3話 悪夢
伯爵領から王都へと帰る馬車にゆられながら……
大規模な浄化で疲れ切っていた私は、気絶するように眠りについた。
『レベッカ、逃げるんだ!』
『嫌です! ラウレル様と一緒に私も戦います!』
『戦いは私と騎士たちにまかせて、君は自分の安全を一番に考えてほしい』
王太子ラウレル殿下と婚約者の私は辺境伯の依頼で、瘴気が大量に発生した辺境伯領の大規模な浄化をおこなった。
無事に依頼を終えた私たちは、王都への帰り道で凶暴化した魔獣の群れに襲われた
『私が聖霊力で凶暴化した魔獣を浄化すれば、少しは勢いを削げるはずだわ!』
『ふふっ…… レベッカは本当に勇敢だね。でもそんな危険なことを君にはさせられないよ』
緊急時にもかかわらず、ラウレル様は金色の瞳をやわらげて苦笑する。
『それにラウレル様、私がいれば騎士たちの助けになります!』
『ダメだよレベッカ、それは許可できない。聖霊姫の君は誰よりも王国の民に必要な人だからね』
『私よりも王太子のラウレル様のほうがもっと必要だわ!』
『いいや、レベッカ。悔しいけれど、私の代わりはいくらでもいるんだよ』
ラウレル様のお父様(国王陛下)が病に倒れ、今は王弟殿下が王国の実権をにぎっている。
王弟殿下はラウレル様ではなく、自分の息子のフィリップ殿下を王太子にしたがっていた。
ラウレル様と私は辺境伯家を巻き込んで、王弟殿下の野望をかなえるための罠にはめられたのだ。
『嫌よ、ラウレル様! 私も残って戦います!』
『すまない、レベッカ……』
『私は逃げたくないわ!』
『愛しているよ、私のかわいい聖霊姫』
懇願する私をきつく抱きしめ、ラウレル様は私の頬にキスをした。
『レベッカ、私のことを思うなら逃げてくれ!』
『嫌っ!』
私は必死でラウレル様にしがみついたけど……
辺境伯家の後継者パトリス卿が、私をラウレル様から引き離した。
『ラウレル殿下のいうとおりです。聖霊姫クレマンティーヌ様! 今のあなたの仕事は、何としても生き残ることです』
『は、はなして、パトリス卿!』
『クレマンティーヌ様、あなたを守りながらではオレたちは思う存分、魔獣と戦えない!』
パトリス卿は嫌がる私を無理矢理、馬車にのせた。
『どうかお逃げ下さい! 必ずオレがラウレル殿下をお守りしますから!』
『嫌です! お願い、パトリス卿!』
御者にパトリス卿が合図を出すと、私をのせた馬車は猛スピードで走りだす。
『嫌あぁぁぁぁ───っ!』
激しくゆれる馬車の窓にはりつき外を見ると、腰に下げた剣を鞘から抜くラウレル様とパトリス卿が見えた。
『嫌っ! ラウレル様! ラウレル様──っ!』
2人からグングンと遠ざかり小さくなったラウレル様に魔獣が襲いかかった瞬間、私が乗る馬車はカーブに入り視界からラウレル様の姿が消えた。
──それが、私が見たラウレル様の最後の姿だった。
「ラウレル様! ラウレル様! 嫌あぁぁぁ────っ!」




