16話 祈り
結果的に聖霊姫の役目を放棄することになった私は、贖罪の気持ちを込めて王国民のために最期の祈りをささげた。
そんな私の思いが強過ぎたからか、妖精たちを呼びよせてしまったらしい。
「……あっ!」
(私の聖霊力は失われたはずなのに。なぜか聖霊力がもどっている? なぜ???)
フィリップ殿下とリュシエンヌ、断頭台に私を押さえ付けていた近衛騎士たちも。
その場にいる者たち全員が私のまわりを飛び回る妖精を見て動揺している。
私を断頭台に押し付けていた近衛騎士の力が、妖精たちに気をとられてゆるんだ。そのすきに私は身体を起こして妖精たちを見あげた。
リュシエンヌが叫んだ。
「聖霊力に引かれてくる妖精だわ!」
「どういうことだ? クレマンティーヌは聖霊力を失ったとウソをついたのか⁉」
フィリップ殿下が私の周囲を飛び回る、妖精に触れようと手をのばした。
「あっ、ダメ! やめてぇ───っ!」
(パトリス卿のように聖霊力が無いと、妖精たちが消えてしまう!)
聖霊力を持つ者はその身に瘴気を寄せ付けず、清浄にたもつことができるが。フィリップ殿下のような常人ではそうはいかない。
フィリップ殿下の指に触れたとたん、妖精がパチンッ! とはじけて消えた。
清らかな存在の妖精が、王都の瘴気にまみれたフィリップ殿下に触れて消滅したのだ。
「穢れた手で妖精に触れないで下さい! 清らかな存在の妖精たちはつねに自分自身を浄化できる、聖霊力を持つ者以外が触れると消滅してしまいます!」
私は叫んでフィリップ殿下と近衛騎士たちに警告を発した。
実際に弱い聖霊力があるリュシエンヌが触れても、妖精たちは消えていない
「僕が穢れているだと? この女……っ!」
自分が穢れていると言われて気分を害したフィリップ殿下は、私への怒りで顔を真っ赤にする。
私は相手の心理状態にかまっていられず、容赦なく警告を続けた。
「たとえアナタが王太子殿下でも、聖霊王ルミエール様の子供たちを殺せば怒りを買いますよ!」
「なっ……!」
妖精たちがフワフワと私の頬にすりよって来た。
「ごめんなさい。私の祈りに引き寄せられてきてしまったのね?」
以前のキラキラとしていた妖精たちの輝きがうすれている。
私の聖霊力がなくなり祈りをささげて王宮を浄化できなくなったため。
穢れや瘴気に弱く影響を受けやすい清らかな存在の妖精たちが、誰よりもダメージを受けたのだろう。
「おおおぉぉぉ───! 奇跡だ! 聖霊姫クレマンティーヌ様の奇跡だ!」
動揺していたのはフィリップ殿下と近衛騎士だけではなかった。
処刑台を囲んだ民衆が叫び出した。
「聖霊姫様が大罪人だなんておかしいと思ったんだ。全部、たらめだ! 王太子殿下のウソだ!」
「聖霊姫様にこんなことをしたら、天罰が下るぞ! なんて恐ろしいことを!」
「私たちはクレマンティーヌ様を信じていました! クレマンティーヌ様!」
「大精霊ルミエール様、どうか聖霊姫様をお救い下さい!」
処刑人が光る妖精たちに動揺し私の首を切り落とすことに躊躇しているうちに、人々は興奮し王宮前広場が異様な熱気で包まれる。
王都では滅多に見ることができない妖精たちを、その目で見ることで聖霊王ルミエール様を身近に感じられたからだろう。
「クレマンティーヌ様を救え───っ!」
「救え──っ! 救え──っ! 救え──っ!」
「クレマンティーヌ様を解放しろ───っ!」
「うおおぉぉぉぉ─────っ! クレマンティーヌ様をみんなでお助けするんだ!」




