素直じゃない
──ということが、馬車の中であったのだ。
(てか、意外とコイツなんか、過保護というかなんというか、凄い私のこと心配してくるな⋯⋯)
まともな親というのはこういうものなのだろうか、なんて柄にもないことを考えついてしまう。私にはもう、両親なんて存在していないのに。
「おい、ちゃんと目元隠せよ馬鹿」
「馬鹿じゃないし!」
声を潜めて耳元で話しかけてくる彼に、思わず私の声も小さくなる。
「⋯⋯それじゃ、さっさと行くか。俺も戻って仕事の続きがあるし」
「はいはい」
私は彼に背中を押される形で、薄暗い路地裏へと歩いていく。その道中、街の人からの視線が突き刺さるようだったが、私はそれらを全て見ないふりをする。彼もまた、不機嫌そうに周囲を睨みつけていた。
***
「ここだ」
「ほへー⋯⋯」
路地裏は、表とはまた違った不気味さがある。路駐に座り込んでいる人達は皆、痩せこけていて、ボロボロの衣服を身にまとっている者ばかりだった。その人達が私達に向ける目線は、興味ではなく、懇願だろう。
「⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯入るか」
「あ、うん!」
何かを察してくれたらしい彼が、趣のある扉を押して、私を中に入れる。その後に自分も入り、扉を閉めた。
「⋯⋯⋯⋯」
中は、奴隷なんてとても売ってるようには見えない骨董品屋のように見えた。店内は薄暗いが、不快感は無い。まだ外は明るいはずなのに、不思議と夜遊びをしているようなドキドキ感がある。そんな、大人が来るお店のように感じた。
(なんか、私の場違い感ハンパないな⋯⋯)
「あ、きたきた。いらっしゃいませ〜」
奥から現れてきた人物に、私は息を飲む。床に付きそうな程の長い青髪に、背丈の高い身体。そしてなにより、整った顔立ちは、男か女かはっきりさせてはくれない。それに眠っているように閉じている目はちゃんと前が見えているのかと疑ってしまう。私はそんな人を、無意識のうちに見つめる。とにかく不思議な人だ。
(お、男?女?背は高いから男性?あ、いやでも、女性でも背の高い人はいくらでもいるか⋯⋯。てか、それ以前に人間?ここ、亜人?とかも売ってるらしいし、本人もそういう可能性だって⋯⋯)
「『この人、男かな?女かな?それ以前に本当に人間?目見えてる?』」
「え!?」
思っていることを言い当てられてしまい、声を上げて大きく飛び退いてしまった。その衝撃で、後ろの棚に背中をぶつけてしまう。
「ったぁ⋯⋯」
「大丈夫!?気をつけてね。色々貴重なものとかも並べてあるから。壊されたら、僕は君に請求書を送り付けなくてはいけなくなってしまう」
「は、はぁ⋯⋯。それは、すみませんでした」
私の謝罪を聞き流すようにその人は歩き出し、私がぶつけた棚を暫く見つめる。
「⋯⋯うん。大丈夫そう。ちゃんと謝れて偉いね」
「は、はい⋯⋯」
私が目の前の人に困惑していると、隣から遠ざかっていく足音が耳に入ってきたことに気づく。なにかと思えば、私をここまで連れてきてくれた男が扉をあけようとしていたところだった。
「じゃあ、俺は戻るから。仕事もあるし」
「え〜?連れないなぁ。折角の再開なんだし、お茶の一杯でもどう?丁度この前、行商人から美味しい茶葉を買ったところなんだよ」
「いい。あまり遅くなってはあの腹黒予言師にまた小言を言われてしまうからな。じゃ、そいつのことは頼んだ。茶と今回のお礼はまた次の機会に」
「あ、待って!!」
扉を開けて去ろうとする彼の腕にしがみつく。彼は、煩わしそうに舌打ちをした。
「⋯⋯なんだ。俺の仕事は終わった。まだ用があるのか?」
「名前!」
「は?」
「アンタさ!最初に会った時、名乗る必要は無いとか言いやがったから、結局名前知れなかったでしょ。だから、今教えて」
「⋯⋯必要あるか?」
「ある!また会うことあるかもしれないじゃん。その時になんて呼べばいいか分かんなかったら困るでしょ」
私の言葉に、男は腹立たしげに眉をひそめている。名前の一つ教えるくらい、何をそんなに躊躇うのだろうか。別に本名じゃなくたっていいのに。
(ただ、呼び名が欲しいだけなんだけどなぁ⋯⋯)
「⋯⋯彼はジルク・ロジャース。王宮で働いている魔導師の一人だよ。ちなみに耳はとんがってないけど、エルフと人間のハーフだったりもする。そして僕の知己」
一向に喋る気配の無い彼、ジルクに痺れを切らしたのか、本人ではない人が勝手に紹介してしまう。
「お前っ!」
「信用を得るために、ある程度の情報の開示は大事だよ。これは、僕から名前一つ明かせなかったおしおきってところかな」
「⋯⋯⋯⋯」
「もし彼に会いたくなったら、王宮でジルクの名を尋ねるといいよ。きっと、良い人だったら会わせてくれるよ。最も、ジルクはそれを望まないだろうけど」
「望まない?なんで?」
私の問いに、ジルクは黙り込んだままだった。国のことはぺらぺらとしゃべってくれたのに、自分のことになるとだんまりだ。
「ちょっと。聞いてんの?」
「お城は良い人ばかりじゃないから、悪い人に連れ去られないかを心配しているんだよ、ジルクは。ね?ジルクは彼女が心配なんでしょ?」
「⋯⋯うるさい!もう帰る!」
彼は拗ねた子供のように怒り、店を後にしてしまった。その時に、見てしまったのだ。林檎のように真っ赤にしてる耳を。
(ほんと、素直じゃない人だなぁ)
「⋯⋯さて、長い間立ち話させて悪かったね。奥の部屋においで。ゆっくり話そう」
「あ、はい!」
私は、妖艶な仕草で差し出された男か女かも分からない人の手を取り、大人しく誘導に従うのだった。
繋がれた手が異様に冷たく感じるのは、この人が冷え性だからだろうか。それとも人間じゃないから──
(なんてのは、考え過ぎか)
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お前も名乗れよ




