8話.暗躍
「教えたって」
目を見開いて兄さまとライオネルを交互にみる。
兄さまの目は確信に満ちていた。
ライオネルが言うそれは間違いなく…
「なん…で」
「もう見ていられなかった。君が君の真実を隠し通して生きていくというのなら、僕は全力でサポートしたいと思った。でも、こんな方法をとるなら、もう賛同できない」
周囲が何が起きたのか分からずざわつき始める。
「命令だ!この場にいる者全員この場から退出せよ。繰り返すがこれは命令だ!」
レオンの大声がその騒めきをかき消した。
王族の命令は基本的に貴族たちにとっては絶対である。
卒業式の参列者たちは、一斉に退出していった。
兄はその後、ギロリとユリウス王子とマリアンヌを一瞥する。
「ユリウス殿。これは一体どういうつもりですか?いくらあなたが隣国の王子でもここはあなたの国ではないし、この国の第一王女に対してこのような行いが許される道理はないと思いますが」
「そ、それは、ですがレオン殿、この女がいかに悪逆非道なことをしたと思って」
「それで、あなたは自分の正義に従ったというわけですか?」
兄さまは、ユリウス王子の言葉をピシャリと遮った。
「ならば、こちらもはっきり言わせてもらおう。これはわが国の問題。余計なお世話だ!!正義感は結構ですが、あなたの一挙手一動が戦争にすら発展しかねないということ、ゆめゆめ忘れないでいただきたい」
「くっ」
言い返せず、俯くユリウス王子に兄さまはさらに付け加えた。
「今、あなたの処遇はお答えできませんが、少し頭を冷やす事をお勧めします」
そうして、兄さまはマリアンヌの方を見る。
「お前もだ。マリアンヌ」
「れ、レオンお兄様」
マリアンヌはビクリと肩を震わせて、ユリウスの肩に隠れる。
「学友ならば、本来はお前がユリウス王子の暴走を止める立場だろう。お前も王族なのだから。それを感情に任せてあろうことか増長させてしまうとは。お前には、感情コントロールの教育が足りていないようだな」
マリアンヌもそれを聞き、肩を落とし口ごもる。
「す、すごいね。一瞬で場を治めちゃった」
ライオネルが感心したように言う。
「そんなことより」
マーニィはキッとライオネルを睨みつける。
「なんで…なんでこんな…こと」
それしか言葉がでてこなかった。
今まで王族として、様々な言葉を学んできたのに。これが呆然自失というものなのだろうかと思う。
もう、わたくしが死ぬ道は残っていない。
このまま寿命が尽きるまで、魔王と共に生きるなんて耐えられない。
「…どうして」
がくりと首が落ちて、目線が地面にくぎ付けになる。
もう、頭を上げる気力すらなかった。
「君が優しいから」
やがて、ライオネルがゆっくりと口を開いた。
「君と初めて会ったあの日、花壇で花に水をやる君を見た時から、なんて優しい顔をする人なんだって思った。この国の王女さまだと分かっても見惚れて、うまく言葉がでなかった」
「え」
予想外の言葉に反射的に顔が上がる。
ライオネルがじっとこっちを見つめていた。
「その後、君がすごく意地悪な態度をして、あっけに取られたけど、すぐにそれは嘘だって気づいた。この学園で事情を聴いて、やっぱり君は慈愛に満ちた天使みたいな人だって思った」
「あ、え」
頭が混乱してうまく口が動かない。急にこんなことを言ってライオネルはどういうつもりなんだ
と困惑する。
脳内に浮かんできたその疑問は全て次の一言で吹き飛ばされた。
「そんな君が好きなんだ!だから、こんな終わり方絶対許せない」
一瞬で顔が沸騰するように熱くなった。
噓でしょ。
だってわたくし悪で魔王を背負って。え?え?
彼もしゃがみ込み、床にへたり込むわたくしの肩を両手でつかみ、目線に合わせた。
「死なないで欲しい。君の苦労も孤独も僕に半分背負わせて欲しい。一緒に生きていこう。もう一度やり直そう」
「でもっ、でもわたくしは悪役令嬢で、魔王がいて、それに、いっぱい人を傷つけて」
嗚咽交じりで言葉がうまく出てこない。
目から涙があふれて前がうまく見えない。
その涙をライオネルはハンカチでそっと拭う。
「その代償に僕らは助けられてる。魔王が討伐されてから7年間みんな平和に生きてこれた。誰も知らなくたって君は僕らの英雄なんだ。だから、今はみんなを代表して、僕からお礼を言わせて欲しい」
「ありがとう」
感謝。
それは、マーニィが自身にされることを諦めていた行為だった。
それが7年越し、この青年から告げられる。
マーニィの感情はもう限界だった。
次から次へと溢れ出てくる涙を無視して、
勢いよくライオネルの胸に抱き着き、思い切り泣いた。
ライオネルは何も言わないでただ優しく抱き返してくれる。
そのぬくもりがただただ、温かかった。
◇◇
場は静まり返っていた。
「ありがと」
やっと涙が収まってきた。
「あっ、でも約束やぶった罰は受けないと。僕の実家の取り壊しはしょうがないかもしれないけど、せめて民たちが困らないように引き継ぎはちゃんとした貴族にお願いできないかな」
このタイミングでのライオネルの的外れな心配に思わず吹き出してしまう。
「あははっ。なにそれ。まだそんなこと気にしてたの?そんなひどいことしないわよ」
「え~!?めっちゃ僕葛藤してたのに」
「ほんと変わってるわね。ライオネル」
何だか、すごくすっきりした気分だった。
「な、なんか、悪役令嬢ってなんだっけって気になるな」
ユリウス王子が困惑した顔で言う。
「ええ、言葉遣いは変わってるけど、あの雰囲気。間違いない。あれはお姉さまよ」
マリアンヌは感動したような顔でいった。
その時。
ドクンと心臓がはねたような感覚が襲う。
「う、あ、あ」
体中から悪寒が走る。この感覚は間違いない。
7年前、魔王メビウスに体を乗っ取られそうになった時と同じ感覚だ。
まずい。体が乗っ取られかけている。
「なんで、いつもまだ大丈夫なはず、なのに」
「ふふ、こう見えて人を見る目には自信があってな。うまくいくは賭けだったが」
「どう、いう」
メビウスはニヤリと邪悪に笑う。
「あのライオネルとかいう小僧はやる奴だと思っていたということさ。だから俺はお前が盛大な自死の舞台を作り上げているときも静観していた。この瞬間のために」
「でも、いつもなら悪意は」
「準備をしていたのはこちらも同じというわけさ。徐々に、お前に気づかれないように悪意の浸食スピードを緩めていたのさ。お前が油断するこの瞬間に一気に体を乗っ取るためにな」
やられた。
けどまだだ。まだ、この場にいる誰でもいい。悪意を発散すれば。
だが、言葉が出てこない。
なんで?いつもなら、様々な罵詈雑言が浮かんでくるのに。
「おっと。無駄だぞ。お前は、そこの小僧に感化されすぎた。もはや、ここにいる面子を傷つけること自体心がこばんでいるのさ。何年貴様を見てきたと思っている」
「そん…な」
「お前には本当に苦労させられた。まったくそこの勇者以上に忌々しい。怒りを通りこして敬意すら感じているよ。だが、おかげで最高の舞台が見られそうだ。お前の生み出した舞台が残虐な悲劇で幕を下ろすどんでん返しがな」
ゲラゲラと魔王は高笑いをする。
そんな、こと。絶対だめ。
ライオネルが、お兄様が、マリアンヌが闇に飲み込まれていく。
ライオネルは、わたくしのことを考えて、わたくしのために全力で動いてくれた。
そんな彼の行動をこんな結末で終わらせたくない。
お願い。神様。多くの人を傷つけてきた罪深いわたくしだけど、今だけ願いを叶えて欲しい。
もし、あなたが本当にいるなら、わたくしの大好きな人たちをどうか、どうか助けて。お願い。
そうして、闇は…
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