9話 喪失
私が本当に聖霊力を失ってしまったのかを確認するために、神官たちが王宮へ持ち込んだ聖霊具でくわしく調べた。
「完、完全にクレマンティーヌ様の聖…… 聖霊力は失われています……っ!」
私の聖霊力を調べてくれた神官は、よほど衝撃を受けたのだろう。声を震わせ呆然としている。
「やはりそうですか」
「ク、クレマンティーヌ様、なぜこんなことになったのでしょうか……⁉」
「……それは」
(さすがに私が王太子殿下に復讐したかったからとは言えないわ)
神官の質問にどう答えれば良いか迷っていると、調査に立ち会ったパトリス卿が私のかわりに答えてくれた。
前もってパトリス卿は全面的に私の味方をすると、約束してくれていたから。
「神官殿、おそらくですが…… クレマンティーヌ様は王太子殿下に命令された大規模な浄化や大量の聖霊石を作らされたことで、聖霊力が枯渇してしまったのではないかと思われます」
女神に仕える神官は民のお手本となるために、常に平常心でいることが当たり前だが。カッ!と怒りをあらわに声を荒げた。
「あれほどの力を持っていたクレマンティーヌ様が! ……枯渇するほど聖霊力を使用したのですか⁉」
「はい」
フィリップ殿下に命令されて私がこなしていた、ここ最近の仕事内容をパトリス卿は細かく説明する。もちろん、この説明にウソや誤魔化しは1つもない。
「以前から神殿がわでも問題になっていましたが。王国の宝でもある聖霊姫様に、王太子殿下はそこまで苛酷なことをさせていたのですか⁉」
「はい。護衛についている我々も何度か抗議をしたのですが、殿下に聞き入れてもらえませんでした」
「我々は何度も聖霊姫様に無理をさせて、お身体を壊すようなことだけはしないで欲しいと、フィリップ殿下にお願いしたのに!」
私とは親子ほど年の差がある高位神官は、悔しそうににぎった拳を震わせる。
以前は王家と同等の立場だったルミエール神殿は、現王が即位してから蔑ろにされるようになり王国内での力が弱まっている。
現王は神殿の権力を削るために、聖霊王ルミエール様を称える祭祀を次々と廃止したからだ。神官の怒りは溜まりに溜まっていた。
「聖霊王様の大いなる加護が…… クレマンティーヌ様からこれほど急になくなるなんて。ルミエール様はお怒りなのでしょう」
「ごめんなさい。こんなことになってしまって」
(本当は自分の怒りを抑えられなかった私のせいだわ)
私が無責任なのはわかっているけど。
「クレマンティーヌ様ほど聖霊力が強いかたは、歴代の聖霊姫の中でも稀なのに。こんなにも唐突に…… これからどうすれば……⁉」
聖霊姫の加齢や体調不良で、聖霊力を少しずつ失ってゆくのが通常のパターンだから。神官の動揺もうなずける。
私のような聖霊力の失いかたは、異常なのだ。
こうして私の聖霊力は失われたと、神官の手で正式に証明された。
◆ ◆ ◆ ◆
私が聖霊力を失ったことが国王陛下に報告されると、神殿から派遣されて来ていたパトリス卿と引き離されて私は王宮の私室に監禁された。
聖霊力を失い聖霊姫ではなくなった私は、王宮から追い出されると覚悟していたから。部屋に閉じ込められるぐらいのことは想定内だった。
「今後は下級神官となって地方の神殿かどこかで、聖霊王ルミエール様にお仕えできれば…… 私はそれで満足だわ」
───私は単純にそう思っていた。
でも、私の予想は大きく裏切られた。




