0話.プロローグ
それは勇者出立の日のことだった。
「いってらっしゃいませ。レオンお兄様。わたくしは、何もできないのが歯がゆくてしかたありません。ですが、せめて皆さまの無事のご帰還を毎日神さまにお祈りします。どうか、どうかお気をつけて」
妹の目が、言葉の途中から涙で潤んでいく。 それだけ、自分と仲間の無事を案じてくれているのだ。
何と優しい妹なのかと、誇らしくなる。
妹はこの国の第一王女である。 つまり、兄である私は第一王子にして、魔王討伐に選ばれた勇者だった。
本来、後方に座すべき第一王子の私が勇者として名乗りを上げたのは、被害に合う民をこれ以上みていられなかったからだ。 何としても、今回の遠征で魔王を討伐し、世界に平和を取り戻して見せる。
「ああ、マーニィが祈っててくれるなら、それだけで勇気が湧いてくる。百人力だ。だから、安心して待っててくれ」
しゃがみ込んで、妹と目線を合わせて頭を撫で、ニッと笑って見せる。
すると、妹も涙を拭いながら、表情を明るくして笑ってくれた。
それから3カ月後。
私は仲間と共に魔王を倒し、国へ帰還した。 妹に会うのが楽しみで仕方なかった私は、
城に入るなり、全速力で玉座の間へと向かう。
たった少し走っただけでも息が切れるほどなりふり構わず駆け抜けた。
この兄が魔王を倒したと、教えて喜ぶ妹の姿を一刻も早く見たかったのだ。
そうして、扉を開けた先には妹と再会がいた。
妹はゆっくりと振り返り、まっすぐにこちらを見据えた。
その手には、おそらく最近買ったのだろう見覚えのない新品の扇子が握られている。
妹はそれで口元を隠し、高笑いをはじめたのだ。
「おーほっほっほ。お兄様。魔王討伐お疲れ様ですわ。ですが、お帰りが少々遅すぎるのではなくって?魔王が倒されてからもう一月は経ってますわよ。わたくしを待たせるなんて、万死に値しますわ」
そこには様変わりした妹の姿があった。
いわゆる悪役令嬢と呼ばれる、高慢で、無慈悲で、わがままな悪女に。
私は唖然として、ポカンと口を開けることしかできなかった。
読んでくださりありがとうございます。
本小説は短期連載となります。気に入ってくださった方は是非、最後までご覧ください。
◇◇
下にある☆☆☆☆☆から、評価をくださると嬉しいです。
作者が喜ぶのでよければ感想もお願いします。




