6話.卒業式
3か月の間。
僕はマーニィと毎日お弁当を一緒に食べた。
彼女と過ごす日々は本当に楽しい。
僕と屋上で過ごす間、マーニィは普段外で見せる悪役令嬢の悪辣非道ぶりが嘘のようだった。
言葉こそ乱暴な時もあるけど、ちゃんと意味を捉えれば、その中には優しさがある事がよく分かった。
「今日マリアンヌに何か言われてたでしょ?」
マリアンヌとは、マーニィの妹で第二王女だ。
「え?なんでそれを」
「見かけただけよ。それより、何を言われたのかしら?わたくしに言いにくい事?」
「…君に弱みを握られているんじゃないかとか、あと君のことについても聞かれた。普段何話してるのとか、君が苦手なものとか。遠回しだったけど、君の弱点を探してるように感じたよ」
「ふーん。あの子がねぇ。何度も言うけどあなたはわたくしのしもべで、無理難題を押し付けられてるって言っておけばいいのよ。そうすれば、他の学友ができるかもしれないわよ」
「僕も何度も言うけど、君の事情を知っておきながらそんなことは言えない」
「それが邪魔だって言ってんの。特にマリアンヌとわたくしの間には政治も関わってくるから、なおさら関わるべきじゃない」
「彼女には……うまく言っといたよ。それに僕は君に付きまとう狂人だとでも思わせておけば、君のイメージには何の関係もないだろ?」
「ほんと…損な性格ね」
マーニィは扇子で口元を隠して溜息をつく。
「それより、今日の学園週報みた?」
「見てない」
「ほんと驚いたんだけどね…ユリウス王子が…」
僕の話に時に意見を返してくれるし、たまに話題を振ってくれるし、
僕らは、ほんとの学友みたいに一緒に仲良く過ごせていたと思う。
一度だけ、悪役令嬢としてやりすぎてしまったのだと相談を受けたこともあった。
僕は少し慰めただけで、すぐにマーニィは立ち直ったけれど。
でも、僕を頼ってくれたということ自体が嬉しかった。
だから、僕はこの三カ月で彼女の信頼を勝ち取れたと思っていた。
◇◇
三か月後ロゼリア学園は卒業式を迎える。
僕とマーニィは3年生で今年で卒業だ。
3か月の学園生活は友達と一緒に過ごしてみたいという理想をマーニィのおかげで叶えられて、
本当に充実していたと思う。
他に友達はできなかったけど、それで十分だった。
心残りは、もう恐らくマーニィには会えないということだった。
彼女は第一王女。
本来男爵の僕にとっては雲の上のような存在で、会いたくて会えるような存在でもない。
だから、彼女の秘密を知っていても、側にいる事さえできないのだ。
一応、僕にできる事がないか、この3か月間で考えていた。
だけど、マーニィは賢いし、僕なんかが何かをしても、彼女の邪魔になってしまう可能性の方が高いと断念していた。
事実、この3か月。僕はほとんど何もできていない。
彼女はどんなトラブルも1人で乗り越えていた。
せめて、文通くらいできないか、最後に相談してみようか。
王族として壇上にいるマーニィを見ながら考えていると、急にバタンと扉が開く。
ユリウス王子が軍服を着た複数の兵士らしき人間を引き連れて入ってきたのだ。
ユリウス王子は隣国の第2王子で、両国の友好を象徴する留学プログラムでこの学園に通っている。
要は、隣国からの留学生だ。
「第一王女マーニィ・フィン・クローディオ!わたしは貴様との婚約を破棄する」
周囲がざわつく。
ライオネルも困惑した。
マーニィが誰かと婚約したという話はなかったはずだ。
「おーほっほっほ。面白い冗談ですこと。ユリウス王子。第一王女であるわたくしとあなたが結婚する事は決まっている事と以前も申し上げた上げたはずです。あなたの意思でどうこうできることではありませんわ。おーほっほっほ」
マーニィは高笑いで言う。
マーニィが勝手に言ってることかと、周囲は納得したようだ。
だが、ライオネルは今の会話に少し違和感を感じた。
今のユリウス王子のセリフを説明したんじゃないか?周囲がわかるように?
なんのためにそんなこと…考えすぎかな。
ユリウスは、高笑いを続けるマーニィの喉元にに剣を向けた。
マーニィはビクリと固まり、その高笑いを止めた。
「…っ、あいつ!」
いくら隣国の王子とはいえ、この国の王女であるマーニィにこんな蛮行をして
許されるはずがない。
僕は、すぐに檀上に駆けつけようとする。
だがピタリと動きを止めた。
マーニィが横目でじっとこちらを見据えていたのだ。
扇子で王子から顔を隠し、器用に僕だけにみえるように唇に人差し指を立てる。
その目と顔は雄弁に語っていた。
そのまま動くなと。邪魔をするなと。
「できる。そなたは妹であるマリアンヌ嬢に悪辣に過ぎる嫌がらせをしていたな。それだけではない。この学園でも傍若無人に振舞い、多くの生徒を傷つけてきた。その中にも犯罪まがいのものが多数。その罪全てをこの場で白日の下にさらし、私が貴様を断罪してやる」
マーニィの意図が分からなかった。普段の彼女なら、こんな馬鹿げた暴走行為は、
理論的に言い負かして、ユリウスを罵って悪意のはけ口にしてしまうはずだ。なのに、彼女はなにも言わない。
僕は、これまでの彼女との思い出を振り返りやっと理解した。
彼女にこの学園で初めて話した時、彼女は魔王と心中すると言っていた。
それはこのことだったのだ。
恐らくここでマーニィは死ぬつもりなのだ。魔王もろともに。この国の平和のために。
ギュッと手を握る。
マーニィがこのまま動かないつもりなら、僕があの檀上に突っ込んだところで、取り押さえられるか、
最悪殺されるかのどちらかだ。
僕は男爵で貴族としての発言権も最も弱い。
何で相談してくれなかったんだと心の中で叫ぶ。
僕は彼女の信頼を獲得したつもりでいた。でもそれは、本当にただのうぬぼれでしかなかったのだ。
この3か月、僕といて彼女が本当に楽しんでくれていたのかさえ、自信がなくなってくる。
分かったよ。そういうことなら…
そうして踵を返し、僕は走り出した。
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