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嘘は内緒の始まり  作者: 凪野海里
5月
15/126

14話 班決め

 次の日の6時間目に、修学旅行の班決めをするための時間が設けられた。

 とはいえ、時間が設けられたとはいっても、みんなはそれぞれ事前に「一緒の班になろうよ」と話し合いを済ませていたらしく、それほど時間がかからずにおおかた班ができあがっていた。


 僕は隣の席の篠田と自分の席を立った徹くんと遠藤くんと一緒になる。

 篠田が人数を確認して、「うん」とうなずいた。


「私たちのところ、私、雪、徹くん、遠藤くん――で。男子3人に女子1人だね。あともう1人、女子が必要なんだけど誰がいいかな?」


 篠田が教室内を見渡す。だいぶかたまった人数ができあがっていく中で、クラスで余っている女子はごくわずかだけれど存在していた。


「いるよ、女子なら」


 そう言って徹くんが、教室の隅のほうに立っている永井さんに「おーい」と手を振った。隣にいた篠田が嫌そうに顔をしかめる。


「おーい、コノ――」


 しかし徹くんの言葉を遮るように、永井さんははっきりと落ち着いた声でこう言った。


「あたし、もう雨宮あめみやと千ノちのはらと組んだから」


 それからクルッと踵を返して、近くにいた雨宮夏輝さんと千ノ原姫子さんのもとへ歩いていった。

 僕が徹くんのほうを見ると、彼はなんとも言えないような微妙な表情をしていた。その肩に遠藤くんが手を置いて「どんまい」と言った。けれど少しの感情もこもっていないその言葉に、徹くんはあきれた目を返すだけだった。


 篠田が途端に明るい声をだす。


「じゃあさ、1人いるんだけど!」


 篠田は言いながら教室を歩いていき、誰もが自分の席を離れているなかで、唯一まだ自分の席を離れていない須藤すどうはるかさんの席へとやってきた。

 須藤さんは篠田がやってきたことに気付くと、うつむかせていた顔をふっとあげた。その際にセミロングの綺麗なツヤのある黒髪がふわりと動く。

 篠田は須藤さんに親し気に話しかけて、それから何やら色々話していた。須藤さんが「私なんかでいいの?」と言って篠田は笑って「大歓迎だよ!」と続ける。須藤さんは照れたように微笑んで席を立って篠田と一緒に僕らのもとへやってきた。


「須藤遥さん。彼女でどうかな?」


 篠田が須藤さんを示しながら簡単に紹介した。残された僕らは顔を見合わせて、互いにうなずきあう。反対なんてなかった。


「じゃ、決まりだね」


 篠田は楽しそうに笑いながら、それこそスキップしそうな足取りで秋庭先生のもとへと歩いていった。班が決まったことを先生に報告しに行ったのだ。

 遠藤くんと須藤さんが簡単に挨拶をした。遠藤くんがわりと親し気に話しかける前で須藤さんは優し気な微笑みを浮かべながら、彼女も丁寧に頭をさげていた。


 不意に僕の肩にずしっと重みがきた。見ると、徹くんが僕の肩に腕をまわしている。


「知らなかったなぁ」


「何が?」


 徹くんの言葉の意味がわからず、僕は首をかしげる。


「雪がまさか、須藤さんを好きだったとは」


「何言ってんの?」


 僕は苦笑いをして首を傾ける。徹くんの言わんとしていることがまったく理解できなかった。

 今度は徹くんが首をかしげる番だった。


「だってさっきからずっと、須藤さんのことばっか見てるじゃん。雪くん」


「いや、僕が見ているのは遠藤くんだよ」


「は? 遠藤?」


 徹くんが信じられないといった顔をしながら、僕といまだ須藤さんと話している遠藤くんとを見比べて首をかしげた。


「おまえ、男子に興味あったの?」


「なんでそうなるのさ」


 僕はどう反論すればいいのかわからず、あきれながらそう口にした。

 お待たせ、と言いながら篠田が一枚の紙を手にして僕らのもとへ戻ってきた。僕らはすぐに篠田のもとへと集まる。

 篠田が手にしていた紙は、班員名簿のようなものだった。紙の上部に「1班」と書かれていて、5つにわけられた四角には名前を書く欄と、それぞれの役職を書く欄とに分けられていた。

 班長、副班長、保健、地図。あとの1人は「手伝」と書かれている。おそらくそれぞれの役職を手伝うための役割を担っているのだろう。


 まずは誰が班長をやるかであるんだけれど。


「はいはーい」


 篠田が手を挙げた。すぐさま徹くんが「篠田さんがやるの? 珍しいね」と言ってきた。

 僕も徹くんと同じことを思った。篠田がこういう役割を担おうとするなんて珍しい。面倒くさがりとか、頼りにならないってわけではもちろんないのだけれど、意外と積極的なんだな。


 なんて、思っていたのが僕らの間違えだった。


 篠田はなんと僕を指差したのだ。


「雪が良いと思う!」


「僕っ!?」


 思わず僕は自分からも自分を指差してしまった。その場にいた全員が一瞬篠田にあぜんとしてそれから僕を見た。


 遠藤くんがボソッと「別にいいんじゃないの?」と賛成っぽい意見をもらした。

 徹くんも「俺も特に反対はしないかな」と言ってきた。須藤さんも黙ってうなずいている。篠田は何故か満面の笑みを浮かべながら僕を見ていた。


「じゃあ決定だね!」


「ちょ、待て待て待って!」


 お気に入りのまろさんシャーペン(今日も僕が選んだ)を手にして、篠田が班長の欄に僕の名前を書こうとしたので僕は慌ててそれを止めに入った。


「どうしたの?」


 篠田がきょとんとしている。ていうかその場にいた全員が同じ反応をしているのだけど、どういうことなんだよ。


「僕の意見は?」


 当の本人の意見は無視ですか?

 篠田は「え?」と何故か首をかしげた。


「え、雪。班長やりたくないの?」


「なんで僕なのさ!」


 僕は叫んだ。なんだこの、なおも僕の意見を無視しようとしている空気は。いつからこの人たちはこんなひどい人になったんだ。篠田がそんな人だとは思っていたけれど、思いたくなかったというか。

 徹くんがクスクス楽しそうに笑っているのがなんだかしゃくだ。


「てか、ほぼ全会一致でしょ」


 遠藤くんが面倒だなぁと言った顔で僕にそう言った。周りのみんなも「うんうん」とうなずいている。けれど、全会一致ってそうじゃないでしょ。誰一人として反対意見がないから全会一致なんでしょ。僕の意見は無視?


「僕が、反対しているんだけど」


 思わずそう口にすると、じゃあ、と遠藤くんは言った。


「5対1。はい、雪が班長」


「決まりだね」


 数の暴力で押し通されてしまった。


 こういうの、僕向いてないんだけどなぁ……。

 はぁ、とため息をつくと突然須藤さんが「ごめんね」と謝ってきた。

 僕はきょとんとしてしまう。須藤さんが申し訳なさそうな顔をしながら僕を見つめ返した。


「雪くん、班長嫌なんだよね。やっぱり、私が」


「あ、いいよそんな。ごめん、変なこと言って!」


 こう言われてしまうと罪悪感がハンパない。

 本当は須藤さんみたいなしっかりしている子が適任だとは思うんだけどなぁ。僕なんてわりとどこかしら抜けてるし、他にも色々。ともあれ、班長向きの性格じゃないのに。


 だけど、数で押し通されてしまっては、僕としては勝ち目なんてないので、黙って従うしかない。せいぜい須藤さんみたいな優しい子がいてくれただけでも感謝しよう。みんな悪魔か。

 それから順番に役職が決められていった。まず、副班長が篠田、地図は須藤さん、保健は遠藤くんで、徹くんはむしろ自ら進んで手伝の枠に入りたがったからそうなったんだけど、きっとサボりたいからだろう。彼らしいや。

改稿:2018/4/27

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