9話.副産物
闇は手と化し、マーニィの中にあった光をわしづかみにする。
それは彼女の善性の心から生まれる
光のエネルギー、その核だ。
「くっく、やっと」
本当に長かった。この魔王をこれほど長く縛り付けるとは、本当に大した小娘だ。
これを握り潰すことで、乗っ取りは完了する。
今度こそ勇者を殺し、魔道が制する素晴らしい世界を作ることができるのだ。
その瞬間、手のひらから大量の光が漏れ出る。
「なっ!?なんだこれは!?」
あまりに予想不能のことに驚愕する。
光のエネルギ―がどんどん高まっていく。
「馬鹿な。そんなこと、有り得ない」
突然、エネルギーが増幅するなんて。
どんどん、どんどん光のエネルギーは増えていく。
馬鹿な、馬鹿な、こんなこと。
「あああああああああああああああああああああああああああああああ」
声にならない絶叫を上げながら、
魔王の怨念とも言える思念体はかき消されていった。
◇◇
目を覚ますと、毎日見ている天井が見えた。そこはわたくしの部屋のベットの上だった。
一体何が起きたのだろう。
体を起こそうとするが、うまく動かない。
「目が覚めたか?」
低い声に横を見ると、そこには見知った顔があった。
だが、この部屋でもう見る事はないと思っていた顔。
この国の国王、サンクロード・フィン・クローディオだった。
「お父様!?」
驚愕に目を見開く。
「なぜここに」
父は多忙の身だ。こんなわがままな娘に会いに来る時間なんてあるはずもないだろうに。
悪役令嬢のふりをするのも忘れて慌てて立ちあがろうとする。
それを父はそっと制した。
「よい。それより、いつもと態度が違うな」
「それは」
「言わなくていい。レオンから聞いた。お前の中に魔王がずっと憑りついていたことも、それを抑えるために、お前が悪女を演じていたことも」
「そうですか」
そういえば、お兄様にもライオネル経由で秘密がバレていたことを思い出した。
よく考えれば、それをお父様に報告するのは当然だろうと思う。
そうして、記憶が倒れる前の瞬間に追いつく。
「そうだ。魔王は、魔王はどうなったんですか?」
王はフルフルと首を振る。
「残念ながら完全には消滅しなかったようだ。まだお前の中にいる」
そう言われても、あの瞬間のことをわたくしはまだほとんど理解できていなかった。
「そもそも何でわたくしは魔王に乗っ取られていないんですか」
「お前の状況やあの卒業式の日の事をこの国にいる専門家たちに調べさせた。が、まずはお前の口からききたい。そもそもあの時何が起こったのだ?」
「えっと、わたくしの体の中から魔王の闇が広がってきて。その後のことは」
うまく思い出せなくて、言葉が出せなかった。
「闇が広がる前に、誰かのことを思い浮かべなかったか?」
お父様の問いにはっとする。わたくしは、闇をどうにかしてほしいと神に祈った。
皆を助けるために。
その時、最初に思い浮かんだのは
「お前は、7年間希代の悪女を演じる事で、悪意を発散してきたそうだな。ライオネルという青年からそう聞いている」
コクリと頷き「はい」と返事をする。
「だが、それは思いもよらない効果を生んだ。お前も気づいていなかったのだと思うが」
「効果?」
首をかしげる。7年間この状況に関連する知識を調べてきたが、思い浮かぶものはなかった。
「悪意を発散する行為は同時に7年間お前の中にある善性を封印する結果になったのだ。善性とは魔術的に正のエネルギーの源になる。お前は誰よりも優しい子だったな。その優しさが膨大な正のエネルギーとして蓄積され、誰かを助けたいという願いがトリガーになって一気に解き放たれた。流石の魔王も、その威力には耐えられなかったらしい。耐えきった辺りは流石にしぶといが、それでも体を構成する悪意はほとんど削られた」
「それって」
「ああ。もう魔王にお前を乗っ取るほどの負のエネルギーは残されとらん。これからはお前の中でただ生きるだけの存在となるだろう」
ポンと父はわたくしの肩を叩く。
「完全とは言い難いが、お前は解放されたのだ。この7年、如何につらく苦しい日々だったか、私には想像もできん。だが、本当によくやった。父として誇らしく思う」
「え?」
あの父が礼を言うなんて。
「そして、この国の王として、心から礼を言う。この国を救ってくれてありがとう」
そう言って王は頭を下げる。
目から涙が零れ落ちる。
7年前からわたくしは父からも見放されていた。
わたくしたち王族がもっとも期待を裏切ってはいけない王である父から。
当時、一番つらかったことが、この父の目線だったかもしれない。
だからこそ、報われたような気分を強く感じたのだ。
本当に、ライオネルが編入してからこの3か月は泣いてばかりだ。
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