいるのは、どこを見ても、カーテン。カーテン。カーテンだった。


 どうして僕はこんなところに?


 とそんなことを思ったけれど、ああそうか。僕は図書館で気を失ってしまったのかとすぐに気がつく。


 どうして気を失ってしまったのか、そこらへんは曖昧だけど。


「今、何時?」


 遠藤くんに聞く。時計が目に見える位置になかったからだ。


 遠藤くんは制服のポケットに手を突っ込んで、そこからスマートフォンを取り出した。僕の目の前に黙って画面を差し出してくる。


 その時計はアナログ式で、短針が4を、そして長針が6を差していた。


「ご、午後4時半っ!? 授業はっ!」


「とっくに、終わった……」


 遠藤くんの言葉に僕はハァ、と落胆した。


 そうだよねぇ……。

 あーあ、サボってしまった。というか、修学旅行の資料集めやり直さなくちゃいけないのか。徹くんたちに申し訳ない……。

 僕がまたため息をつくと、遠藤くんがぽつりと漏らした。


「授業なんて、どうでもい、だろ……」


 うん?

 何か違和感を覚えて、僕はもう一度遠藤くんを見た。彼の声はなんだか、湿っていたのだ。まるで。

 いや、彼はもしや。


「ねぇ、遠藤くん」


 声をかけると、彼は「なんだ、よ」とやはり湿った返事をしてくる。


「もしかして、さ。泣いてる?」


 目元がわずかに赤かった――が、すぐに彼は顔を真っ赤にして、僕に敵意を帯びたまなざしを向けてくる。


「うっさい!」


 瞬間、僕の頬に平手打ちが飛んだ。

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