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2030年東京  作者: sinonome
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6

第六話


『六時間の空白』


地下基地の時計は午前一時を指していた。


モニターの上部に表示されたカウントダウンが、静かに減り続けている。


監視衛星バックアップ起動まで

残り 5時間42分


部屋の誰もがその数字を意識していた。


日本の都市監視システムは通常、三重の監視網で守られている。

地上カメラ、巡回ドローン、そして軌道上の監視衛星。


そのうちの一つが今、消えている。


わずか六時間。


だがこの国では、その六時間が奇跡に近い隙間だった。


黒崎は机の上に東京の立体地図を広げていた。


「もう一度確認する」


低い声が地下基地に響く。


「目標は国家記録庁」


誠一の胸がわずかに重くなる。


そこは自分が昨日まで働いていた場所だった。


黒崎が続ける。


「目的は二つ」


「一つ、監視AIの内部構造データ」


「二つ、都市監視ネットワークのバックドア」


誰かが口を開く。


「バックドア?」


誠一が答えた。


「緊急停止コードです」


全員の視線が誠一に集まる。


彼は少し躊躇してから続けた。


「都市監視システムには、万が一のための停止手順がある」


「大規模事故やAI暴走時のためのものです」


黒崎が言う。


「だがそのコードは公開されていない」


誠一はうなずいた。


「国家記録庁の最深部にある」


部屋の空気が少し緊張する。


黒崎が笑った。


「つまり」


「そこまで行けば、この国の監視を止められる」


誠一は小さく首を振った。


「簡単じゃありません」


彼は地図を指した。


霞が関地区。


東京の政治中枢。


「国家記録庁は地上十五階、地下七階」


「データセンターは地下五階」


「最深部は地下七階です」


誰かがつぶやく。


「要塞だな」


誠一は続けた。


「通常なら不可能です」


「でも今は違う」


黒崎がニヤリと笑う。


「監視衛星が落ちた」


誠一はうなずいた。


「その影響で、都市監視AIの再同期が行われている」


「一部の監視カメラは自動補完モード」


「ドローンの巡回ルートも乱れている」


黒崎は腕時計を見る。


「残り五時間」


彼は全員を見回した。


「やるぞ」


地下基地の空気が一瞬で変わる。


人々が動き始める。


装備の確認。


通信チェック。


ルート再確認。


誠一はその光景を見ながら思った。


昨日まで自分は、

この人たちを追う側だった。


黒崎が誠一に近づく。


「怖いか」


誠一は正直に答えた。


「はい」


黒崎は笑った。


「普通だ」


そして少しだけ真剣な顔になる。


「だが覚えておけ」


「この国は完璧じゃない」


誠一は小さく息を吐いた。


「昨日までは、完璧だと思っていました」


黒崎は肩をすくめた。


「みんな最初はそうだ」


そのとき、通信担当の女性が声を上げた。


「霞が関エリアの監視データ更新」


モニターに都市図が表示される。


赤い点がいくつも動いている。


「ドローン巡回ルートが不安定です」


黒崎が聞く。


「穴は?」


女性が画面を拡大した。


「ここ」


霞が関の西側。


古い地下鉄路線が表示される。


「戦争前に閉鎖されたトンネルです」


誠一が画面を見て言った。


「知ってる」


全員が振り向く。


「このルートは国家記録庁の地下三階の近くに出る」


黒崎の目が光る。


「使えるか」


誠一は少し考えた。


「……可能です」


地下基地に静かな緊張が走る。


黒崎が言った。


「決まりだ」


彼は装備を取り上げた。


小型端末。

EMPグレネード。

そして拳銃。


誠一はそれを見て驚いた。


「武装するんですか」


黒崎は当然のように答えた。


「相手は国家だ」


「丸腰で行くか?」


誠一は何も言えなかった。


黒崎は銃をホルスターに入れた。


「安心しろ」


「撃つつもりはない」


少し間を置く。


「できればな」


地下基地の入り口が静かに開く。


冷たい地下の空気が流れ込む。


黒崎が言った。


「出発だ」


誠一は深く息を吸った。


霞が関。


国家記録庁。


そこは日本の監視国家の中心。


そして――


自分が作る側にいたシステム。


その心臓へ、今から侵入する。


地下トンネルを歩きながら、誠一はふと思った。


もしこの作戦が成功すれば。


この国の監視社会は、

終わるかもしれない。


だがもし失敗すれば。


自分たちはただのテロリストとして消される。


遠くで電車の振動が響いた。


地下鉄の音だ。


東京は今日も眠らない。


だがその地下では今、

この国の未来を変える作戦が始まろうとしていた。


黒崎が小さく言った。


「残り五時間」


そして、暗いトンネルの奥へ進んでいく。


誠一はその背中を追った。


彼はまだ知らない。


国家記録庁の地下に、

人類の歴史を変える秘密が眠っていることを。

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