10年前3
しかし現実を上手く現実として受け止められない。
僕はただぼぉーっとその人だかりと騒ぎとを眺めていた。
それからミエが目を覚まして声を出した、
「おにいちゃん?」
僕はミエを見下ろして、大丈夫、とだけ答えると、腕を伸ばしてミエを抱き起こした。
なぜか、普通に力が入った。さっきまでのぐったりした感じは無くて、ミエに対して抱いていた否定的な感情も無くて、普通に力が入りひょいとミエを起こすことが出来た。
「おいで。」
それから、また僕はミエをおぶるとその人だかりを回るようにしてその場を離れた。
雨は少しずつ弱くなっていった。
家に近い所までくるとミエがその事に気づいたのか、
「おりる!」
と言い出したのでおろして、手を継いで歩き出した。
そして玄関に近づいた時、ミエがこう言った、
「おにいちゃん!すごかったね!!」
それはミエがもうちょっと小さい時にカエルのおもちゃで遊んだ時に見せたような、無邪気な笑顔だった。
何がすごかったのか、それが大雨の事なのか、あの壁が崩れて人だかりが出来た事なのか、それとも、あの実現した「幻覚」の事なのか、僕にはまったくわからなかった。
だからこう答えた、
「そうだね。」
玄関に続く門を開けた時には、雨は上がっていた。




