16話 班決め3
遺影があった。
2つ、大人の男の人と女の人。どちらも綺麗な微笑みを浮かべている。
俺はそれを見ていた。泣かなきゃいけないのに、どうしてか涙はでてこなかった。
いたたまれなくなり、俺はその場を離れようとする。だけど、隣で下唇をぎゅっと噛みしめて泣くのをこらえているこいつを、放っておくことなどできなかった。
***
次に目が覚めたときには、白いタイルの天井があたり一面に広がっていた。
ボーッとする頭のまま、あたりを見渡す。
僕の周囲を囲うようにしてある緑色のカーテンが、風に乗ってふわふわ、ふわふわ……。
ふわ、ふわ……。
「……ここ、どこ?」
「保健室だ」
シャッとカーテンを開く音がしてそこから現れたのは、白衣の似合う薄化粧の――たしか保健室の岩富先生。
「頭は正常か――と聞いてもしょうがないな。お前の名前は?」
「雪……」
「苗字は?」
「答えたくないです……」
「……そうか。ならこれは何本だ?」
岩富先生の左手の人差し指と中指と薬指が立つ。
「3本、です」
「よし、大丈夫だ。入っていいぞ」
「雪!」
「わっ」
岩富先生の後ろから勢いよく僕に向かって飛びだしてきたのは、まぎれもなく遠藤くんだった。
彼は僕の胸にダイレクトに突っ込んできて、僕は「ぐへっ」と軽くうめいた。
「え、遠藤くん……」
あまりに勢いよく突っ込んできたので、ちょっと体に衝撃が加わる。おもに彼の頭が直撃してきた腹が痛い。
岩富先生はやれやれと片手を額においてあきれ顔。そのまま彼女はその場を離れてしまった。
「よかった……」
僕の腹のあたりに顔をうずめながら、遠藤くんはそうもらした。
よほど心配してくれたのか。別に気にしなくてもいいのに、僕は心の奥になんだか罪悪感が生まれてしまって、思わず「ごめん」とつぶやいた。
「気にしなくていい」
遠藤くんは初めて顔をあげた。
僕は彼の顔をしばらく見つめてから、ちょっとそらしてあたりを見渡す。といっても僕の周りを囲んでいるのは、どこを見ても、カーテン。カーテン。カーテンだった。
どうして僕はこんなところに?
とそんなことを思ったけれど、ああそうか。僕は図書館で気を失ってしまったのかとすぐに気がつく。
どうして気を失ってしまったのか、そこらへんは曖昧だけど。
「今、何時?」
遠藤くんに聞く。時計が目に見える位置になかったからだ。
遠藤くんは制服のポケットに手を突っ込んで、そこからスマートフォンを取り出した。僕の目の前に黙って画面を差し出してくる。
その時計はアナログ式で、短針が4を、そして長針が6を差していた。
「ご、午後4時半っ!? 授業はっ!」
「とっくに、終わった……」
遠藤くんの言葉に僕はハァ、と落胆した。
そうだよねぇ……。
あーあ、サボってしまった。というか、修学旅行の資料集めやり直さなくちゃいけないのか。徹くんたちに申し訳ない……。
僕がまたため息をつくと、遠藤くんがぽつりと漏らした。
「授業なんて、どうでもい、だろ……」
うん?
何か違和感を覚えて、僕はもう一度遠藤くんを見た。彼の声はなんだか、湿っていたのだ。まるで。
いや、彼はもしや。
「ねぇ、遠藤くん」
声をかけると、彼は「なんだ、よ」とやはり湿った返事をしてくる。
「もしかして、さ。泣いてる?」
目元がわずかに赤かった――が、すぐに彼は顔を真っ赤にして、僕に敵意を帯びたまなざしを向けてくる。
「うっさい!」
瞬間、僕の頬に平手打ちが飛んだ。




