14話 茶番劇
王宮前の広場に集まった民衆の前で、私に謝罪しろと強要するフィリップ殿下とリュシエンヌ。
私が自分の命を惜しんで『言うとおりにするので、死刑は止めて下さい』と懇願させようとしているのだ。
今まで序列1位の聖霊姫として、私が積み上げてきた名声を壊したいのだろう。
私はあきれてハァ───…… とため息をつき、思わずつぶやいた。
「こんな茶番劇はいいかげん、やめて欲しいわ」
(この2人はどこまで私をバカにするの?)
これ以上2人の思いどおりになる気はないと、私はプイッと横を向く。
私が視線を向けたその先に、民衆にまぎれて頭から深くマントを被ったパトリス卿を見つけた。
会いに来てくれたのだ。
「あっ……!」
(パトリス卿…… 今まで私を守って下さり、ありがとうございます。直接、感謝の言葉を伝えられないことを許して下さい!)
視線が合ったパトリス卿に、思わず私は『最後に会えて良かった』とほほ笑んだ。
「……」
(私は先にラウレル様の元へ行きます。あなたはどうか、なるべくゆっくり来てくださいね)
パトリス卿は険しい表情で私を見つめている。私がおかれた理不尽な状況に怒っているのだ。
「黙っていないで何とか言え、クレマンティーヌ!」
「そうですよ、クレマンティーヌ様! どうか私に謝罪して下さい!」
私とパトリス卿の別れの時を、フィリップ殿下が邪魔するように怒鳴った。続けてかん高い声でリュシエンヌも加わる。
2人とも私が許しを請うと信じているのか、ニヤニヤと目が笑っていた。
「本当に救いようがない人たち!」
罪人が処刑される時は普通、舌を切るか口をふさぐ。……でも私はそうされなかった。
もちろん本人たちが言うようにフィリップ殿下とリュシエンヌに慈悲の心があったわけでは無い。
私が惨めに謝罪し2人に懇願する姿を、民衆の前で演出したかったのだろう。
(いかにも甘やかされて育った人たちの楽観的な考えかただわ。そんな人たちの理屈が私には通用しないと思い知らせてやる!)
スゥ───…… と深く息を吸い込み、私も民衆に聞こえるように大きな声で叫んだ。
「あなたたちに謝罪することなどありません! 反省し悔い改めなければいけないのは、フィリップ殿下! リュシエンヌ! あなたたちのほうです──!」
欲を出して私を辱め懇願させようとして、わざと私の口をふさがず舌を切らなかったことを後悔すると良い。
私の反論でニヤニヤ笑いをうかべていた2人の顔が、怒りで真っ赤にそまった。
「なっ! この…… 大罪人がぁぁ───っ!」
「ひどいわ! 私はあなたに慈悲をあたえようとしたのに!」
「私はこれ以上フィリップ殿下の二日酔いや、リュシエンヌの便秘を治療するために聖霊力を使いたくありません! だから今の自分に満足しています!」
フィリップ殿下の命令で公爵令嬢のニキビの世話をするために。
瘴気や魔獣に関係する浄化や重傷者の治療を後回したことも、1度や2度の話ではない。
「ク、クレマンティーヌ! 何を言っているの? 私は便、便秘なんてしていないわ!」
リュシエンヌはよほど焦っているらしい。いつもの慇懃無礼に私の呼び名に『様』をつけるのを忘れている。
「あら、下痢だったかしら? ごめんなさい。リュシエンヌ」
「クレマンティーヌ、いい加減にして! 早く私に謝りなさい!」
「今、謝ったでしょう? あなたは便秘ではなくて下痢だったと!」
私は『便秘』と『下痢』を大声で強調して言ってやる。
「クレマンティーヌ──────っ!」
リュシエンヌが金切声でさけんだ。
序列1位の聖霊姫だから品位を重んじて、今までは実行したことはなかったけど。
私を孤児院出身だとバカにする公爵令嬢のリュシエンヌに、孤児院で学んだケンカの作法を教えることにした。
「人前で叫ぶなんて。リュシエンヌはなんて不作法なの? それでも聖霊姫?」
いつもリュシエンヌに言われていることを、そのまま返す。
「/////////っ…!!」
反撃するとは思っていなかった私に侮辱されたリュシエンヌは、自分が大勢の人の前にいることを忘れているようだから。
私はリュシエンヌに視線が集中していることを、本人に知らせるためにわざとらしく処刑台を囲む民衆を見た。
民衆の視線に気づいたリュシエンヌは顔だけでなく腕や首まで真っ赤にそめて、羞恥でブルブルと震えだした。
「黙れ、クレマンティーヌ───っ!」
バシッ!
恋人を侮辱され怒り狂ったフィリップ殿下が私の頬を殴った。
「キャアァァ──! 」
「ああっ! クレマンティーヌ様!」
「なんてことを……っ」
殴られた私を見て民衆の中の誰かが驚いて叫んだ。その他の人たちもざわざわと動揺している。
後ろで腕をしばられ足にも枷をはめられた私は、処刑台の上で倒れこんだ。
それでも私は『どうせコレが最後だから』と言いたいことを言うために、口を閉じるつもりはない。
「今はまだ私が作った大量の聖霊石があるから、力が弱いリュシエンヌでも聖霊姫の役目をしばらくは果たせるでしょう!」
だからリュシエンヌは、ここまで大きな顔をしていられるのだ。
「黙れ、クレマンティーヌ!」
「……でも聖霊石は使えば無くなるわ!」
ガッ!
「ううっ!」
フィリップ殿下が私を黙らせようと、処刑台に転がる私の背中を蹴った。
「その口を閉じろ、クレマンティーヌ!」
フィリップ殿下の命令なんて、もう2度と聞く気は無い。
「リュシエンヌ! 私が死ねばあなたは私に聖霊力を奪われたと、言い訳が出来なくなるわ!」
(そうなれば見ものだわ! 今から処刑される私はそんなリュシエンヌの姿を、見ることができないのが残念だけど)
顔を真っ赤にしていたリュシエンヌが、私の言葉で急激に青ざめる。
今まで王国民との間に、私は地道に信頼関係を築き上げてきた。
その信頼関係までリュシエンヌは欲張って奪おうとした。その報いをこれから受けるのだ。




