一目惚れ⋯⋯?私が?
「ん⋯⋯?きみ、だれ?」
「⋯⋯へ?え!?あ、呼んだ?」
彼に見られていることに気づいて、ようやく自分が声を掛けられていることに気づいた。長くさらさらな白髪の裏には、薄い水色のインナーカラーが入れられていた。顔だけ見たら男か女か曖昧だが、少ない布地からちらりと見える上半身で、男性ということはなんとか分かる。しかし、それが無ければ平気で女性と勘違いしてしまうだろう。それほどまでに美しくて、こんな汚い場所には不似合いなように感じる。
「うん、呼んだ。もしかして、僕を新しく買ってくれる人?」
「え!?い、いや。まだそうと決まったわけではないけど⋯⋯」
「そっか」
天使はそれだけ言って、また蹲ってしまった。汚れてしまわないかと、床についてしまっている長い髪が心配になる。
(不思議な人、じゃなくて天使だなぁ)
それから、私は部屋を歩き回って、色んな檻を見て回ったが、あの天使に勝るものはなかった。どこを見ていても頭の片隅にはあの天使の姿が強く焼き付いていた。結局、あれ以降まともに何も見れないまま、全ての奴隷を見きってしまっていたらしい。いまいち働かないぼんやりとした頭で、私はシュヴィの元へと足を動かし始めた。
***
「お、戻ってきた」
「た、ただいま」
壁に寄りかかって読書をしていたらしいシュヴィは、私が戻ってきたのを確認して、読みかけていた本に栞を挟んで閉じた。そんな彼に、私は少し緊張気味の心を携え、歩み寄る。
「どう?良い子いた?」
「良い子っていうか、気になるっていうか⋯⋯」
(な、なんでこんな緊張してるんだろう。ただ、ペットショップとかに行った時に、『あの子が良い!ちゃんとお世話するから!』くらいの気持ちで良いのよ!⋯⋯よし!)
「え、えっと、こっちの少し奥の方に行ったところにいる天使⋯⋯が、一番良いかな〜?って思ってるんだけど⋯⋯」
「天使⋯⋯。あぁ、レレルのことかな。あの子が良いの?」
「は、はい⋯⋯」
(あーもう!なんか顔すっごい熱い!なにこれ腹立つ!)
ただ欲しい商品を指さしただけのはずなのに、私の顔は自分で熱を感じられる程に熱くなり、心臓がこれでもかと早鐘を打つようだった。
「ふふ。そんなにあの天使が気に入ったの?」
「へ!?い、いや別に!?ただの消去法だよ消去法!ほら、他の奴隷だったら、私の手には負えないかな〜って。あの子なら、従順そうだし、大人しそうだし、いいかな〜?って、思っただけ!ほんとそれだけ!」
「ふーん。そっかぁ。シャナはレレルに一目惚れしたんだ」
「なっ!?」
シュヴィの思いがけない一言に、また鼓動が速度を上げてうるさく高鳴る。
「ひ、一目惚れとかじゃないから!なにをどう解釈したらそうなるわけ!?」
「別にいいんじゃない?別に僕は止めないし、そんな法律も規約も無いよ。愛玩用として買う人だっているくらいだし。あぁでも、そういうのはシャナにはまだ少し速いかな。でも、恋愛するだけでも十分だと思うよ」
「だからそんなんじゃないって!話聞けよ!シュヴィがどうしても買えって言うから、仕方なく買うだけだから!そんな、恋愛とか、愛玩、とか⋯⋯そんな用途で買うんじゃないから!ただ、アンタが言うから、仕方なく!あくまでも仕方なくなの!私の意思じゃない!分かった?」
「ふふ。はいはい。よーく分かりました」
全く分かっていなさそうに妖艶に笑う彼に、私は思わず腹が立ってしまう。
(なにがそんな楽しいの)
「それじゃ、色々とお話があるからさっきの部屋に戻ろうか、と言いたいところなんだけど、シャナにはこれから、目隠しと耳栓をしてもらいます」
「え?な、なんで!?行きは何も無かったじゃん!」
不審に思う私の意思を無視するかのように、彼はどこから取り出したのか布を目元に当ててきた。
「ごめんね。ただ、今外に出たら、貴女が見なくていいものを見てしまうから。だから、これは貴女を守る為なんだよ。不安になるのも分かるし、僕のことを信用出来なくなるだろうけど、どうか今だけは、僕に従って良い子にしていて。⋯⋯ごめんね」
彼はそれだけ喋って、私の耳も閉ざしてしまった。まるで、鳥籠に大事にしまうように。私の目も耳も、真っ黒に塗りつぶされてしまった。感じるのは、獣臭い匂いと、私の手を握る彼の冷えた体温だけだった。
「それじゃ、行こうか。しっかり僕の手を握ってて⋯⋯って、聞こえないか」
彼が、うっすらと何か言っているように感じる。しかし、今の私は耳栓をしているから、気のせいかもしれない。内心、漂う不安を必死に無視しながら、シュヴィに手を引かれるまま、ゆっくりと歩いていった。目も耳も塞がれた状態で歩く廊下は、今まで生きてきた中で一番のホラー体験だったように思えた。ひんやりとした手も、私を置いてどこかへ行ってしまうのではないかと、不安が渦巻いていく。
足音のみが響く廊下は、やけに長く、遠く感じた。
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シュヴィさんそんなプレイ癖があるなら先に言ってくださいよヤダー




