22話 判決
どんよりと曇り小雨がしとしとと降っていた空はいつの間にか雨が止み、雲の切れ間から光が差していた。
処刑場に集まっていた王国民たちにむかって、ラウレス様は剣を掲げた。
「この場に集まった者たちに、私…… ラウレルは伝えたいことがある。どうか、耳をかたむけて欲しい!」
聖霊具でパトリス卿に姿を変えていたラウレル様は本来の姿に戻り、頭上から差す光が金の髪に反射してキラキラと輝いて見える。
「なんて高貴なお姿だ。あの方がラウレル殿下だって?」
「クレマンティーヌ様を処刑から救って下さったのだから、きっとそうだ!」
「王宮で働いてたから、オレはお姿を見たことがある。間違いない、ラウレル殿下だ!」
「おお…… ラウレル殿下!」
ザワザワとしていた民たちは、ラウレル様の呼びかけで話すのを止めて耳をかたむけ静まり返る。
数年ぶりに人前にあらわれたラウレル様はあまりにも神々しく。
神殿で高位神官からお告げを聞かなくても、ラウレル様の光り輝く姿を見ただけで『ラウレル殿下は聖霊王ルミエール様の祝福を受けた』とその場にいる誰もが思っただろう。
「聖霊姫クレマンティーヌを冤罪で処刑しようとしたうえに、2年前の王太子だった私…… ラウレルの暗殺未遂! そして先王を毒殺し、数度の大罪を犯した偽王とその息子フィリップ! ならびに協力した謀反人たちをたった今、捕縛した!」
ラウレル様から一歩下がり私は王国の安寧を願い聖霊王ルミエール様に祈りをささげ、ラウレル様の宣言を聞いた。
王宮前の広場は私の祈りと浄化の光で包まれる。
祈りとともにはなった私の聖霊力に引きよせられて、光り輝く妖精たちが王国民の頭上を飛びまわった。
まるでこの時を祝福するように。
きっと歴史に残る奇跡の瞬間となるだろう。
「ラウレル殿下───っ!」
「おおぉぉ───っ! やっぱりクレマンティーヌ様は無実だったんだな!」
「ラウレル殿下───っ! ばんざい!」
「謀反人フィリップを、今すぐ処刑してください!」
「クレマンティーヌ様! ラウレル殿下!」
民衆の声に答え、ラウレル様は大きくうなずいた。
「近いうちに私は謀反人たちを正しく裁き、罪をつぐなわせることを約束する!」
◆ ◆ ◆ ◆
数ヶ月後。
ラウレル様の宣言通りに偽王とフィリップ、そして謀反に協力した元聖霊姫リュシエンヌの生家グルヴィリエ公爵家など。
正式に裁判が開かれ、それぞれの刑が決まった。
処刑場で執行官に罪状を読み上げられ、主犯格の謀反人たちは死刑の執行を言い渡される。
フィリップは泣きさけびながら騒いだ。
「待ってくれ、僕はやってない! 謀反なんて全部、父上がやったんだ!」
「愚か者! だまれフィリップ! それでも私の子か?」
フィリップの隣に立つ父親が諫めても、フィリップの命乞いは止まることはなかった。
「父上が悪いんだ! 僕は何も知らなかった! 罪は犯してない───っ!」
首を落とされた死刑囚たちの血を吸い、黒ずんだ囚人服を着せられたフィリップが、大騒ぎする見苦しい姿に……
処刑を見るため、処刑場に集まった民衆たちはゲラゲラと嘲笑した。
「往生際が悪いぞ! 大罪人を早く殺せ───っ!」
「元王子のくせに恥ずかしくないのか?」
「やっぱり偽物は偽物だな!」
「聖霊姫様はもっと立派だったぞ!」
王太子の地位をとりもどしたラウレル様と、ラウレル様の婚約者となった私は、気は進まなかったけれど。
立場上、元王族の偽王とフィリップの処刑に立ち会うために、処刑場に足を運んだ。
私の姿を見つけたフィリップはさらに騒いだ。
「嫌だ死にたくない! 僕の婚約者だろ? ク、クレマンティーヌ、助けてくれ!」
「黙れ、謀反人が! なんて不敬なことを口にするのだ!」
警備の騎士がフィリップを抑えようとするが、命乞いの声はさらに大きくなってゆく。
「クレマンティーヌ、お願いだ! どうか慈悲の心で僕を…… 聖霊姫なら僕を救ってくれぇぇ───っ!」
今さら刑が覆ることはない。
知らないなら知らないなりに、王太子の立場を正しく理解して誠実に仕事に取り組んでいれば……
情状酌量で減刑もあり得たかも知れない。
──だが、フィリップにはその余地すら無かった。
先王が崩御して以来、2年の間に私利私欲を貪ってきた貴族たちは家門ごと断頭台の露と消えた。
その中には私が領地を大規模浄化した、伯爵家も含まれていた。
ちなみに元聖霊姫リュシエンヌは、北部の神殿へ送られた。
ラウレル様はリュシエンヌもグルヴィリエ公爵家とともに死刑にするつもりだったけど。
私が死刑は止めるよう進言したのだ。
「ラウレル様、弱くても貴重な聖霊力を持っているリュシエンヌを、処刑するのはもったいないです」
「だが、レベッカ……」
「彼女は自分がどれだけ大きな罪を犯したのか、もっとその意味を理解するべきです」
リュシエンヌは神官見習いよりも下の地位に降格された。
厳しい監視のもとで聖霊石の制作に従事することを条件に、リュシエンヌの罪は減刑された。
プライドが高く贅沢に慣れたリュシエンヌには、質素で惨めな生活が死ぬよりも辛い罰になるはずだから。
だから私は、けしてリュシエンヌの罰が軽いとは思わない




