4話.屋上
昼休み、この時間ロゼリア学園の生徒たちは食堂の料理か、お抱えの料理人に作らせたお弁当を食べる。
わたくしは、人が集まる空間にあまりいたくないので、いつも後者だ。
そして、お弁当を食べるクラスメイトはわたくしの席から離れて食べるのが、いつものこのクラスの風景だった。
そのいつもが壊される。
「あの、隣いい…かな?」
おどおどとした態度で、マーニィに話しかけたのは、編入生のライオネルだった。
教室にいる全員がいっせいにこちらに目をやる。
「…男爵風情が関わらないでと言ったはずですが」
「でも、校則にこの学園にいる間は、地位に関わらずに交流しましょう、みたいなのがありましたよね」
拒絶の意思を見せても、ライオネルが引くことはなかった。
「そんな建前…限度があるってわかりませんか?」
「クラスメイトをご飯に誘うのはその範疇に入りませんか?」
弱々しそうに見えても、自分の意見を曲げない。
それに証拠は何もないとはいえ、彼がわたくしの秘密を掴んでいるのもまた事実だった。
わたくしは、観念してライオネルに付き合うことにした。
「はぁ、いいですよ。ただし、ここではなんですから。少し付き合ってくださる?」
◇◇
屋上の扉を開けると、寒い風が全身を襲う。
けれどもマーニィは、気にせず外に出た。
「あ、あの、マーニィさん?寒くないですか?」
ライオネルが震えながら、場所を変えようと言いたげに言う。
「あら、嫌ならお1人で戻ってもよろしいんですよ」
意地悪く笑って見せる。
「いえ、お付き合いします」
ライオネルは、何かを決心したように足を前に進めた。
「そうですか」
そうしてわたくしとライオネルは、置かれている椅子に座ってご飯を食べる。
屋上にあるとはいえ、貴族用の学園らしく椅子は高級なものだった。
5階近くある建物の屋上からは、眼下に広がる街をの外の広大な山々まで見えた。
「自然の風景が好きなんです。こう見えて」
「あぁ、わかります。僕の実家ものどかな場所で。自然の雄大さを感じてると、どんな悩みもちっぽけに感じて落ち着くんですよね」
ライオネルの言葉に微笑みで返す。
そのまま無言の時間がしばらく続いた。
「なんで編入ですか?この時期に」
「あぁ、あなたのことが気になったので」
…そっと椅子の端に距離をとる。
「あっ、勘違いしないでくださいね。ストーカーとかじゃなくて、あなたを心配して」
「十分重いですよ!」
思わず丁寧な言葉も忘れてつっこみを入れてしまった。
たった1回会っただけの人間のためにわざわざ編入までするってどういうこと?
顔を引き攣らせるわたくしにライオネルは、必死に弁明しようとする。
「あーっとね。別に君のためだけじゃないよ。うちは辺境の男爵だし、父の跡を継ぐのは決まってるけど、田舎だから領地運営にそんな複雑な教育はいらなかったんだ。だから、学費の節約で学校には通ってなかったんだけど、学園生活には憧れてたんだよね。だから最終学期だけでいいから編入させてくれって父に直談判したんだ」
「ふーん、仮にも貴族なのにみみっちい話ですね」
花壇であった時の礼儀作法は、貴族としては失格だ。もっともこの学園に編入できたという事は、実技はそこそこだったのだろう。
「はは…王女さまからみたらそうだよね。まぁともかくそんなわけで僕的にも今回の編入は望んでいたんだ。ただ」
ライオネルは上目遣いでチラリとコチラをみて言い淀む。
前回この話をした時、わたくしが激昂して退席したから言いづらいのだろう。
だが、ライオネルが言う事はどれも当たっている。着眼点も全て見事なものだった。今さら誤魔化して、わたくしの前をチョロチョロされる方が余程リスクがあるだろう。
「はぁ」
これ見よがしに大きくため息をつく。
さっきから、彼と話しているとだんだん自然体になって、
王族としての皮がはがれていくような感覚がするから不思議だ。
それにもうこの青年に取り繕う必要もないと思うと、逆に気楽になったし、なんだか吹っ切れた。
「いいわよ。話してあげる。ただし」
じっとライオネルを見つめる。
ライオネルはゴクリと唾を飲んだ。
「守秘義務を課すわ。絶対だれにも言わないで。それ破ったら、あなたの実家は取り潰しになるかもね」
「っ、そんなこと」
「できない、とでも?腐ってもわたくしは第一王女よ。ちっぽけな男爵家を潰す手段くらいいくらでもあるわ」
ヒラヒラと手を振って、軽い口調で言う。
彼に言った手段が本当にいくつも頭の中に思い浮かぶ。それも片手間でできる未来が用意に想像できた。
「そりゃそうだろうけど」
「怖気付いたなら、今すぐ教室に戻りなさい。最後のチャンスをあげるけど、どうする?」
意地悪く笑う。
ライオネルの顔は青ざめていた。
わたくしの言葉が本心か図りかねているのだろう。
本当だった場合、破滅するのだから、当然だ。そのまま引き返して欲しいと思う。
だが彼はしばらく考えた後、真っ直ぐにこちらを見据えた。
「誓って言わない」
「そう」
やはりライオネルの決意は固いようだ。何が彼をそこまで突き動かすのか、それは分からないけれども。
「というか、さっきから言葉づかいが」
ライオネルは困惑したように言う。
「別にいいでしょ。2人きりなんだし。それに7年も悪役令嬢やってりゃ気性も荒くなるってもんよ」
頬杖をつき、不満をはく。
ライオネルは反応に困ったような微妙な顔で「はは」と苦笑いをした。
そうして、わたくしは全てを話した。魔王のことから悪役令嬢を演じるようになった理由まで包み隠さずにだ。
話を聞き、ライオネルは絶句して声も出ないようだった。
「ね、わかったでしょ。わたくしはこう生きるしかないの。助ける方法もない。だから、もうわたくしに関わらないで」
「何で君はそのことを…ずっと隠して」
「そんなの決まってる。お兄様を守るためよ」
「君のお兄さん、確か勇者さまだったよね。むしろ、相談したら、その状況を何とかできたんじゃ」
わたくしはフルフルとかぶりを振る。
「いくつも資料を調べたし、感覚でも魔王をどうしようもできないのが分かるの。それなのにお兄さまに言えばきっとご自分を攻めるのでしょうね。魔王討伐に向かった私の責任だって」
「そんなこと」
「そういう方なのよ。馬鹿みたいににお人好しで、他人のことも何でも抱え込んで、でもそんな性格を貫き通して魔王を倒すまで行っちゃうんだからほんと呆れちゃうわよね」
「好きなんだねお兄さんのこと」
「もう軽蔑されてるけどね。…話をもどしましょ。
わたくしの状態を家族に話せば、魔王の悪意をどんな形で処理することになるかわからない。もしかしたら、生贄という形を取るかもしれないわね」
「生贄」
物騒な言葉を神妙な顔で復唱する。
辺境の貴族は平民と距離が近いことも多い。もしかしたら、そんな彼らが犠牲になることを想像しているのかもしれないと思う。
「でもそれは最悪の一歩手前。最悪の場合、対応がゴタゴタになって魔王が復活してしまうかもしれない。そうすれば、お兄さまは今度こそ殺されてしまう。だから、このままでいいの。このままわたくしは、この秘密をずっと守って、魔王と心中するつもり」
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