21話 狼煙3
「……どうして?」
取り乱したフィリップを見ていた私は、レベッカのつぶやき声が聞こえ振り向いた。
「ラウレル様、なぜ……?」
レベッカの大きな瞳が『なぜ、あなたが生きていると教えてくれなかったの?』と訴えかけてくる。
私はレベッカの華奢な肩に手をおき、疑問に答えた。
「パトリスと護衛騎士たちが、命をかけて私を守ってくれた。それに君がくれたお守りの聖霊石もだ」
レベッカが作ってくれた聖霊石は、魔獣に襲われた時に聖霊力を使い切り砕け散ってしまったけれど。
あの聖霊石が私の命運を分けた重要なアイテムだった。
「……っ」
レベッカの大きな目から次々と涙がこぼれ落ちる。
「私が生きていることを現王に知られれば、また命を狙われるとわかっていたから。辺境伯と相談してこの聖霊具を使い、パトリスの姿を借りることにしたんだ」
「本物のパトリス卿は?」
私を最期まで守って亡くなった、親友パトリスのことを考えると───
罪悪感と激しい胸の痛みで呼吸するのも苦しくなる。
「今は私のかわりに…… 私の墓で眠っているよ。早くパトリスを故郷に帰してやらないと……」
(死んだあとまで私をパトリスに守らせ酷使しているなんて)
親友と忠実な護衛騎士たちを残し、私一人だけが逃げのびた。あの時の屈辱と無念を…… 私は生涯、絶対に忘れない。
魔獣の襲撃で重傷を負って治療が追いつかず動けない私を隠して守り、パトリスの父親の辺境伯が息子の死を偽装して手配をしてくれた。
辺境伯は自分の息子が命をかけて守り抜いた私を必ず守ると───
「ああ……」
「黙っていて悪かった。レベッカはフィリップと行動を共にすることが多いから、君に私が生きていると伝えれば、君自身が危険にさらされると思ったんだ」
そのせいで私は君をたくさん悲しませて、傷つけ…… 泣かせてしまった。
情に絆され、悲しむレベッカに『私は生きている』と何度も言いそうになったけど。レベッカは誠実で真っ直ぐな性格だから、ウソやかくしごとが苦手だ。
周囲に秘密を見やぶられる危険があり、だから言えなかった。
「……」
レベッカは黙って私の話にうなずいた。
賢い娘だから自分の感情よりも、私の事情を優先して納得してくれたのだろう。
一生かけて、この埋め合わせをするつもりだ。
「パトリスとなった私は聖騎士団を頼って、王宮へ自由に出入りできる君の護衛役となった。先王の毒殺に関わる人間を特定して、証拠を集めていたんだ」
その努力が実り、ようやく王権を取り返そうとしていた時に……
レベッカの処刑が発表され私と辺境伯は計画を前倒しして、今日に至った。
「ラウレル殿下、あれを見て下さい! 王宮からも狼煙があがりました! 辺境伯殿の王宮制圧が成功したようです!」
聖騎士団の副団長が王宮を指差し、周囲の者たちにも聞こえるよう高らかに報告した。




