似合わないアクセサリー
「よし!そうと決まったら話は早いね。そのお友達って奴にも話しとくから、教えてよ。そっちの方が色々便利でしょ?」
サーシャは意気揚々とそう声を上げたが、私の心はその意見を否定していた。
「⋯⋯えぇ」
「おい、なにその『えぇ』は。ボクが信用出来ないっていうわけ?」
「そりゃ出来ないでしょ」
私が素直にそう言えば、また後ろから笑いを吹き出す声が聞こえた。その一方で、私の正面に座るサーシャは、テーブルに置いていた拳をぷるぷると震えさせている。
「お前さぁ⋯⋯!ふん!まぁいいや。ボクの玩具になってくれるなら、それで十分。だけど、ボクの満足のいく結果にならなかったら、その時は覚えておけよ」
そう言い残し、サーシャはソファから立ち上がった。
「おいリンダ、歩け。帰るよ」
「畏まりました。では皆様、我々はこれで失礼致します。先程お話されていたことに関しましては、詳細が決まり次第こちらに書面をお送り形でよろしいでしょうか」
「え、こっちに来るの?」
店主であるシュヴィは、リンダと呼ばれたメイドの言葉にそう首を突っ込む。
「別にいいんじゃない?そういうの送れる場所他に無いし」
「うん。それにここだったら、僕達も気軽に来れるし」
「奴隷を売っている店に気軽に来ないでよ⋯⋯。まぁでも、手紙をここに送るのはいいよ。その分、シャナにはなにかして払ってもらうから」
「うげ。⋯⋯まぁ、金要求されないだけましか。よし、んじゃ、それでお願いします」
リンダさんにそう告げると、彼女は軽く頭を下げる。それを見たサーシャが、不機嫌そうにこちらへと歩いてきた。
「⋯⋯話終わった?なら、さっさと帰るよ。この異世界人のせいで余計な仕事が増えたんだから」
「畏まりました」
リンダさんはもう一度深く頭を下げる。そして、礼もなくカツカツとヒールを鳴らして歩いていくサーシャの後を追っていった。
「⋯⋯はぁ、どうなることかと思った」
シュヴィは、扉が閉まったのを確認してから、深く溜息を吐いて崩れ落ちて行った。
「本当、肝が冷えたよ。僕、あの人あんま好きじゃないんだよね」
「の割には、結構笑ってなかった?なんかちょくちょく変なのが聞こえてきたんだけど」
「それとこれとは別だよ。ああいう馬鹿みたいに幼稚な子供が無様になにかを物乞いする様が最高に面白いんじゃないか。僕だと、ああなる前に潰しちゃうから、中々見れないんだよね。あ、そういう意味では助かったのかも。もしかしたら、ここ吹き飛んでたかもしれないから。いやぁ、来てくれてありがとう、シャナ」
(やば)
瞳を閉ざしたまま楽しそうに微笑む様子を改めて、シュヴィがどのような存在なのか分からなくなってきた。
「ところで、二人はどんな用事でここまで来たの?僕になにか用事だった?」
「うん。このリボンの魔力が誰のものか調べて欲しいんだ」
「リボン?」
(⋯⋯あぁ、あの時ぶつかった時のやつか。そういえばなんか取ってたな)
レレルは、ポケットに入れていたらしい細いリボンを取り出してシュヴィに見せる。それを受け取ったシュヴィは、すぐに溜息を吐いた。
「はいはい。捨てていいよ」
「え、ちょっと!なに捨てていいよって!せめて誰のものかくらい教えてよ」
私がそうねだれば、シュヴィは分かりやすく不満を顔に出した。
「⋯⋯エミール・フェブラン侯爵っていうすごく嫌味な貴族が居るの。その嫌味な貴族のものだよ。一体どこで会ってきたの?」
「いや、多分そのエミールって奴とは会ってないよ。僕達が会ったのは、その奴隷だと思う。随分みすぼらしい恰好してたし、どう見ても貴族の振る舞いでは無かったから」
「そう⋯⋯。どの道、面倒なことになったね。⋯⋯あ、あとずっと言おうと思ってたんだけどさ、シャナ、その肩に付いているアクセサリー、似合わないから辞めた方がいいよ」
「は?」
シュヴィに言われて、肩の辺りを手で触る。そこにはなにもないように思ったが、なにか固いものが触れたような気がした。しかし、あまりにも小さくて、上手く掴むことが出来ない。私の苦戦している様子を見て、痺れを切らしたらしいシュヴィが、私の肩に手を伸ばし、「アクセサリー」とやらを手の中に収めた。
「なにそれ?」
「なんだと思う?」
「え?うーん⋯⋯」
頭を悩ませるが、奇怪なそれは新種の虫しか回答が出てこない。
「⋯⋯まさか、盗聴器?」
「は!?」
私に代わって答えたレレルの回答に、驚きの声を上げてしまう。そんな恐ろしいものが、ずっと私の肩に引っ付いていたのだろうか。
(そんなもん私に付けて意味あるわけ!?⋯⋯いや、ありそうだな。サーシャがあんなに必死になるくらいだし。異世界人の需要パねぇ⋯⋯)
「せいかーい。魔力隠密を掛けて気付かれないようにしていたみたいだね。まぁ、僕にはバレバレだけど。これを見抜けないなんて、あの子供もまだまだだなぁ。それに、彼のお抱えの魔導士も三流以下らしいね。いや、自称魔導士のただの魔法使いなのかもしれないなぁ。随分と雑な作りだから」
シュヴィは楽しそうに盗聴器を掲げてそんなことを口にしていく。
「けど、この盗聴器の素材だけはいいね。僕が貰おうかな。いいでしょ?シャナ」
「どうぞご自由に。けど、盗聴器ってことは、サーシャとかマトローナとの会話とかも全部聞かれてたってこと?大分ヤバくない?てか、今も聞かれてんじゃないの?」
「それは無いよ。もう操作権は僕に渡ってるから」
「はっや。いつの間に⋯⋯」
「ふふふ。なにに使おうかなぁ。解剖しても面白そうだね」
随分と浮足立ってるらしく、シュヴィはもう私達なんてお構いなしといった様子だった。
(めっちゃ気に入ってんな⋯⋯)
呆れながらもシュヴィに目を向けているところに、後ろから服を軽く引っ張られた感触がした。それに反応して振り返れば、犯人であるレレルが耳元に顔を寄せてきた。
「用事は終わったし、シュヴィが夢中になっているうちにさっさと出よう」
「⋯⋯そうだね」
私達は、シュヴィに気付かれないように、リボンを回収して店を後にしていった。
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