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風に恋して  作者: 皐月もも
第一章:風に導かれて
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熱情

こちらへの投稿に不慣れなためとても迷ったのですが、R18に分類するほど刺激的なものではないと判断して投稿しますm(_ _)m

「リアの様子は?」

「何も食べたくないとおっしゃって、お食事に手をつけられませんでした。私どもが話しかけてもあまり反応がなく……」


レオは机の上に溜まった書類を読みながらカタリナの話を聞いていた。読み終わった1枚を机に置いてため息をつき、視線を上げた。


「そうか。夕食はリアの好物を並べてやれ」

「かしこまりました」


カタリナが礼をして部屋を出て行く。


「レオ様、お気持ちはお察しますが、あまり刺激しない方がよろしいかと思います」


レオの隣に立っていたセストがレオの読み終わった書類をまとめながら言った。セストはレオの考えていることをすべて察しているのだろう。それでも、レオは……やめるつもりはない。


「記憶に鎖がかけられていても、身体に刻んだものは消えない」

「しかし、それこそリア様の精神が持ちませんよ」


セストが少し焦ったように言う。

リアの記憶はかなり書き換えられているように見受けられる。無理矢理記憶を引き出すことは簡単だ。王家の人間ならば、それくらいの呪文は使える。しかし、そうすると戻った記憶と植えつけられた記憶の歪で精神崩壊を起こす可能性がある。無理矢理こじあけることは、避けたい。


「リアはさっき俺を求めた」


長い口付けの後の表情――頬を上気させ、潤んだ瞳でレオを見上げるそれはレオを熱くさせるもの。


「けれど――」

「俺が、必ず取り戻してみせる」


セストの言葉を遮ってそう言うと、レオは立ち上がってドアに向かった。


「レ、レオ様!お待ちください!リア様は今とても不安定でそんなことをしたらっ――」


後ろから聞こえてくるセストの慌てた声を遮るように、レオはドアを閉めた。



***



リアが豪勢な食事を前に俯いていると、レオが部屋に入ってきた。

レオに気づいたシェフや侍女が頭を下げるのに頷いて、彼はリアの向かいに座る。リアは手を膝の上に置き、口を引き結んで下を向いた。


「食べないのか?」


レオに問われたが、答える気になれずリアはキュッと唇をかみ締める。テーブルにたくさん並べられた皿にはリアの好物である料理が盛り付けられている。

居心地が悪い。シェフも侍女も、リアを知っている。


「リア様、スープだけでもお飲みください。今、温かいものにお取替えしますから」

「いりません。ごめんなさい。お腹が空いていないの。全部下げてください」


リアはシェフがスープ皿を下げようとしたのを止めた。

今は、何も食べる気がしないし、喉を通らない。例え新しく温かいスープを出してもらっても無駄にしてしまうだけだ。


「しかし、お昼も何も召し上がらなかったのです。それではお身体に障ります」


そんなリアにシェフは困り果てたようにチラッとレオに視線を向けた。


「いい。下げろ。お前たちももういい」


レオがため息をついて立ち上がり、シェフと侍女に出て行くように命じた。そしてカタリナに鍵を渡す。


「明日の朝一番にここに来い、いいな?」

「は、い……」


カタリナは何か言いたそうな表情になったが、言葉にはせずグッと鍵を握り締めて頭を下げた。

シェフとカタリナを含めた侍女たちが部屋を出て行くと、部屋は沈黙に包まれた。リアは彼らが出て行ったドアを見つめ、また俯いた。

レオはここに残るつもりなのだろうか。


「ブロケアール」


レオがそう呟いたのを聞いてリアはハッと顔を上げた。ガタガタと部屋の外からドアを揺らすような音がしてすぐに静かになる。


「――っ」


呪文の、いや、それ以上の“意味”を理解したリアは慌てて立ち上がったが、レオはそんなリアの腕を掴み、その細い身体を抱き上げた。


「や、お、降ろしてください!」


リアが身体を捩るが、レオにしっかりと抱きかかえられていてあまり意味がない。レオがレースのカーテンを身体で除けるようにして進んだかと思えば、すぐに背中が柔らかいベッドに沈んだ。


「いやですっ」


レオに組み敷かれたリアは、彼の胸を両手で押し返しながら震える声で訴える。


「リア」


優しく頬を撫でられ、低い艶のある声がリアの身体に直接響くようだ。クイッと顎を持ち上げられ、視線が絡む。


「俺を、思い出させてやる」


“どうやって”なんて、聞かなくてはわからないほど子供ではない。リアはかすかに首を振り、身体を捩ってレオの拘束から抜け出そうとした。


「頼むから、暴れるな」

「い、いやです。お願いです。やめ――っ」


リアの必死の抵抗の言葉……それを、レオが飲み込んだ。 

リアは必死にレオの肩を押すが、レオの身体はビクともしない。そんなリアの細い手は、レオに頭上でひとつにまとめられてしまった。

心で抵抗しながらも、レオの熱い唇を受け入れるリアの身体。呼吸が苦しくなってくぐもった声が漏れる頃、レオはようやく唇を離した。

なおも身体を捩ってレオから逃れようとするリア。レオは少しだけその表情を歪めたが、スッとリアの髪の毛をまとめているリボンを解いた。


「少しだけ我慢しろ」


そう言って、レオがリボンでリアの手をまとめて縛る。


「や、やだっ」


両手の自由を奪われて、リアは身体を震わせた。動けば動くほど、リボンが両手に絡まっていくように感じられる。

もう一度、レオの唇がリアのそれに重なり、身体の曲線をゆっくりとなぞる熱い掌がリアを翻弄していく。熱くてボーっとする。リアは潤んだ視点の定まらない瞳でレオが身に纏っている上質な服をためらいなく床に捨てていくのを見つめていた。そして、レオの鍛えられた上半身が露わになる。


「リア」

「や、やめて……いや、です……」


レオに名前を呼ばれ、リアは小さく首を横に振る。

零れ落ちた涙を唇で掬ってくれたレオに、また頭の隅が疼く。それと共に、触れられる肌がゾクリと震えた。


「ごめん、な……」



――身体が、熱い。



レオから絶え間なく与えられる熱で、全身が燃えるようだ。

必死に耐えようとしても、自分の口から零れていく音と吐息。それを止めようとして、とっくに解かれて自由になった手を口に当てても、レオの唇が、指が、彼のすべてがそれを許してはくれない。

肩を抱かれ、隙間のないほどに重なった肌。耳元でレオが息を吐くたびに震える心、大きな手のひらで肌をなぞられれば全身が粟立つ。

シーツを握っても逃れることのできないその行為の果てを、どこか期待している自分を否定できない。


(どうして……)


リアは朦朧とする意識の中、問いかけ続ける。

なぜ自分はレオの熱を欲しているのか。どうして、レオはこんなにも優しく触れてくるのか。

また……強引だったのは最初だけ。それからは、リアが抵抗といえるそれをしないだけで。


「――っ」


リアの頬に涙が伝い、レオの熱に応えるのとは違う“音”が漏れた。レオが動きを止める。


「リア」

「……っ、ぅっ」

「悪い、つらいのか?」


レオがリアの涙を拭って苦しそうに顔を歪め、荒い呼吸を整えるように長く息を吐く。

リアを気遣って頭を撫でてキスを落としてくれるレオを、リアは視線を上げて見つめた。薄っすらと汗の滲んだ額、少し速い息遣いが色っぽい。


「ん?大丈夫か?」


レオが汗でリアの額に張り付いた髪の毛を払って、微笑んだ。ドクン、とリアの心臓が高鳴る。


「ど、して……」


リアが掠れた声で問いかける。レオはそれだけでリアの涙の理由を悟り、リアの身体を抱きしめる。肌から直接伝わる熱と鼓動。


「すぐに、わかる」


耳元で囁かれて、リアが身体を震わせた。

レオの左手がリアの右手を絡めとり、右手で腰を更にレオの方へと引き寄せられる。その甘い刺激にリアは身体を跳ねさせて声を漏らした。

再び送られてくる甘い熱。

2人の距離が縮まって更に熱く押し寄せるその波に、リアは思わず左手でレオの肩を掴み、悲鳴にも似た声を上げる。

部屋に響き渡るその甘美な歌が、レオを、そしてリア自身をその場所へと追い立てる。


「リア、俺を見ろ」


シーツの中で重なる2人の熱がシンクロする直前、リアは霞がかった頭でそれを聞く。涙で滲む視界にレオが映り、彼が微笑んだのがおぼろげに見えた。


「呼んでくれ、俺の名前を」

「……レ……オ」


どうして、それを受け入れたのか分からなかった。だけど、自分の口から零れたのは紛れもなくレオの名で。リアは目を閉じた。涙が頬を伝い、再び送り込まれるレオの想いの大きさに、意識を攫われていく。

そして――

月だけが2人を見つめる中、レオがリアの身体を力強く抱きしめた。

刻まれる。

引き寄せられる。

何か、大きなものに――捕らわれる。



***



――早朝。

コンコン、と控えめなノックの音がして、レオが返事をすると鍵を使ってドアを開けたカタリナが入ってきた。あらかじめ、解除呪文を掛けておいた鍵。


「おはようございます」

「ああ、来たか」


レオはきっちりと昨夜と同じようベッドに腰掛けてリアの髪をゆっくりと梳いていた。シーツから少し見えるリアの白い肩、隠れた白い肌にも自分の散らした赤い華が咲いている。リアの頬には乾いた涙の跡が幾筋もついている。


「リア」


レオは静かにリアの名前を呼んだ。少しだけ、リアの口元が微笑んだように見えたのは、レオの願望か……あるいは。

期待をしてしまう。リアの体温も、香りも、すべてが1年前と同じなのに、彼女の心は――遠くなった。


「あの……」

「悪い、今行く」


カタリナの呼びかけにレオはそっとベッドから降り、ドアに向かう。


「リアが起きたら、湯浴みをさせてやれ。それから、何でもいいから食べさせろ」

「かしこまりました」


カタリナが頭を下げ、レオは頷いてリアの部屋を後にした。


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