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ホットケーキは至極の味

作者: 燈華

丸く焼き上げてある。

形よし。まあちょっと歪んでいてもそれはそれで美味しそうなんだけれど。


色は小麦色だ。黒く焦げているところはない。

ええ、完璧な焼き色だわ。


そこに大きめに切った黄金色のバターを乗せて、とろりとした蜂蜜を(したた)るくらいたっぷりと。

溶けていくバターと蜂蜜が混ざり合っていく姿のなんと素敵なこと。


いつまでもうっとりと見ていたいところだけれど、焼き立てを食べるのがホットケーキへの最上級の敬意だし、何より美味しいわ。


いそいそとナイフとフォークを手に取り、そっとナイフを入れた。

少しの抵抗のあとすっとナイフが入ったわ。


一口分切って、口に入れる。


程良い弾力としっとり感。

バターのコクと蜂蜜の甘さ、小麦の風味。

そのバランスが絶妙だわ。


もう一口。

もう一口。

もう一口。

……


ふふ、夢中で食べてしまうわね。

さてもう一口と思ったところで我に返った。


「あら、もうないわ」


お皿の上は空っぽ。

いつの間にか全部食べてしまったよう。

そっとカラトリーを皿の上に置く。


しょんぼりとしているとくすくすという笑い声が響いた。


「本当に美味しそうに食べるよね」


私がホットケーキを食べている時は話しかけられたくないとわかっている婚約者は食べ終わるのを待っていたらしい。

その彼の前に置かれているのは紅茶だけだ。


「ホットケーキは至極の味だもの」

「世の中にはパンケーキというものもあるよ」

「あれとホットケーキはまったくの別物よ。ふわふわしているし、生クリームやら果物やらチョコレートやらいろいろ盛りつけられているじゃない」


世の流れがパンケーキに流れていようとも私はホットケーキが好き。

そんな私を彼は否定しない。


「今度、一緒にカフェに行かない? そこではホットケーキもパンケーキも両方あるんだって。僕がパンケーキを食べるから、二人で一口だけ交換して食べてみない?」

「……いいでしょう」

「本当? よかった」


ふわりと彼が微笑む。


小麦色の髪に黄金色の瞳。

私の好きなホットケーキ色の彼。


彼の私を見る目はとろりと甘い。

それには気づかないふり。


でもいつかは言ってあげるわね。

貴方がきちんと言葉にしてくれた時に。


大好きなホットケーキより、貴方が好きよ、って。



読んでいただき、ありがとうございました。

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