SARU
魔術師「お、やっとメールが来たか」
ポチ。ウィーン。
魔術師「気持ちのいい風やな……で、どれ……害者の顔と車の車種にナンバー。ついでに〝犬ども〟の写真か。トラッキング防止だからって、開いて5秒で勝手に発火するなっちゅうに……」
ポイ。ウィーン。
魔術師「しっかしなんでダークウェブなんて分かりやすいところに、けったいなシロモン流すんやろなぁ、ほんまトーシロの考えることは分からんのぉ」
蒼空「ダークウェブ?」
魔術師「気にせんでええ。それよりこれからはつづら折りの上り坂になっとるから、対向車に気ぃつけて運転しや」
蒼空「うん」
魔術師「おっ!コインがキリ番になった!」
蒼空「アスカ姉。ヅムヅムやり過ぎだよ。ストレートネックになるし、目悪くなるよ」
魔術師「なんや、どこぞのオカンのようにうっさいなぁ。ネックがストレートやなかったらそれはもう誰かにへし折られとるわ。あと、うちの視力がいくつか知っとんのか?10.0はあるで」
蒼空「それってすごいの?」
魔術師「ああ、ソラはそういうの、測ったことないんか。まぁ、しゃあないな。10.0ちゅうのはな、トイレの外からでも、ソラが中でシコシコとキノコしごいとるのが分かるくらい目がいいってことや」
蒼空「そっ、そんなことしてないよっ!」
魔術師「嘘こけぇ。うちの美少女ボディのボインとアワビを思い出して抜いとるやろ」
蒼空「そんなことしてない!ほんとにしてないからっ!」
魔術師「まあええわ。とにかくこれから長い峠越えや。迷路みたいな尾根を登ったら目的地や」
蒼空「ねぇ、どうして今回は山なの?」
魔術師「獲物が山に移動しとるからや。それと、いつもくっさい都会の空気ばかり吸ってたら気が滅入ってまうから、気分転換も兼ねとる」
蒼空「そうだったんだ。こういう山だらけの場所を車で走るの、生まれて初めて」
魔術師「あとまあ、借りを返さなあかんちゅうのもあるんやけどな」
蒼空「借り?」
魔術師「そうや。カリはソラのシメジみたいなチンコの一番敏感なところや」
蒼空「もう!アスカ姉さっきからエッチなことばかり言って!」
魔術師「いいから運転に集中しいや。10歳でマニュアルの運転と無水カレーが作れないようじゃ、ウチの家には置いておけんからな」
蒼空「大丈夫!坂道でもちゃんとクラッチつなげるし、ギアチェンジできるし、チェーンも巻けるから!」
魔術師「なら安心や。でも今は春やからチェーン巻くことはおそらくないやろ。それよかシカとかクマが飛びだしてくるかもわからんから気をつけてな」
蒼空「うん。ちゃんと止まらず轢き殺すから大丈夫」
魔術師「よっしゃ。じゃあ姉ちゃんは安心してヅムヅムでフルアイテムをかけるか」
ヒンカラカラ……ホーホケキョ……ヒヨヒヨヒヨ……
魔術師「右手でしっかりと床尾を握る。親指を床尾の背において、ソラのほっぺをくっつける」
蒼空「こう?」
魔術師「そうや。銃床尾をがっちりと肩に当てて、右腕と右ひじは肩に対して直角。その姿勢が二脚架で伏射するスタイルや」
蒼空「なんか、ドキドキする」
魔術師「そうか?ウチと一緒に風呂入る時の方がドキドキするやろ?」
蒼空「もう、またその話」
魔術師「調節ノブを使って倍率3倍で、まず獲物を探す」
蒼空「あ、うん。……シカが見えた。全部で6匹、かな」
魔術師「よく見ぃ。茂みの奥に親子がおる。8匹や。照準器を調節してスコープの倍率を調整する」
蒼空「………」
魔術師「倍率をアップして、今ソラが見ている上の方の2本線に標的を合わせて、下に見えてる距離表示の目盛りを読んで、射程距離を把握する」
蒼空「……500ヤード。ってことは、約460メートル。……大股460歩分」
魔術師「呼吸するたびに銃口が上下に揺れる。心臓が拍動するたびに振動する。十字線の中心はそのたびにあちこちに移動する」
蒼空「うう……」
黒「だから全部、止めるんや。仕留める時は、先にこっちが死んでみせる」。
蒼空「……………」
魔術師「撃て」
ドンッ!
蒼空「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ……」
魔術師「ほお。バイタルエリアに当たっとるからまあほどなく死ぬやろ。はじめてにしては上出来や」
蒼空「やった!アスカ姉に褒められた!」
魔術師「腹減ったやろ。お昼にするで」
蒼空「今日は何?」
魔術師「ウチが高速のサービスエリアでクーラーボックスをもって降りたやろ。なんでだと思う?」
蒼空「強盗?爆破テロ?臓器売買?」
魔術師「おしいな、けれどどれもちゃうで」
蒼空「う~ん……あっ!もしかしてお昼ごはんを買ってくれたの!?」
魔術師「当たりや。じゃじゃーん!ウチが無水カレーの次に愛してやまないモズバーガーやで!ダブルモズチーズバーガーとダブルテリヤキバーガーがあるが、どっちがいい?」
蒼空「ダブルテリヤキバーガー!!」
魔術師「ふっ、こってり味が大好きとはまだまだお子様やな。ええやろ。ウチはダブルモズチーズバーガーの方が好きやから今回は譲ったる。オニオンフライとチキンナゲット付きや」
蒼空「ありがとアスカ姉!」
ホッホウ…………ホッホウ…………
蒼空「ねえ、ほんとに来るの?」
魔術師「来ないわけあるか。あの依頼主の薔薇ジジイがウチに嘘を言ってもなんも得せん。この緑の迷宮みたいな山には死体を埋めるポイントがちゃんとあって、そこに捨てに来る連中も決まってて、そいつらはもうじき来る。そしてそれを邪魔する」
蒼空「どうして邪魔するの?」
魔術師「今回のは、埋めたらあかん死体なんや」
蒼空「どういうこと?」
魔術師「〝園芸〟を知らんたぶん素人がな、でっかい闇市で、売ったらいかん植物の種子を誤って売ってしもうた。それだけだったら事は大事にならんかったんやが、闇市でのし上がることしか興味のないクソ密売人が絡んだせいで例の種子の行方が分からなくなってもうた。で、見つかった時には大事や。そのへんのシャブと同じだと思って種子を栽培して育った葉っぱを吸ったアホが廃人以下の外道になる」
蒼空「ゲドウ?」
魔術師「詳しくはまだ知らんでええ。とにかく外道が出現して、ようやく種子の足取りが発覚。マトリ、簡単に言うと役所の猟犬に種子の存在を知られたくない〝園芸〟のプロたちはヤクザを使い、外道を殺し、死体を外道の家に運び入れ、外道の家と葉っぱもろとも燃やす。と思ったらヤクザは肝心の外道の死体を家に運び入れなかった。全部一緒に燃やす約束をしていた〝園芸〟のプロはビックリ仰天。まぁ刑法が重くなったこのご時世、ヤクザは死体を燃やして組員をムショに送って無期懲役にするより、産業廃棄物として山に埋めてなんもなかったことにする方が好きだってことを〝園芸〟のプロは知らんかったんやな」
蒼空「ごめんなさい。アスカ姉の話、途中からちょっと難しくてわからない」
魔術師「まあええわ。とにかくそれで、ウチの出番や。家で燃やさなかった死体を、ヤクザが飼っとるチンピラどもがいつものゴミ捨て場に捨てに来る。チンピラはクマの餌にでもなんになっても構わへんが、燃やさなかった死体が問題や」
蒼空「どうして〝問題〟なの?」
魔術師「外道を生む種子もしくは胞子が体内に残っている可能性がある。あれが勝手に発芽したらメチャクチャ面倒なことになる。せやから土には還せん。完全に破壊せなあかんのや」
蒼空「じゃあアスカ姉はこの山でその死体を見つけたら燃やすの?」
魔術師「そうしたいのはやまやまやけど、〝園芸〟のプロが「もう誰も信用できへんから死体持って帰ってこい」言うてな。自分達の手でちゃんと燃やすそうや」
蒼空「だったら〝これ〟も自分たちでやればいいのに」
魔術師「それをせぇへんのがプロや」
蒼空「どういうこと?」
黒「ヒトが動くとな、痕跡が残って企みは必ずバレる。銃を撃てば薬莢が落ちるのと一緒や。だからプロは最後の最後まで動かん。動かれても自分たちが困らん奴を駒にしてまず動かすんや。そういうもんなんや、世の中は」
蒼空「へえ」
魔術師「おっ。説教しとったらターゲットが来たな。草木も眠る丑三つ時。山は静かやから車の音は意外と響くなぁ」
蒼空「いつ殺るの?」
魔術師「車から降りて死体袋かシャベルを下ろそうとしたところで仕留める。昼間送られてきた情報によれば4人しかおらん。顔は……写真と同じ。頭の悪そうなガキどもや。DSR-1でサブソニック弾使えば静かに狩れる。ソラは暗視ゴーグルつけて、さっきシカを撃ったM40A1で、脳天ぶち抜かれる連中をよう見とれ。言うとくがトリガーに指かけたらあかんで」
蒼空「分かった」
ブロロロロ……チャ。ガタ。バタンッ。
魔術師「エンジン切って、降りてきよったな」
ピョンッ!カチャンッ。カランカラン。
蒼空「一人」
ピョンッ!カチャンッ!カランカラン。
蒼空「二人」
ピョンッ!カチャンッ!カランカラン。
蒼空「三人……あっ、四人目が逃げ」
ピョンッ!
蒼空「へ!?」
魔術師「動く標的を狙い撃つのは難しいが、これも慣れや」
蒼空「すごい……全部ヘッドショット」
魔術師「本当やったらチンピラ四人の若い臓器だけは回収して金に換えたいんやけどな。車に押し込んでプロに送り……」
蒼空「あれ?」
魔術師「どした?……!」
蒼空「枯れた三又の木の隣に、誰か、いる」。
魔術師「……なんやアイツ。雨も降っとらんのにレインポンチョ着とる」
蒼空「子ども?大人?」
魔術師「分からん。しかも……妙な面を被っとる。猿のお面、か?」
蒼空「こんな山の中に、こんな時間に、明かりもつけないで〝ふつう〟の人が、いるの?」
魔術師「……」
蒼空「撃つの?」
魔術師「星しか出てない漆黒の新月やが、あの場所からして、殺しの現場を奴に見られとる。猿面にスターライトスコープでも仕込んどるんやろ。ポンチョの中はM16か?こらもう殺るしかない」
カチャンッ!カランカラン。
闇「「「「「「「ギャアッ!ギャアッ!ギャアッ!ギャアッ!ギャアッ!」」」」」」」
二人「「!?」」
蒼空「カラス?何この声!?樹の上?」
魔術師「………見失った」
蒼空「え?」
魔術師「猿面が消えた」
蒼空「ウソ?あれ、ほんとだ、どこにもいない!」
魔術師「……」
蒼空「アスカ姉。どうするの?」
魔術師「死体袋はまだ車にある。あれだけは絶対に回収せなあかん。ウチが行く。ソラ。お前はウチの車使って先に帰れ」
蒼空「えっ!?」
魔術師「来た道を戻るだけや。高速に乗って、モズバーガー買ったサービスエリアで落ち合う。ええな?」
蒼空「あ、えっと、分かった!」
魔術師「はよせな」
蒼空「アスカ姉!薬莢が、薬莢がどこにもないよ!」
魔術師「落ち着け。……とにかくウチは死体袋から片時も目が離せんから、ソラは周囲を警戒しながら車に向かえ。グロックのセイフティは外しとき」
蒼空「分かった!気を付けてね、アスカ姉!」
魔術師「誰にモノ言うとんねん。そっちこそこんな辺鄙な山で事故なんか起こしたら承知せぇへんからな」
蒼空「アスカ姉!」
魔術師「おお。ちゃんと高速乗れたか。たいしたもんや。次は戦車かヘリの操縦でも教えたるわ」
蒼空「うん!って、そうじゃなくて、大丈夫だった?」
魔術師「何がや?」
蒼空「死体袋はちゃんと、運べたの?」
魔術師「当たり前やん。中身も確認したし、さらに車に縛り付けたわ。して、チャカをこっちの車に移したら、ウチの車はここでいったん乗り捨てて、ソラもこっちの車に乗りや」
蒼空「うん」
ブロンブロン……
蒼空「あの後、また誰かを撃ったの?」
魔術師「いいや。撃っとらん」
蒼空「ほんと?」
魔術師「ほんまや。ここでウチがソラに嘘ついてどうすんねん」
蒼空「……あの猿のお面の人。ライトも持たないで立ってるだけで不気味だったけど、あの関係ない人まで撃っちゃって、アスカ姉が悲しんでたら嫌だなぁって思って」
魔術師「ほんまにウチは一発も撃っとらん。……関係ない人かどうかは知らんが」
蒼空「え?」
魔術師「四人を撃った地点からこの車の停車位置までウチが駆けつけるのに、そう時間はかからなかった。けどな。不思議やねん」
蒼空「何が?」
魔術師「撃ち殺した四人の死体が全部、消えとった」。
蒼空「!?」
魔術師「そのかわり、見たことのない獣の毛が散らかっとったわ。あの猿面の髪の毛じゃなさそうや。オオカミでもいるんちゃうか、あの山」
蒼空「オオカミ……」
魔術師「なのに獣の足跡はどこにもなくて、かわりにロードローラーでなぎ倒したような草木の一本道がある。オオカミかと思ったらまさかの大蛇かもな。しかも毛の生えた」
蒼空「……」
魔術師「まあええわ。ほな行くで」
カランカラン。
二人「「?」」
キィ。
魔術師「何の音や?」
蒼空「後ろの座席の、フロアマットから、聞こえた気がする」
魔術師「……」
蒼空「カラの、カラの薬莢の音……みたいだった」
魔術師「……」
蒼空「……ねぇ」
ギギ。カチャ。バタン。ゴオオッ。
蒼空「アスカ姉?」
魔術師「音の正体はコイツか」
蒼空「その薬莢……」
魔術師「リムド型の真鍮薬莢。7.62ミリのDSR-1のやな。しかも4つ。荷物を詰み替えた時には確かになかった。しかもこの製造番号……」
蒼空「アスカ姉があの時四人を撃ったあと、実は自分で拾って持ってきたんでしょ?ね?」
魔術師「……」
蒼空「……違うの?」
魔術師「布切れが詰まっとるな。ウチが殺した四人の服の切れはしか。なんや、血で文字が書かれとる。ドキドキするな」
蒼空「……」
魔術師「MIHIに……HODIE……それとCRAS……TIBIか」
蒼空「どういう意味?」
魔術師「Hodie mihi, cras tibi……オマエ、今日は無事にメシ食えるかもしれんな。でも明日は無事とは限らんで。お前がメシになるかもしれんぞ。その覚悟はできとるか?そういう意味やな」
蒼空「!」
魔術師「しかも薬莢になんや、唾液にへこみ……嘴で咥えた痕か?どんだけ硬い嘴やねん……どうやら〝ホンマモン〟の同業者やな。しかもドリトルときた」
蒼空「ドリトル?」
魔術師「うちらの業界では動物使いの殺し屋をドリトルと呼ぶ。あの山にドリトルがいるなんて情報は一度も聞いたことがなかったが、まぁええ。久しぶりにスリリングやった。斉天大聖みたいな猿面ドリトルか。機会があれば本気で相手したる。それよりソラ」
蒼空「ドリトル……」
魔術師「おいソラ!」
蒼空「え?」
魔術師「今日の仕事終わったら、何が食いたい?」
蒼空「アスカ姉と一緒だったら何でもいいよ」
魔術師「なんやねん、またしょうもないカワイイ答えを返しよって。なんなら薬莢でも食わせたろか」
蒼空「それは嫌だよ。お姉ちゃんだって薬莢は食べないでしょ」
魔術師「せやな。……今日はあれや、久しぶりに〝寒気〟を覚えたから、火鍋でも食うか」
蒼空「うん!食べる!」
ブロロンッ! ゴオオオオオオオ……
魔術師「……Hodie mihi, cras tibi」
蒼空「えっと……「オマエ、今日は無事にメシ食えるかもしれんな。でも明日は無事とは限らんで。お前がメシになるかもしれんぞ。その覚悟はできとるか?」だよね」
魔術師「ほんまにソラは超がつくくらい記憶力がええな。……にしても、つくづくドリトルらしいなぁ」
蒼空「どういうこと?」
魔術師「この言葉は元々ラテン語の格言やけどな、ファーブルっちゅう、昆虫大好き有名じいちゃんが食物連鎖について語るときに引用したんや」
蒼空「そうなんだ」
魔術師「ファーブル並のドリトル……もし〝そんなの〟と山で戦争せなあかんと時はソラ、メシ仰山食うただけじゃ勝てんで」
蒼空「じゃあどうしたらいいの?」
魔術師「ありったけや」
蒼空「?」
魔術師「7.62ミリ小銃、12.7ミリ重機関銃、25ミリ機関砲、40ミリ擲弾銃、84ミリ無反動砲、120ミリ滑空砲、128ミリ戦車砲、155ミリAGS砲、203ミリ榴弾砲、地対空ミサイル。ありったけの火力を用意して敵地ごとドリトルを粉砕する」
蒼空「できるの、そんなこと?」
魔術師「さあな。やったことないから分からん。けれどそれくらい手ごわいのが山にいるドリトルっちゅうことや。そうや!日本語と英語とフランス語の勉強も兼ねて、『ドリトル先生』と『ファーブル昆虫記』を今度買うてきたる」
蒼空「ありがとアスカ姉!いっぱい勉強してたくさん殺して、僕もアスカ姉みたいにいつか必ずなるから!」
魔術師「ソラはタマキンとキノコついとるからウチみたいな美少女にはなれんな」
蒼空「もうアスカ姉ってば!」
魔術師「そんなことより今一番怖いのはドリトルより火鍋を食った次の日のウンコや。〝園芸〟のプロに死体と薬莢のおまけを届けて、牛乳1リットルをコンビニで買って飲んだら店に乗り込むで」。




