13話 王宮前の広場には
地下牢を出る前に腕を背中で縛られたまま足枷を付けられた。
両足の枷と枷をつなぐ鎖が、冷たい石床を裸足で歩くたびにガチッ! ガチッ! と耳障りな金属音をたてる。
王宮の暗い地下牢から王宮前の広場につれ出されると──
空はどんよりと曇り、私の気持ちを表したようにしとしとと小雨が降っていた。
それでも、久しぶりに見た空は美しいと思えた。
「……」
(今から私は処刑されて死ぬはずなのに、なぜか少しも怖くないわ)
ラウレル様を残して馬車で去ったあの時のほうがよほど怖かった。
半身をむしり取られたような激痛が私の心を蝕み続け、ずっと苦しかった。
空を見上げ天から降りそそぐ小雨をながめながら、ふと思った。
「もしかすると……」
(聖霊王ルミエール様が泣いているのかしら?)
ルミエール様が愛した私たち人間が、あまりにも愚かだから。
──それとも、こんな茶番劇を繰り広げる人間にあきれているのかもしれない。
王国の建国神話に出てくる聖霊王ルミエール様と始祖王の話には、たくさんの聖霊姫が登場する。
そして聖霊力も今の聖霊姫たちとは比べものにならないほど、強い力を持っていたと伝えられている。
建国当時よりもはるかに聖霊力が劣った今の聖霊姫のことを考えると、近い未来に聖霊力が完全に王国から失われるのではないかと……
高位神官たちは密かに“聖霊王ルミエール様の祝福が消える”と恐れていた。
「……本当にそうね。王族がこんなことをする国なんて、聖霊王ルミエール様に見放されても仕方ないのかもしれない」
広場のまん中に私の首を切るための処刑台が用意されていた。
その横で頭から黒い布をかぶった処刑人が、斧を持って立っている。
処刑人の他にもフィリップ殿下と聖霊姫リュシエンヌが、ニヤつきながら私を待っていた。
「大罪人クレマンティーヌを処刑台にあげろ!!」
フィリップ殿下の命令で私は処刑台にあがり、フィリップ殿下とリュシエンヌと向きあった。
「慈悲深い聖霊姫リュシエンヌが、大罪人クレマンティーヌと話したいそうだ!」
「……っ」
(リュシエンヌが慈悲深い? 腹黒いの間違いでしょう! それに今さら私と話がしたいなんて…… いったい、この人たちは何を企んでいるの?)
私は困惑しながら2人を睨みつけた。
リュシエンヌは聖霊王ルミエール様に祈りをささげるときのように、両手を組み合わせてかん高い声でさけんだ。
「クレマンティーヌ様! どうか謝罪して下さい!」
「何ですって?」
自分の耳を疑った。
「クレマンティーヌ様が私を脅して聖霊力を込めた聖霊石を奪っていた罪を認め、心から反省して私に謝罪して下い! フィリップ殿下はクレマンティーヌ様の死刑を、止めて下さるそうです!」
自分の主張を言い終わると、リュシエンヌはわざとらしくハンカチで涙をふくフリをする。
「………」
(開いた口がふさがらないわ……)
私に追い打ちをかけるようにフィリップ殿下も、民衆に聞こえるように大声でさけんだ。
「クレマンティーヌ! 大罪人にも慈悲をあたえる、心清らかな聖霊姫リュシエンヌはに感謝しろ!」
「いいえ! 私のわがままを聞いて下さった王太子殿下こそ、真に心清らかな人です!」
リュシエンヌはフィリップ殿下の胸に飛び込み、殿下を褒め称えた。
「ああ、もう! こんな茶番はうんざりだわ!」
二人が視界に入ることさえ不快に感じ、思わず私は天を仰いで目を閉じた。




