12話 大罪3
──大罪人にされてから1ヶ月後。
私が処刑される日。
私室で私を捕縛したフィリップ殿下直属の近衛騎士たちが、王宮の地下牢にやって来た。
「跪け!」
「?」
訳がわからず、言われるとおりに冷たい石床にひざまずくと……
騎士の一人が私の背後に立ち、腰までのばした黒髪を乱暴につかんだ。
「……きゃっ!」
神殿で聖霊姫の修行を始めてから1度も切ったことがない私の髪を、近衛騎士は項のところで切り落とす。
処刑人が私の首を斧で切りやすいようにするためだ。
近衛騎士は私の黒髪を投げすてて笑った。
「お前のカラスのような髪が、ずっと気持ち悪くて嫌いだった。これで清々したぞ!」
「……っ」
切りすてられた自分の黒髪を見るうちに、今まで私が髪をのばし続けるきっかけとなった思い出が脳裏をよぎる。
『髪を切るの? レベッカの髪は長いままのほうが良いと思うけど……?』
『でも、ラウレル様。私の黒髪はすごく重くて邪魔なの』
『……そうか。君がそう言うなら残念だけど、私もあまり我がままは言えないか』
『ラウレル様は、長い髪が好きなの?』
『いや。好きというより、似合うならどちらでも良いと思うよ。レベッカの黒髪は艶やかで綺麗だから、もったいないと思ったんだ』
『……』
(そういうラウレル様の金色の髪のほうがずっと綺麗だわ)
午後の日差しのような髪色は、ラウレル様の優しさや温かい性格にとても似合っている。
……だけど私の黒髪をラウレル様にほめてもらえて嬉しい。
なぜなら歴代の聖霊姫は金色に輝く美しい髪の持ち主が多く、私のような黒髪は珍しいから。
私は密かに自分の黒髪に劣等感をもっていた。
祭祀に参列した貴族たちが私の黒髪と金色をおびた紅玉色の瞳を見て、魔獣のような色だと陰口を言っているのを聞いたことがある。
瞳はどうしようもないけど髪は短くして目立たないようにしようと思ったのだ。
『わかりました。婚約者の好みを尊重して、切るのはやめます』
『ふふっ…… レベッカは私の我がままを叶えてくれるんだ?』
『はい』
『ありがとう』
ラウレル様はその話のあと聖霊姫が着る純白の聖衣にあわせて、綺麗な白いリボンを何本も贈ってくれた。
「……っ」
(死ぬのは怖くないわ。……でもすごく悔しい! これ以上、私に何かできることは無いの? ラウレル様に生きろと言われたのに!)
冷たい石床に転がる黒髪に、ラウレル様から贈られたリボンが結ばれている。
目の奥が熱くなり涙が込み上げてきた。
───私がこうなったのは、ラウレル様を殺した人たちに復讐できるなら聖霊力を失っても良いと思った私への……
聖霊王ルミエール様が下した罰かもしれない。
「お願いです! 髪を結んでいたリボンだけは返してください! 大切な物なんです!」
両手を後ろで縛られた私には、リボンを取りもどすことができない。跪いたまま頭をさげて近衛騎士たちに懇願した。
「今から処刑されるお前に、そんな物は必要無いだろう?」
「どうかお願いです!」
「うるさい、大罪人は黙れ! 許可も無くなれなれしく貴族に話しかけるな!」
「お願いします!」
私の黒髪を切り落とした騎士は鼻で笑う。
いつもフィリップ殿下といっしょに、『どこの誰だ親かわからない孤児だ』と私を蔑んでいた公爵家出身の騎士だ。
「いい加減にしろ、それぐらいの頼みなら聞いてやれ! 近衛騎士のクセにお前には慈悲の心はないのか? 狭量にもほどがあるぞ!」
鉄格子の外から私を見ていた、1番年上らしい騎士が見るに見かねて怒鳴った。
年長者らしい騎士は牢内に入って来て、切り落とされた私の黒髪から白いリボンをほどき、後ろで縛られた私の手首に結んでくれた。
「あ…… ありがとうございます!」
リボンを手に結んでくれた近衛騎士にお礼を言うと、私にしか聞こえない小さな声で騎士から謝罪の言葉がかえってきた。
「……すまない」
その騎士はひざまずいた私をささえ、立つのを手伝ってくれる。
フィリップ殿下の直属の近衛騎士でも、全員がフィリップ殿下と同じ気持ちとは限らないようだ。




