9話 練習
まず、最初のシーンは「騎士」と「国王」の対面のシーン。
僕は台本を手にしながら、椅子に座っている「国王」こと、青原くんと「女王」こと、島田さんのもとへと歩いていく。
『お、お呼びでしょうか、国王陛下』
すると「国王」は立ち上がって、たどたどしく台本を読み出す。
『よく、いらっしゃった。騎士殿……。えっと、」
「えっと、はいれないようにお願いしまーす」
須藤さんから早速ダメだしが入る。
青原くんは頭をがしがしかきつつ、もう一度椅子に座りなおした。どうやらやり直すらしい。
僕は「国王」から離れてもう一度近づいた。
『お呼びでしょうか、国王陛下』
『よく、いらっしゃった。騎士殿。実はおまえに紹介したい者がいる』
『いらっしゃい』
「女王」の呼び掛けで教室の端から「お姫様」こと、海さんが近づいてきた。
落ち着いた足取りで、「国王」の隣に立つ。彼女はまるでドレスを着ているかのように、ひだを引っ張っているつもりなのか、指をそっと空中に持ち上げて一礼をした。
『はじめまして、騎士殿』
ちょっと見とれてしまった。
台本にも「騎士は姫に見とれる」とあったけれど、台本に言われずとも見とれてしまった。
たぶん、所作が手慣れているのだ。自然さを感じる。
「国王」が口を開こうとしたので、僕は慌ててそちらに向き直った。
『この者は私たちの一人娘である。この子にはまだ友だちがいない。たしか騎士殿とは年が近いはずだ。もしよかったらこの子と友だちになってはくれまいか』
『僕でよろしければ』
そして場面は変わって、数年後。
「お姫様」は地面に座り込んで鼻唄をうたいながら、手を動かしていた。あれは、花冠を作っている最中らしい。
そこの近くで「騎士」は剣の稽古中だ。剣を振るふりをしていると、「お姫様」が背中を向けたまま話しかけてきた。
『この前、また村で暴動が起きたんですって』
『そうか』
『ねえ私、なんだか怖いわ』
「騎士」は剣の稽古をやめる。
不安がる「お姫様」の肩にそっと手を置いて、「騎士」は彼女に語りかけた。
『大丈夫だよ。何があっても僕が守ってあげるから』
すると、「お姫様」は驚きと悔しさをないまぜにしたような顔を僕に向けてきた。
「ウソつき」
***
あれ。
僕は慌てて台本を見返した。そんなセリフあっただろかと思って。
でもそこにはそんなセリフなんてなかった。台本には「ほんとに?」と問いかけるとある。悲しそうな顔をして。
「悪い、間違えた」
海さんはぷいっと僕から視線をそらして、頬を数度たたく。
「もっかいいいか?」
彼女は監督役の戸田さんとその隣で、台本と僕らを照らし合わせて見ていた須藤さんへと視線を向ける。
「ええ」
須藤さんはこくん、とうなずいた。戸田さんもうなずいている。
みんなの反応は普通だった。
海さんの変化に気づいたのは僕だけ。
気のせいだろうか。
「じゃあもう一度、「騎士」が剣の稽古をしているところからお願いね、雪くん」
「う、うん……」
ウソつきって、どういう意味だろう。




