20話 狼煙2
レベッカにキスをした私の姿を見て、従弟フィリップがゲスな勘違いをして非難の声をあげた。
「お前たちっ……! や、やっぱりデキていたのか? 前から怪しいと思っていたんだ!」
「そ、そんなバカなことするわけないでしょう? 自分たちと同じにしないで!」
カッ! と腹を立てたレベッカが烈火のごとく怒り、フィリップに言い返した。
「なんだと? この汚らわしい下賤の女が!」
「フィリップ殿下、あなたに汚らわしいなんて言われたくないわ!」
嫌悪感が爆発したのだろう。レベッカの顔に蔑みの表情がうかぶ。
「リュシエンヌとあなたが肉体関係を持っていることを、私が知らないとでも思っているの? 王宮中の使用人が気付いているのに!」
「お、おまえ……!」
「殿下とリュシエンヌの汚れた関係を、知らない人の方が少ないぐらいよ!」
「この……っ…… 生意気な女が!」
頭から湯気が出そうなほど顔を真っ赤にして怒るフィリップ。
「黙れ、フィリップ! お前の負けだ!」
(フィリップのような低能な愚か者が、私のレベッカに勝てるはずないさ)
思わず私はニヤニヤと笑ってしまう。さらに怒りを爆発させたフィリップは躾の悪い犬のように騒ぎ続ける。
「この……っ! パトリス───っ!」
「それに私には、クレマンティーヌとキスをできる資格がある」
「資格⁉ 何だと!」
私は騎士服の下に、首から下げていた魔石がついたペンダントを引っぱりだした。
それを見た瞬間、早速レベッカが気づいた。
「あっ! パトリス卿、それは……」
「レベッカならペンダントが何か知っているだろう?」
「奇跡の力が宿る聖霊具だわ!」
「うん。その通りだ」
私はレベッカにうなずいた。私の手にある聖霊具は、始祖王時代に作られた王家の秘宝で“変貌の蕾”と呼ばれていた物だ。
王宮の宝物庫には何百年も前から、秘宝と呼ばれる貴重な聖霊具がゴロゴロと眠っている。
「王家が所有する始祖王時代の秘宝のほとんどが大量の聖霊力が必要で、聖霊姫たちの聖霊力が弱まった今の時代になると使うことができなくなったけど……」
レベッカが何かを期待するような、緊張した面持ちでうなずいた。
「ええ…… おぼえています。ラウレル様に頼まれて、私がその聖霊具に聖霊力を注いだから」
「君と聖霊具のおかげで…… 私は今まで自由に動くことができた」
以前の私は好奇心から秘宝の力を試してみたくなった。
そこでレベッカに頼んで大量に聖霊力を注ぎこんで、聖霊具に宿る奇跡の力を復活させた。
……ただ、この聖霊具。“変貌の蕾”の力を他人に悪用されると面倒なことになりそうで、私とレベッカの秘密にしていた。
「パトリス卿、あなたは…… ラウレル様なの?」
「うん」
囁くようなレベッカの小さな声に、私はうなずいた。
手の中のペンダントに指先から聖霊力を流すと──
金色の聖霊文字がペンダントにいくつか浮かんで、ふわりと消える。
私の赤い髪は元の金髪に戻り。雄々しい印象のパトリスの顔は、私の母上ゆずりの柔らかな印象の顔に。
金色の瞳はパトリスよりも蜂蜜色に近い金色に……
目を見開き私を見つめるレベッカの瞳から涙がこぼれた。
「レベッ……」
「ウ、ウソだ! ウソだぁぁ───っ! ラウレルは死んだはずだぁぁ───っ!」
レベッカに私の事情を説明しようとしたとき、フィリップが取り乱し不快な叫び声で邪魔をした。
思わず私は顔をしかめ、フィリップを睨みつけた。
「残念だったなフィリップ、私はこのとおり生きている。王太子の座は返してもらうぞ!」
「お、お前は…… あ…… 悪霊か? お前はラウレルの悪霊……! ひいぃぃぃ……っ!」
狂ったように騒ぎ出したフィリップは少しでも私から離れようと、処刑台の上をずりずりと手をしばられた状態で後ずさる。
「まったく…… 昔から気が小さいヤツだとは思っていたけど」
(あれで本当に、次の国王になる気でいたのか? あきれるな!)




