11話 大罪2
地下牢へ入れられた私を見張る看守が、悔しそうに涙を浮かべた。
聖霊姫だった私の尊厳を奪うことまで任された、目の前にいる男性は看守にしては優し過ぎるのだろう。
「お許しください、聖霊姫様! 魔獣に汚された故郷の村を聖霊姫様の浄化で救っていただいたご恩を、オレはまだお返ししてもいなのに。こ、このような無礼を…っ……!」
私は聖霊姫だけが着ることを許される、光沢がある純白の生地に金色の刺繡がほどこされた聖衣を奪われた。
かわりに渡されたのが処刑された罪人たちの血でゴワゴワと黒ずみ、使い古されてボロボロになった囚人服だった。
「どうか、お気になさらないで下さい。これもあなたの立派なお仕事ですから…… 私に謝る必要などありませんよ」
私を捕縛した近衛騎士たちがいなくなると、私に同情した看守は身体が冷えないようにと温かい食事と毛布をこっそり用意してくれた。
だから目の前にいる看守に対して何も文句はない。むしろ私に親切にした罪で、罰せられないか心配になるぐらいだ。
「なぜクレマンティーヌ様が、このような場所に入れられなければいけないのか。王太子殿下はどうかしています!」
怒りと悔しさがおさえられず。興奮した看守の声はだんだんと大きくなってゆく。
地下牢に私以外の囚人が、誰も入れられていないのが幸いだ。
「これは…… 大精霊ルミエール様にあたえられた試練なのだと、私はそう受けとめています。ですからお気を静めて下さい」
(私を心配してくださるのは嬉しいわ)
でも、それで私に親切にしてくれた人が罪に問われるようなことにでもなれば…… 私は死んでも死にきれない。
「クレマンティーヌ様……」
「フィリップ殿下は容赦のない人です。どうか言葉には気をつけて、災難を引きよせないで下さい」
特に身分の低い者に対して、心が狭いフィリップ殿下は慈悲の心をもっていない。
ラウレル様なら絶対にありえないことなのに。
「こうして温かい食事をいただけただけで、じゅうぶんです。あなたに聖霊王ルミエール様の祝福がありますように」
看守に手渡された温かいスープを大精霊ルミエール様に供物をささげるときのように、目の高さまで持ち上げて感謝の祈りをささげた。
聖霊力を失った今はいくら祈りをささげても、以前のように妖精たちの姿は見られない。
「クレマンティーヌ様……」
近衛騎士たちに腕を縛られ、自室から王宮の地下牢まで連行される時。
王宮内で働く使用人や文官。偶然その場に居合わせた貴族たちまで、驚愕の表情を浮かべていた。
『信じられない!』
『クレマンティーヌ様が反逆者だなんて、何かの間違いに決まっています』
『このことを宰相閣下はご存知なのか?』
『まさか、聖霊姫様を罪人として裁こうとするなんて…… 世も末だな」
『王国はいったい、どうなって行くのだろう?』
目の前で私に同情する看守だけでなく、誰もが私は無罪だと知っている。
なぜなら婚約者のフィリップ殿下が、私を嫌っていることは王宮内では有名だから。
聖霊力がなくなり利用価値がなくなった私を、徹底的に排除するためにフィリップ殿下が暴挙にでたのだと。
みんな知っているのだ。




