6杯目 初めてのジントニック
晴子初バイトの巻!
春。それは始まりの季節。
町には新入生や新社会人と言った初々しいフレッシュな若者達が目立つ。
「お母さん来なくていいよー。学校あるでしょー。私の入学式より、自分のところの入学式で忙しいんだからー!」
真田晴子20歳。彼女もまたこの春から新しく大学生活を送ることとなる。
新たな学業、そしてアルバイトに期待に胸を膨らませる若者達の1人である。
「んでねー、マスター聞いて下さいよー。うちの母来なくていいって言ったのに、自分の学校早退してまで私の入学式来たんですよー。なんと言うか本当親バカだと思いませんかー?」
『まあまあ。一人娘の晴れ姿見たかったんでしょうよ。』
「晴れ姿って言ったって成人式じゃないんですよ。アオキの安い上下セットですよー。」
『そう言うんじゃないんだよなあ。』
『ガチャ』
「いらっしゃっいませー」
『いらっしゃっいませー』
「おー!今日は晴ちゃんいる日だったかあ。」
『加藤さんこんばんは!いつも有難うございます!』
「マスターいつものジントニックを。あっ、晴ちゃんにもね。」
『加藤さん有難うございます!頂きます!』
このお客様は加藤さん。マスターのホテル時代からのお客様でうちの1番の常連さん。たまたま地元が一緒だったこともあり、凄く私のことを可愛がってくれるオジサマ。
『加藤さん、真田にあまり飲ませすぎないで下さいね。1杯だけですよ。』
「またまたマスター、自分の分が無いからってスネちゃって。ほら、マスターも一緒に飲もうよ。」
『有難うございます!では私はラフロイグをソーダで頂きます。』
「君は変わらんなあ。いっつもそれだ。」
〜カチャン、キュポッ、トクトクトクトク〜
『ジントニック2つとラフロイグでございます。』
「乾杯!」
チンっと3つのグラスが重なる。
【頂きます!】
「あーマスターのジントニックは美味しいねー。晴ちゃんはどう?」
『本当に美味しいです!加藤さんに頂いて初めてジントニック飲みましたが、お酒のイメージが変わりました!』
「それは良かった!良かった!今日で何杯目くらいかな?10杯くらいは飲んだ?」
『惜しい!9杯目です!』
「ちゃんと覚えてくれているんだ。嬉しいねー。」
『もちろんですよ!初めて頂いた時のことだって覚えてますよ!本当に初日の1番最初のお客様が加藤さんだったので。すっごく緊張した中でしたし!』
「私も覚えているよ。ちょっと前なのになんだか懐かしいねえ。」
16時45分。ちょっと早いかな。でも初めてのバイトだし15分前くらいがきっといいよね?
『ガチャ』
あれ。七三頭いない。どうしよう。買い出しとかかなあ。
「す、すみませーん。アルバイトの真田です。ちょっと早いけど、来ちゃいましたー。」
ビクッ
BOX席から初めて会った時のモジャモジャ頭がゆっくりと起き上がった。
『あー、おはようさん。早いねー。私はこの時間昼寝してることがあるのよ。』
「は、はあ。」
『飲食初めてと言うかアルバイト初めてなんだもんね。飲食店は基本的に挨拶はおはようございます!なのよ。今芸能界みたいって思ったでしょ。あ、思ってないって顔したね。まあいいや。なので、入ったら明るく元気におはようございます!と挨拶お願いしますね。』
「はい!おはようございます!」
『うるさい!』
どっちやねん。
『そのくらい明るく元気なおはようございますが気持ち良いね!』
『さて、まあ今日は初日なので基本的には見ていてもらって、お客様来たらおしぼりを渡してもらえるかな?あと、グラスとか洗ってもらう感じ。』
「はい、分かりました!」
『バカラって知ってる?』
「バカラ?賭け事の?」
『そうそう、うちは裏カジノで!ってなんでやねん!』
この人二重人格なのかな。普段これだけ喋る癖によくお客様の前だと黙ってられるな。
『グラス。バカラグラス。うちは基本的にグラスは全てバカラなの。前、面接の時にも言ったじゃない。グラスが1脚1万円以上するよって。だから洗い物する時は早く洗うよりも丁寧に洗うことを心掛けて欲しいよと。』
「はい、分かりました!」
『ちなみに店の名前のディアマンもバカラの名前から取ってるんだよ。』
出た、バーダイナマイトもどき。
「なるほど!」
『なので、丁寧に扱ってね。で、もし割ってしまった時は隠したりせず、必ず報告して下さいね。』
この人真剣になった時は目つき変わるなあ。
「はい、分かりました!」
『オッケー!とりあえずあと30分でオープンなので、メニューみたり、どこに何があるかを歩いて見て廻ってね。』
と言うことで私はメニューを見て店内散策をしたのだが、困った。お酒の名前が全く分からない。どうしましょう。晴子さん、お酒飲めないのにやっていけるのでしょうか。
『ガチャ』
「いらっしゃっいませー!」
『ぃらっしゃいませぇ』
「ん?マスター新人さん?」
『そうなんですよ。今日からの真田です。ほら、真田さんご挨拶して。』
は、はじめまして、真田晴子です。宜しくお願い致します!
「これまた随分若そうだ。加藤です。宜しく。マスターいつものジントニックを!」
『かしこまりました!』
「真田さん、真田さんはお酒は好きなの?」
あの、この間ハタチになったばかりで。まだあまり飲めなくて。
「マスター真田さんにもジントニック作ってあげて」
『加藤さん、すみません、まだ真田は新人なもので、飲ませていないんですよ。もう少し慣れたら是非お願い致します!』
「ふん。そうかね。分かった、じゃあ真田さん、これ、私のジントニック、まだ口を付けていないからちょっと舐めてみなさい。マスターそのくらいならいいだろう?」
『まあそのくらいなら。真田さんどうしますか?』
困った。さて困った。いきなりピンチである。ただ常連さんっぽいし、飲まずに怒らせてもなあ。仕方ない、舐めるくらいなら。
じゃあちょっとだけ。。。
!?!?!?!?!?
自分でも目が見開いたのが分かった!
美味しいです!とっても美味しいです!
こんなに美味しいお酒初めて飲みました!!
「は、は、は、そうだろう美味しいだろう!ほら全部飲んじゃっていいぞー」
『いやいや、加藤さん、流石に真田もそこまで飲めませんから。ね、真田さん。え!?』
ゴクゴクゴクゴク!!!!
はい。私飲んじゃいました!お酒苦手と思ってましたが飲めちゃいました!!居酒屋と全然違う!
この人変な人だと思ってたけどプロフェッショナルなんだ!今までadidasとか七三頭とか思ってごめんなさい!マスターだわ!マスター!ジェダイマスターだったらオビワンレベルよこの人!!
加藤さん、美味しかったです!
「いやあ、いい飲みっぷりじゃないか!嬉しいね」
『加藤さん、すみません。有難うございます。ちょっと真田さん1回裏にいいかな?』
ヤバい、怒られる。きっとお客様のお酒一気飲みしたの怒られるのだわ。はあ。
『あのね、お酒を飲むことは問題じゃないの。でもね、マナーがあるの。お客様からお酒を頂いたら必ず頂きます!と。飲み終わったら必ずご馳走様でしたと言う様にね。伝えていなかった私も悪いのだけど。ちゃんと挨拶しようね。』
そっか。そうだよね。ご飯食べる時も言うもんね。私は学んだわ!
加藤さんご馳走様でした!!
「まさかあの日晴ちゃんジントニック3杯も飲むとはねえ。」
『もー。加藤さんやめて下さいよー。』
初めてのアルバイトとっても楽しいです!そしてお酒も美味しいです!
どうやら晴子は初バイト上手くいってるようです。




