5話 婚約者ラウレル2
パトリス卿にラウレル様の面影を感じていると、どうしても懐かしい思い出にひたってしまう。
記憶の中のラウレル様はいつも、私を子供扱いして頭をポンポンッとした。
『レベッカ、また泣いていたのか? 聖霊姫の修行はそんなに辛い?』
『ち、違います。ラウレル殿下!』
『違うの?』
『私は修行が辛くて泣いていたのではありません』
『だったら、なぜ泣いていたの?』
『聖霊石をうまく作れなくて悔しいだけです!』
『ああ、レベッカは負けず嫌いだからなぁ……』
私は歴代の聖霊姫の中でも聖霊力が強すぎて、聖霊石を作るときに力の制御をまちがえて魔石のほうが、私の聖霊力に耐えられず砕けてしまうのだ。
『うらやましい悩みだね。私が聖霊石を作ろうとしたら、毎日がんばっても1年に1個作るのがやっとなのに』
『でも…… 今日は3個も魔石をダメにしてしまったから』
『そうか』
亡くなったラウレル様のお母様(王妃陛下)も聖霊姫だったから。ラウレル様もその血を継いで、弱いながらも聖霊力を持っている。
だから聖霊力を持つ者の特徴で、ラウレル様の瞳は金色だ。
ちなみに私の聖霊力はラウレル様よりも強いから、瞳の色は金色を通りこして金色をおびた紅玉色。王国に私1人しかいない瞳の色である。
『ダメだよ、レベッカ。そんなふうに目をこすったら……』
涙の痕跡を消そうとゴシゴシと目をこすっていたら、ラウレル様は上着の内ポケットからハンカチを出して私の涙をぬぐってくれた。
『ありがとうございます。殿下』
『殿下だって……? 私は君の婚約者だよ?』
ラウレル様は少しだけ意地悪な顔をして、ピクンッ…… と右の眉を跳ね上げた。
『……ラ、ラウレル様!』
『よし、よし、その調子でレベッカはもっと私に甘えると良いよ』
『//////……っ』
『ふふふっ…… レベッカはすぐに顔が赤くなってかわいいね? 瞳が紅いからかな?』
『もうっ! ラウレル様の意地悪!』
4歳も年上だと、私は何をやってもラウレル様に子供扱いされてしまう。婚約者というよりも、兄と妹のようで不満だった。
当時は恥ずかしさを感じていたけれど、今は胸をしめつけられるような切ない思い出にかわった。
「パトリス卿。ラウレル様が亡くなってから…… もう、2年も過ぎたのですね」
「はい」
パトリス卿はラウレル様の親友でもあり。私とラウレル様が魔獣の襲撃を受ける直前に、浄化のために訪問した辺境伯家の長男だ。
──そしてラウレル殿下の最期を見た人物。
聖霊姫の私を救うために、魔獣の襲撃に対応した騎士たちの大半が命を落とした。
当時の記憶を思い出したらしく、パトリス卿は沈鬱な表情をうかべる。
「あの時…… かろうじて生き残った私や数人の騎士たちは、本当に運が良かった」
救援でかけつけた辺境伯家の騎士たちが、パトリス卿を見つけた時は瀕死の状態だったそうだ。
そしてラウレル様は魔獣に喰い荒らされた、無残な姿で見つかった。
それも損壊した遺体が着ていた服の切れはしで判別して、辛うじてラウレル様だとわかったらしい。
「できれば私もラウレル様と一緒に死んでしまいたかったわ……」
王都で葬儀を行った時も遺体の損傷が激しかったため。
ラウレル様の棺を開くことを許されず、私は婚約者の顔を見ることもできなかった。
「そんなことを考えてはいけませんよ、クレマンティーヌ様」
「私を生かすため犠牲になった人たちのために、そんな考えはすてなければいけないとわかっています」
でも──
「クレマンティーヌ様、私も生き残った自分の幸運を呪ったことがあります。だからあなたの気持ちはわかります」
パトリス卿の祖母、先代の辺境伯夫人は王家から降嫁した聖霊姫の母を持つ元王女だ。
だから母方から聖霊力を扱える血を継いだパトリス卿のお祖母様に、浄化を終えて辺境伯領を旅立つ前に私の力を込めた聖霊石をいくつか贈った。
それが功を奏し先代辺境伯夫人は聖霊石を使って、孫のパトリス卿を治療し瀕死の状態から命をつなぎとめた。




