10話.土下座
「本当に、本当にすまなかった!!」
私は、床を突き抜ける勢いで額を地面にこすりつけ、精一杯の謝罪をする。
「そんな、お兄様。お顔を上げてください」
「そうですよ。そこまでしなくても」
妹とライオネル君が、必死に私の頭を上げさせようとするが、私は頑としてそこから
動かなかった。
これは私にとってもけじめだったからだ。
「いや。そこまでしないといけないんだ。ライオネル君。これで許されるとは思っていないが、私は妹に許されないことをした」
「許されない事?」
妹は首をかしげている。私が普段から彼女にどんな態度を取っていたか、気づいていない
わけでもないのに。
恐らく、仕方がない事だった故に、誰かが悪いという発想がないのだろう。
強いて言うなら自分が悪いと思い込んでいる。
そういう自己犠牲の精神が呆れるほど強いのは、昔からずっとそうだ。
「マーニィ。お前は本当に優しい子だな。だが、私はお前の秘密に一切気づけなかった。それどころか上辺の態度だけをみて、お前を軽蔑していた。これを罪と言わず、なんというのだ」
「それは…仕方のない事です」
妹は心配そうな顔をして慰めるように言う。
「仕方のないものか!確かに、お前の態度が変わった時には動揺した。魔王を死に物狂いで倒して、嫌みを言われた時には傷ついたさ。だが、私はそれでも妹を信じつづけるべきだった。最後まで見放さず、向き合い続けるべきだった。そうすればきっと真実に気づけたはずだった」
悲痛に叫ぶ2人は何も言えずにいるようだった。
「俺は兄失格だ」
しばらく沈黙が流れる。その沈黙を破ったのは妹だった。
だが、それはあまりに妹らしからぬ態度で私は驚愕する。
妹はおもむろにでかでかとため息をついた。
そして、ライオネル君の方を見て、嫌そうな顔で言ったのだ。
「ね、言った通りめんどくさいでしょ。わたくしのお兄様は」
妹の発言にライオネル君も目を丸くしていたが、
やがて苦笑した。
「確かに、そうかもね」
唖然としている私に気づいて、妹は意地悪く笑って言った。
「昔の天使なわたくしじゃなくて驚きましたか?残念ながら、7年も悪役令嬢やってたら、いつまでも清純じゃいられませんよ。で?昔と違って性格悪いわたくしにまた失望しましたか?」
「い、いやそんなことはない」
「それはよかったです。ところでわたくしは、知っての通りまだ魔王に憑りつかれてましてね。前ほど頻繁にでなくても定期的に悪意を吐き出さないといけないんですよ。だから、とびきり性格の悪い事言っていいですか?」
「あ、ああ。どんとこいだ」
私は身構えた。
「そうですか?じゃあ」
妹は咳払いをする。
「そんなところで、いつまでもうずくまれてても迷惑です。目障りですから、紅茶でもいれてきてくださる?飲み頃の丁度いい温度で美味しいやつを。まずかったらぶちまけてやりますからね、あとライオネルの分も」
「あ、え?」
「勇者ともあろう方が何呆けてるんですか?ほらダッシュ」
妹はパンパンと手を叩く
「わ、わかった」
それを合図私が急いで向かおうとすると、妹は呼び留めてきた。
「あ、それから。わたくしたちの間ではコミュニケーションというものが致命的に足りてないように思いました。あとでいっぱい話しましょうね。約束です。お兄様」
「ああ」
急いでキッチンにある給湯室に向かう。
確かに、俺は妹のことを何も知らなかったらしい。妹をただ可愛い守るべき存在としてしかみていなかった。
俺よりもよっぽど強い子だったのに、間抜けにも今日までそれに気づけないなんて、なんて
間抜けだったんだろう。
それだけは今回のことで分かった。
これから少しでも妹…マーニィのことを知る努力をしないといけないのだろうな。
兄として。
◇◇
「さて、ライオネル」
兄、レオンがいなくなった部屋でマーニィはライオネルを上目遣いで見つめる。
「話があるんだけど、いいかな?」




