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聖霊姫はクズ王太子を断固拒否する!  作者: みみぢあん


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6話 痛み


 ラウレル様と命を落とした騎士たちのことを思い、両手を組み合わせて私は馬車の中で祈りをささげた。


「聖霊王ルミエールのもとで、最期(さいご)まで勇敢(ゆうかん)に戦った魂たちに安息を……」


 光をまとった小さな妖精たちが、どこからともなくフワリとあらわれて私のまわりを飛びまわる。

 私の祈りに誘われて来たのだ。


 虫のようでもあり小さな人のようにも見える妖精たちは、祈りの時に放たれる私の聖霊力を求めていつも集まってくる。


「いつ見ても不思議な光景ですね。私の弱い聖霊力では、ここまでたくさんの妖精たちは呼べませんから…… 本当に素晴らしい」


 パトリス卿は指先で妖精をつつきながらほほ笑んだ。

 わずかでも聖霊力を持つパトリス卿だから、妖精に触れられるのだ。


 聖霊力をもたない一般人が触れれば、とたんに清らかさを維持できずに妖精たちは弾けて消失してしまうから。


 清らかな存在の妖精たちは瘴気で汚れた王都付近では、こうして祈りをささげた時にしか姿を見せない。


「私が産まれた田舎では祈りをささげなくても、妖精たちは私のまわりを楽し気に飛び回っていたのに…… さびしいことですね」


「それほど今の王都が瘴気で汚れているということですか?」

「はい。王宮にある神殿でさえ毎朝浄化しても、翌日になれば瘴気で汚れてしまうぐらいですから」


「やはり、以前は行われていたいくつかの祭祀(さいし)を、国王陛下が費用を削減(さくげん)するために廃止してしまったのも原因でしょうか?」


 月初めに王都の4カ所で同時に行う祭祀(さいし)や、その月に生まれた平民の赤子を祝う祭祀。その他にも小さなものがいくつもあったけれど……

 本来はそういった小さな祭祀をすることで、つねに王都は浄化され瘴気が発生しにくくなっていたのに。


「ええ、その通りです。私は瘴気の汚れを肌で感じますから、間違いありません」


 王家は祭祀のたびに神殿へ寄付金と供物を捧げなければいけない。国王陛下はそのお金を無駄だと考えたのだ。

 何よりもそうすることで、王家よりも王国民に支持されている神殿の影響力を削ぐことができるから。


「それにラウレル様が亡くなり現王が即位したころから、王都を汚す瘴気の発生量が多くなった気がします」


 瘴気は人間の負の感情に引き寄せられて発生しやすい。つまり王都の人たちは不幸な人が多いということだ。


 そのせいで神殿の神官たちは、『現王は聖霊王ルミエール様に嫌われている』と言っていた。

 

「……」

 険しい表情をうかべてパトリス卿はだまりこんでしまった。


「またパトリス卿に甘えてしまいましたね」

(男性の膝で熟睡していたなんて……)


 考えただけでも、恥かしくて頬が熱くなる。


 パトリス卿は険しかった表情を解いて、自分の指先に(たわむ)れる妖精たちを見つめながら答えた。


「いいえ。クレマンティーヌ様はもっと頼ってくれも良いぐらいです」

「パトリス卿がいなければ、私は今ごろ心が壊れていたでしょうね……」


 ラウレル様を死なせてしまった罪悪感で生きる気力を失っていた私を、パトリス卿は励ましながら寄りそってくれた。


「クレマンティーヌ様、あなたを守ることで私も救われるのです。どうかお気になさらず」


 パトリス卿も私と同じ罪悪感をかかえ、ずっと苦しんでいるのだ。


 ラウレル様が命を落とした魔獣の襲撃事件のあと。

 パトリス卿は辺境伯家の後継者の座を弟にゆずり、神殿直轄の聖騎士団に入団して私の護衛騎士となった。


 たぶんパトリス卿はラウレル様の意思を継ぎ、婚約者だった私を守ることで罪をつぐないたいと思っているのだろう。


「パトリス卿、聖霊姫の私は誰よりも清らかな心を保たなければいけないのに。どうしてもラウレル様を殺した、今の国王陛下とフィリップ殿下が憎くてたまらないの」


 ラウレル様が亡くなると、先代の国王陛下は息子の後をおうように病状が悪化して亡くなった。


 そして王国はラウレル様の死で王太子が不在となったため、王弟殿下が国王へ即位して息子のフィリップ殿下が立太子した。


 そして今では──

 私が愛したラウレル様を殺した現国王陛下(反逆者)の息子、フィリップ殿下と私は婚約している。


「どうか、クレマンティーヌ様。これ以上、ご自分を責めないで下さい」

「パトリス卿、私は……」

 

 私の祈りで姿を見せていた妖精たちに、私の激しい怒りがつたわり…… 順番に消えて行く。

 パトリス卿は自分の指先に(たわむ)れていた妖精が、次々と消えて行く姿を悲しげに見送った。


「……きっとラウレル殿下もクレマンティーヌ様が心おだやかでおられることを、望んでいるはずです」


「でもパトリス卿! ラウレル様が守りたかった民たちのために、私は自由に聖霊力を使うことができないのよ?」

(フィリップ殿下の命令で王宮から出られなければ、何もできないわ!)


 私の聖霊力が必要なのは、裕福な貴族たちよりも貧しい民のほうなのに。


「それでもです。クレマンティーヌ様」

「このまま聖霊王ルミエール様からいただいた聖霊力を道具のように使われ、私利私欲にまみれた貴族たちに利用され続けるなんて! ……もう嫌なの!」

「クレマンティーヌ様……」


「そんなの耐えられない! こんなことをするためにラウレル殿下やたくさんの騎士たちを犠牲にして、私は生き残ったのではないわ!」


 ラウレル様を殺した人たちに復讐できるなら、今すぐ聖霊力を失っても良いとさえ思えてくる。


 本当の私はただの平凡な人間で、特別な役目をになう聖霊姫の器ではないのだ。

 



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