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017 幕間:技術者たちの狂騒曲

王都エーテルガルドの東端、巨大な王立穀物倉庫の最奥。そこには、ファンタジーの世界観を暴力的に塗り潰すゲート状の「鋼鉄の構造物」が鎮座していた。

別班の実働部隊を率いる鷹宮直人は、防塵マスク越しに、目の前の光景を見て深くため息をついた。


そこにあるのは、無骨なマットブラックのトラス構造体と、不気味なほどに明滅する青と琥珀色のLEDの群れだ。

この「緊急帰還ゲート」は、わずか二週間という、エンジニアへの人権侵害に近い強行軍で組み上げられたものである。


「……おい、主任。この冷却パイプの取り回しはどうにかならんのか。埃を吸い込んでフィルタがもう持たないぞ」


鷹宮の指摘に、複数のモニターに囲まれてキーボードを叩いていた主任技官が、眼鏡を指で押し上げながら力なく笑った。


「無茶言わないでくださいよ、鷹宮さん。クリーンルーム前提の精密機器を、こんな『粉塵パーティ』会場に置けって言ったのは誰ですか? 現場サイドはいつだって仕様変更の犠牲者なんです」


「そうですよ、隊長」と、横から若手技官がタブレットを片手に口を挟む。


「この環境でサーバーを回すのは、砂漠で精密時計を修理するようなもんです。だいたい、このゲートの縁を飾る青色LED、これ必要ですか? 処理能力には も寄与してないんですけど」


「馬鹿者、わかってないな」


背後の巨大なフレームの影から、油まみれの手袋を脱ぎ捨てながら施工担当の親方が姿を現した。彼はゲートの継ぎ目を愛おしそうに撫でまわす。


「こういうモノには『SF感』が重要なんだよ。オゾン臭と青い光……これこそが、俺たちが異世界ファンタジーの世界観をぶっ飛ばしてるっていう唯一の実感だろうが。ロマンを解さないデジタル野郎はこれだから困る」


「ロマンでチャンネルは安定しませんよ、親方」と若手が毒を吐く。


「うるせえ。それより主任、さっきの『10式戦車が砲塔を振っても引っかからないサイズにしろ』って無茶振り、どうなった? フレームの物理的強度がレッドゾーンだぞ」


主任技官は、吐き捨てるように答えた。


「上司の黒崎さんからの『念のため』っていう魔法の言葉一つで、一昨日から人力ハードウェア・アップデートですよ。全幅を から 超までスケールアップ。

量子共鳴チャンネルの再キャリブレーションだけで、僕の睡眠時間は完全に消滅しました」


「ま、おかげで最高にうさんくさい『秘密基地』の完成です。王国の連中が見たら、腰を抜かして新しい宗教を立ち上げるレベルですよ」


若手技官が誇らしげにモニターを叩くと、ゲートの縁に走る高出力超伝導磁石が牙を剥くような唸りを上げた。空間を強引に折り曲げる重力波の干渉により、虚空が不自然に屈折し始める。


「ゲート、安定化フェーズ終了。スループット、定格維持を確認。……今泉さん、いつでもいけますよ。僕たちの血と涙と残業代の結晶を、存分に踏み越えていってください」


主任技官の声を聞きながら、鷹宮はARC-Zeroを手に歩み寄る今泉恒一の背中を見送った。


「……さて。黒崎さんがまた新しい無茶なリクエストを投げてくる前に、この『幽霊屋敷』の電源落として少しは寝るぞ」


「親方、電源落としたら量子同期が外れますって!」

「わかってるよ、冗談だ! ったく、ユーモアの欠片もねえな」


技術者コンビの罵り合いを乗せて、ゲートは再び青白い光を放ちながら脈動を静かに刻み続けた。

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