表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トルネラ  作者:
1/1

無関心な男

 ふと立ち止まり考える。僕はいつから歩いていたんだっけ。振り向くとそこには大きな門があり、門番が二人背を向けて立っている。つい先ほどすれ違ったはずなのに、彼らの顔が思い出せないのは何故だろう。そもそも僕はどこから来て、どこへ向かっているんだ?一本道の続く先には、にぎやかな街の影が見え隠れしている。このまま進むべきか否か。

「おい、何を突っ立っているんだい。」

声のした方を見上げると、塀の上に黒猫が一匹座っていた。黄色い眼の猫は続ける。

「いつまでも立ち止まっていると、奴らに捕まっちまうぜ。」

「奴ら?僕は誰かに追われているのか。」

「取るに足らない問題だね。いずれにせよ進むしかないんだから。」

それもそうか。猫に諭されたのは気に食わないが、背後の門が開く気配はない。僕は再び歩き始めた。


 近づいてくる街の喧騒は異常ともいえるものだった。歌とも咆哮ともつかない不愉快な声が渦巻き、僕の鼓膜を激しく打つ。例の猫はいつの間にか姿を消していた。いよいよ耳を塞ぎたくなってきた頃、街の入り口を示す立て看板がぽつんとあるのを見つけた。暴力的なほど色とりどりに塗られた看板には、毒々しい赤色で「歓迎しない街」と書かれていた。僕のような来訪者を歓迎しない、という意味だろうか。失礼な話だ。僕だってこんな喧しい街は歓迎したくないというのに。だが仕方ない、ため息をついて街へと足を踏み入れる。一歩、吐いた息は無音の空間に吸い込まれて消えた。一瞬、自分の耳が機能を失ったのかと思った。先ほどまでの轟音は何処へやら、街はまさに水を打ったような静けさだ。


 街に人影は無かった。一様に並ぶ古びた家々は今にも崩壊しそうなものばかりで、窓枠に白く積もる埃は住人の不在を意味していた。なるほど、そもそも歓迎する人間がいないのか。ではあの音は何だったのだろうか。

「やぁ、君はまた立ち止まっているのかい。」

錆びたポストの上にあの黒猫がいた。楽しげに尻尾を振っている。

「誰も追ってきやしないじゃないか。この嘘つき猫め。」

「猫ってのは大抵嘘つきなんだよ。」


 ぱたぱた目ざわりな尻尾を引っこ抜いてやろうかと思ったその時、視界の端にゆらりと動く何かの影をとらえた。右手の暗い路地。その奥に何か、いや誰かがいる。息をひそめ、こちらの様子をうかがっているようだ。背中にひやりと汗が流れる。其処から目を離せないまま、じりじりと後ずさる。すると僕の動きに合わせるように影も動き、その手に持っているものが鈍く光る。刃物。とっさに走り出した僕を見て猫は笑う。

「残念だったね。オレは猫じゃないんだ。」

次に会ったら毛皮にしてやろうと、僕は逃げながら心に決めたのだった。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ