自分とは
僕の名前は加藤雪。私立大杉学園中等部3年B組に在籍している、ごく普通の人間だ。
何か特別な才能があるわけでなく、また、学校1の人気者というわけでもない。本当に、ごく普通の人だ。
ただ、ときどき僕は自分が本当に加藤雪なのかわからなくなるときがある。実は僕の名前は山田太郎とか。そういう平凡な名前で、何かの拍子に加藤雪になってしまったのではないかと思ってしまうときがある。
あるいは、自分が仮に加藤雪だとしても、本当の加藤雪はこんな奴じゃないと突っこむ自分がいる。
そんなくだらないことをつらつらと言ったり、考えたりしている割に、
「じゃあ本当の“加藤雪”は誰なんだ」
と聞かれたら、答えに詰まってしまうだろう。
「本当の」なんて、誰にもわかるわけがないし、本人であるはずの自分も、わからない。
結局のところ、僕は一体どこの誰で、何者なのだろうか。
この世界の真実って奴を知りえている人間が一人もいないのと同様に、自分が「本物」かなんて知りえている人間だって一人としていないのだ。
それをわかっているのに、理解しているはずなのに。なのに、僕は自分の存在がわからない。
自分だけが、世界に取り残されたたった1人の人間のように思えてしまうのだ。
いや、そう考える時点で自分は「人間」なのだろうか。もしかしたら、未だかつて見たことのない、「化物」なのかもしれない。
けれど、それを自分は恐ろしいと感じない。
いつだったか、友人にこんな質問をされたことがあった。
「生きてて楽しい?」
何を言いたいのかわからなかった。
だから、「楽しい、楽しくないで生きているつもりはないよ」と言ってやった。
「そういうキミはどうなの?」
と聞いたら、その人は。
「俺もお前と同じ意見だ」
と、答えてきた。
人間なんてそんなもんなんだなって、齢15に満たない自分は、そんなことをぼんやりと考えていた。
あるいはそんなことを考えるしかないほど、僕には余裕って奴が残ってなかったのかもしれない……。
3年生になってしばらくした頃、僕らのクラスに転校生がやってきた。その子の名前は――まあいずれわかることだから今は伏せておこう。ともかくその子は、今まで会ったどんな「人間」よりもおそらくは「人間」らしく、そして「人間」らしくない「化物」だった。
そんなことを言ったら、その子はきっと怒って、僕の背中をポカポカ殴ってくるだろう。優しく、手加減をしながら。
ともかく、その子が私立大杉学園中等部3年B組に来て以来、僕だけでなく。みんなが変わっていったのはたしかだった。
たった1人の人間の存在だけで、世界ってこんなにも変わるのかってくらいに。変わってしまった。
これから語るのは、そういう話だ。