私の望むこと
「お待たせ。どう?二人きりでのお話は。なにか弾む話題でもあった?」
部屋に入ってきたシュヴィは、入ってきて早々にそんな深いになることを口にしてくる。
「あれを見てたんでしょ?あんなことがあったのに、楽しくキャッキャして会話が弾むと思う?」
「おや。異世界のお客様でも、流石にうちの天使の心を開くことは難しかったか」
「あっちが勝手に拒絶してくるんだってば」
「⋯⋯拒絶はしてない。これが僕の人間との正しい距離感ってだけ」
目を逸らしつつ、レレルはそんな冷たいことを当たり前かのように言い放ってしまう。
「そう。⋯⋯それじゃ、契約を結ぼうか。まずは、レレルとシャナの方からやろう。そっちの方がスムーズに進むからね」
「分かった」
「それじゃ、移動しようか。ここじゃ設備が足りなさすぎるからね」
「また目隠しすんの?」
「⋯⋯え?」
低い声で戸惑いを口から漏らしたレレルは、信じれれないような、この世に絶望しきったような表情でシュヴィを見下した。
「ちょっと待ってレレルくん。君は変な誤解をしている」
「誤解?女の子に目隠ししてなにかまた変なことでもしてんじゃないの?新しい営業でも始めるつもりなの?この変態奴隷商が」
(口悪っ)
「大丈夫?お客様。こいつになんか変なことされていない?」
「え?いや、特には」
「ちょっとレレル。それどちらかというと僕のセリフだし今からのは必要ないから。廊下がごたつく時間だったから仕方なくしただけ!それだけだから」
「ふーん、どうだか」
「君は僕のことをなんだと思っているの……」
***
シュヴィの誤解がいまいち解けたような気がしないまま、私達は彼に付いて行って、別の部屋へと移動した。そこは、先程の部屋と間取りは似たようなものだったが、唯一違う点は、床一面に魔法陣が描かれて
いることだった。
「すご!魔法陣だ!かっこよ!」
「別に普通でしょ」
「異世界からのお客様からしたら珍しいものなんじゃないの?さて、それじゃ二人とも魔法陣の真ん中に立って」
「おいで、お客様」
「あ、うん⋯⋯」
レレルに手を引かれ、魔法陣の真ん中へと二人で立つ。軽く握られている手から伝わってくる冷たい体温が、何故か暖かく感じる。
(⋯⋯って、なに馬鹿なこと思ってんだろ。冷たいものは冷たいでしょ。それ以上のことなんて無い)
「お客様?」
「え!?な、なに!?」
「⋯⋯あ。いや、僕を買うの、やっぱり嫌かなって」
「え?」
突然言われたことに、私は戸惑ってしまった。何故、そんなことを聞くのか。
「な、なぜ急に⋯⋯?」
「だって、お客様、落ち着かなさそうだから⋯⋯。今になって、怖気付いたのかなぁ、なんて。ほら、手も少し震えてるし、顔も赤い。やっぱり、嫌?」
「うぇ!?へ、あ、あの⋯⋯」
天使みたいな、いや、実際に天使の顔が間近に迫ったら、誰だってきっと冷静でいられない。そんな彼が、心配そうに小首を傾げて私のことを瞳に映しているのだから、余計にそう思う。
「い、嫌では、無い。あなたを選んだのは、私なんだし⋯⋯」
「⋯⋯そう。それなら、良かった」
僅かな微笑に、私は彼のことは正面から見ることが出来ず、目を逸らしてしまう。
「⋯⋯よし。二人とも、もう出ていいよ」
水を差すかのようなシュヴィの発言に少しだけ感謝しつつも、私はレレルから逃げるかのように魔法陣から足早に抜け出した。
「これで、二人は無事に奴隷契約を結べたよ。あ、お金の話は後でしようか」
「はいはい。ちなみに値段は?」
「金貨二十枚でいかがだろう?」
「え」
(ジルクから金貨十枚が別荘買えるくらいって聞いてたし、二十枚っていくらなの?え?それ私が払うの?嫌すぎるんだけど)
その気持ちが顔に出ていたのだろう。シュヴィが笑いを堪えて肩を震わしているのが分かった。
「すごく嫌そうな顔すんじゃん。そんな嫌?」
「嫌。私が一生分かけて払える?」
「シャナが旅行に出かけない限りは払えるよ」
「んじゃギリいけるか」
「旅行?」
「こっちの話」
首を傾げるレレルに、シュヴィは不敵な笑みを浮かべてそう返した。
「さて、二人の契約は終わったし、今度は僕の番だ。シャナ、この契約書に署名を」
「え?う、うん」
シュヴィから契約書とペンを受け取った私は、部屋にあった椅子に腰を下ろし、その怪しさ満点な契約書に署名をした。私が描き終わったと同時に、契約書はするりとテーブルから落ちていく。
「あ⋯⋯」
その紙は、シュヴィの手の中へと収まっていく。
「⋯⋯へぇ。不思議な文字だね。これでバンバ・シャナって読むの?」
「字汚いから、あんま見ないでよ」
「いやいや、汚いなんてとんでもない。僕はシャナの世界の字が読めるわけじゃないけど、可愛い字だと思うよ」
「そ、そう⋯⋯」
(読めないのにこれで通していいのか?)
そんな疑問が浮かんだが、聞いたら面倒なことになりそうだと勝手な確信を抱いたため、その問いを口にすることは無かった。
「⋯⋯うん。これで大丈夫。これで、君は僕の奴隷ね」
「はいはい。⋯⋯あ、ところで、私はお金とかってもらえないの?」
「お金?どうして?」
「だって、私はレレルを買うために大金を払わなくちゃいけないじゃない?」
「そうだね」
「ってことは、私にも値段ってつかないの?」
そう聞いた途端、場が一斉に静まり返った。シュヴィは頭を抱え、レレルは興味がなさそうに隅っこで蹲っている。
「⋯⋯はぁ、君は自分の立場を理解していないらしい。そもそも、僕がこんなことをしているのだって、国に命令されたのと、ジルクに頼まれたからなんだよ。頼まれた場所が違えば、僕はこんな無茶なお願いを引き受けたりしない。お払い箱にされてしまった君に渡されるお金なんて一銭も無いと思うけど、もしお金が発生するとしたら、それは国からの謝礼金やらなんやらだろうね。でも、この国はそんなことしない」
「え?そ、それじゃ、ジルクからは?」
「僕は彼からお金を受け取るとつもりはない。というか、君は処刑されそうなところを危機一髪予言師様のお言葉で回避したんだろう?それだけで十分恵まれていることじゃないか。厄災だか天災だかを運ぶとずっと言われていた君が、延命行きの切符を手に入れたんだ。それ以上になにを望むつもり?」
(なにを望むか、ね)
薄らと目を開いた彼のその言葉を聞いて、なにかに水をあげられたような感覚がした。
この世界に来てから、いや、ずっとあった私の花壇のに蒔かれていた種が、大きな芽を出したのだ。その種は──
「ちょっとシュヴィ──」
「私が望むこと、今決めたよ。⋯⋯ご主人様」
口を割ったレレルを制止して、私は一歩前に出た。
「ふーん?なに?言ってごらん?」
「ふふふ。このクソみたいな世界を丸ごと、私のものにする!」
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シュヴィ・ペグリーについて
路地裏でひっそりと奴隷商と骨董品屋を営む中性的な青年(一応)身体的性別は男だが、本人は無関心。いつも寝ているように目を閉じてるが、眠っているわけではない。しかし、本当に寝てる時もある。そういう時は珍しい素材を出してみよう。爆速で起きて平気な顔して奪っていくぞ
年齢 多分1000歳くらい
身長 176cm(+厚底2cm)
趣味 読書、生物観察&実験
特技 ピアノ演奏
好きなもの アンティーク品、紅茶
嫌いなもの 雨
利き手 両利き
誕生日 10月9日
MBTI INTP-A(論理学者)
種族 「なんだろうねぇ?当ててごらん」




