人を奴隷扱いすんのやめてもらえます?
「では、こちらでお待ちください。後程担当の者が参ります」
⋯⋯そう言われて、二時間は経過した。私は二時間も、この異世界味が溢れる王宮の客間に待たされている。そんな空間でやれることといえば、ぼーっと秒数を数える程度だ。そこら辺のものを触ったり眺めたりなんてしたら、余計な罰を増やされそうで、立ち上がることすらも憚られる。
「暇だぁ⋯⋯」
「お待たせ致しました」
落ち着いた男性の声が扉の方から聞こえる。そちらの方に目を向ければ、眼鏡をかけ、長い黒髪を下ろした青年が立っていた。彼は歩みを進めていき、私の正面のソファへと腰を下ろす。
「⋯⋯あの、あなたは?」
「名乗る必要は無いと陛下から言われています。それより、貴方の罰が決まりましたので、そちらをお伝えしましょう」
「はいはい」
溜息交じりに適当な相槌を打つ。この世界の人は、私とまともに話をする気が無いらしい。まともなマナーも教われないほど治安が良くないのだろうか。
(ここまでくると、もう呆れちゃうよね〜。私、上手くやっていけるのかなぁ)
「転生者、お前は」
「叉那です。番塲叉那」
転生者という呼び名が気に入らず、そう自己紹介をしてみると、彼は怖い顔で私を睨みつけてきた。ブラック企業に疲れて三徹をした前世のお姉ちゃんそっくりだ。
「⋯⋯⋯⋯」
「あ、シャナ・バンバって、異世界風に言った方が分かりやすかったですかね?叉那が名前で、番塲が名字なんですよ。かっこいいでしょ」
「⋯⋯シャナ。お前は、商人シュヴィ・ペグリーの元へ受け渡すことへとなりました」
「⋯⋯⋯⋯え?それだけ?」
「あぁ、それだけだ」
死刑に比べたら、随分あっさりとしているように聞こえる。てっきり、牢屋にでも入れられるのかと思っていた。
「ほ、本当にそれだけ?シュヴィ・ペグリーって人がどんな人かは知らないけど、死刑に比べたら軽すぎません?」
「お前は本当にそう思っているのですか?」
「え?えぇ。は、はい⋯⋯」
私が頭上にはてなを浮かべながらそう返事をすると、男性は溜息を吐いて話し出した。
「⋯⋯詳しい事情は言えないが、シュヴィが扱ってる商材は奴隷だ」
「ど、奴隷⋯⋯?」
「あぁ、種族は様々で、お前みたいな純粋な人間もいれば、獣人やドワーフ、エルフに天使のなりそこないなんかもいる。彼と直接言葉を交わした回数はそう多くはないが、お客サマらしい奴からは、躾が上手という評判を耳にしたことはある。人間だろうが亜人だろうがなんだろうが、よくしつけてから商材として売り出すらしいぞ。一体、どんな躾をされているんだろうな」
「ひ、ひえ⋯⋯」
(なにその意味怖!最早意味が分かったら死ぬ話じゃん!意味死ぬじゃん!字面悪!)
ぶるぶると鳥肌立つ肌を抑えるように、腕を組んで二の腕の辺りをさする。
「ね、ねぇ、その躾の内容とかって、教えてもらったり⋯⋯」
「無理だな。知っていようがいなかろうが、話すことは出来ない。守秘義務って言葉があるんだ。馬鹿なお前には一生守れなさそうなものがな」
「守秘義務くらい守れるよ!こう見えて口は固いんだから」
(それよりもこの男、部屋に入ってきた時に比べてめっちゃ態度雑になったな)
口元に軽く笑みを浮かべていることもあり、この部屋で初めて言葉を交わした瞬間に比べたら、案外打ち解けやすい性格のようにも思えてくる。
(いや、打ち解けやすいは違うか。こんなとこで働いてて、私を奴隷として売り出そうとしてるんだから、どうせとんだ性悪男なんでしょ。騙されないんだから)
「⋯⋯さて、伝えることは伝えた。お前は今から馬車に乗せられてその商人の元へと運ばれる」
「え?今から?一日くらい泊めてくれたりしないの!?」
男に縋るようにそう言えば、彼はなにを言っているのか理解出来ないといったような嫌悪が込められた眼差しを私に向けてきた。
「はー⋯⋯。お前は自分の立場というものを理解しておいた方がいい。いいか?処刑から追放になっただけありがたいことなんだぞ。それをしっかりと理解して⋯⋯」
「あーもう!分かりました分かりました!⋯⋯全く。皆予言師の予言なんて馬鹿みたいなもの信じちゃってほんと馬鹿みたい。てか、あの予言師って結局なんなの?王様もめちゃくちゃ信じちゃうほど凄い人なわけ?それとも、あのおじいさんの頭が悪いだけ?」
私の言葉を聞いた目の前の男は、また睨みをきかせてきたが、すぐに呆れたように溜息を吐く。
「⋯⋯お前は、俺がそんな悪口を軽く受け流せる立場の人間だと思っているのか?」
「え?知らなーい。もしダメな立場だとしても、今は軽く受け流してよ。私死んで異世界来たのに死刑宣告されたばっかだからさ。すっごく傷ついて傷心中なの。えーん」
目元に軽く握った拳を添え、涙を拭うようなジェスチャーを大袈裟にしてみせる。それを見た男は、こめかみに皺を寄せて、不機嫌そうに舌打ちをするのみだった。
「⋯⋯⋯⋯もういい。おい立て。移動するぞ」
「はぁ。⋯⋯はいはい。全くもう。皆せっかちなんだから」
私は未だに名の知らぬ男に連れられるまま、王宮を後にして馬車へと乗り込むのだった。
馬車なんて御伽噺でしか聞かないものに胸を弾ませてみたかったが、生憎とそんな気分には微塵もなれなかった。
(はぁ⋯⋯。これも、自分で命を絶った罰、だったりするのかな。なんて、馬鹿馬鹿しいか)
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幼気な女の子を冤罪扱いだなんて⋯⋯なんてひどい国なの⋯⋯




